番外編2 ある男が去ってからの日:Sideマゼンタ
ジンがジェフたち『華』の元でレベリングに勤しんでいる頃。
「はい、今回もお疲れ様でした……」
ハクタの町冒険者ギルド、依頼受付係の私はいつも通りの業務をしています。
今報告してくださっているのは、ちょっと遠くの町からハクタまでの護衛依頼を終えた鉄冒険者の方。この町を拠点にしていて、今回のような遠征系の依頼をよく受けに来てくれます。
「どうしたのマゼンタちゃん? 今日は元気なさそうだね?」
「あ、いえ! そんなことありませんよ、あははー……」
「そうかい? 俺みたいにマゼンタちゃんから元気を貰ってる奴も多いからさ、何かあったら相談してくれよ」
冒険者の方はそう言い残してギルドから出て行きました。
……同じような言葉をかけてくれる方はこれで何人目かなあ。
そんなに暗くなってるかなあ、私。
「じゃあマゼンタ、あとお願いね」
そう言って、今度は隣に座っていた受付係の先輩が席を外します。先輩はこれからランチの時間。
ちなみに今はお昼前、日中では最も落ち着いた時間。
理由は朝に張り出された依頼がほとんどなくなって、朝帰りで報告してくれる人も昼までには終えて先輩みたいにランチの時間にする人が多いから。
ちなみに私はちょっと前にランチが終わってるから、先輩が戻ってくるまでは1人で受付に座ることに。
決して虐められてるとかじゃないですよ、シフトでそうなっているんです!
「夕方からは忙しいからね、暗くなってばかりいないで頑張らないと!」
いつも通りなら、夕方はその日に依頼を受けた方の報告でギルドがすごく混雑するんだよね。朝と夕方は本当に戦場で……もう受付係になって3年は経つけど、未だに慣れないのは体力がないからなのかなあ。
気分転換のつもりで椅子から立って伸びをしていると、
「マゼンタ?」
「うひゃあ!?」
いきなり背後から声をかけられてすごい悲鳴が出ちゃった、恥ずかしい……。
「シアン先輩ですか。驚かさないでくださいよもう……どうかしましたか?」
私の質問に、シアン先輩はため息で返してきます。
「そっくりそのまま、同じ言葉をマゼンタに返すわ。本当にどうしたの? 暗いのはお昼休憩だけかと思っていたら、仕事中でもその調子だとは思わなかった。いつも元気な貴女らしくもない」
ゔ、シアン先輩にも注意されるくらい凹んでるのね私。
この数日で変わったことといえば、やっぱり……
「ジンさん、本当にどこに行っちゃったんでしょう……?」
「彼のことは私も聞いたわ。例のゴブリンを討伐して、魔石の報酬を受け取るどころか翌日の早朝にはこの町を発ったのよね? よほどの事情があったのかしら……それにしてはあの時何も……」
最後の方はよく聞こえなかったけど、シアン先輩もジンさんのことは知っていたみたい。私も
ギルドの職員に通達された情報は覚えてる。
ギルドでは機密扱いになってるんだけど、ジンさんがゴブリンのボスであるゴブリングレートを討伐したことはほとんど間違いないみたい。
機密にする理由は、ジンさんが職業を得たことを隠すため。でも冒険者の人たちはジンさんが無職だってのは知ってるはずだから、銅に昇格したのを見かけたら何かしら探りを入れられると思うんだけど……他に何か理由があるのかな?
それにジンさんが何の職業になったのか、王金冒険者くらいの強さの魔物をどうやって倒したのか、みたいな詳しい情報は私みたいな下っ端までは回ってこなかったんだよね。もしかしたら、ギルドマスターと仲の良いシアン先輩なら何か知ってるかもしれないけど。
なーんて私が思っていると、そのシアン先輩は私の顔を覗き込むように話しかけてきました。
「ごめんねマゼンタ、自分の世界に入っちゃって。私も久しぶりの買取係だから、何かポカしたらフォローして頂戴ね?」
「し、シアン先輩なら大丈夫ですよ!」
私も同じような感じでした、なんて言わなくてもいいよね。
そういえば、シアン先輩がカウンターに入るのは久しぶりなんだよね。たぶん、あのゴブリン侵攻以来かな。
ハクタの町を騒がせたゴブリン侵攻。1000匹とも2000匹ともいわれる大量のゴブリンたちが街に迫る途中、シアン先輩はギルドマスターとなんと魔人の魔術師と戦ったらしいんです!
魔術師といえば、才能ある魔法使いだけがなれる上級職業。その魔人はギルドマスターと同じくらいの実力で先輩も歯が立たなかったって言ってたけど、私みたいなよわよわ僧侶だったらそもそも立ち向かえないよ……。
それに受付に入らなかったこの数日間は、魔人みたいな危険人物が出回っていないかパトロールしていてシアン先輩もギルドマスターについて回ってたって話だから、全く歯が立たなかったってことはないはずだよね。
流石は元魔鉄冒険者だなあ、憧れちゃうなあ。
「なあにマゼンタ、私のこと見つめて」
「いえいえ! 何でもないですよ」
「失礼します、ギルド便です」
ちょっと恥ずかしくて誤魔化していると、受付に男の人が駆け込んできました。ギルド便、の言葉に私もシアン先輩も表情が引き締まります。
ギルド便は、ギルド間での文書のやり取りに使われる専用の郵便です。大体はギルド本部からの通達で、ハクタみたいな辺境には月1ペースで来ることが多いんですが。
「ハクタの町ギルド、マゼンタが受領します。配達ありがとうございました」
お礼を告げると、男の人は一礼して駆け足で去って行きました。
「この時期にしては珍しい、どこから来たの?」
「差出元は……モルモの町ですね」
「ハクタの北の森、ここから一番近い町ね。ゴブリン侵攻と関係あるかもしれないから早く開けてみましょう」
私は頷くと、ペーパーナイフで封を切ります。
ギルド便は、ギルド職員が受け取った場合はその場で開くことが義務付けられています。内容次第では即座の対応が必要となるからです。
「ふむふむ、中身は嘆願書のようですね。ええと……!?」
これってどういうこと……? なんで、ええ!?
「それで、仕事中は気分最悪、ご飯に連れて行ってもずっとこんな感じなのよね」
「ああ……なるほどっス」
「シアンぜんぱい、アルビーざぁん、聞いてますかあ……」
テーブルでいっしょにおさけを飲んでいるのは、シアンせんぱいと、受付つながりでむかし知り合ったアルビーさん。
たしかに、たしかにね、どこに行ったか知りたかったよ?
モルモの町にちゃんといるってわかっただけでもうれしかったんだよ?
「でもそれが、なんできょぎほーこくのないようなのよおお…………」
「あー、虚偽報告とか言ってる気がするっスけど。部外者のウチがここにいて大丈夫なんスかね?」
「口外しなければ別にいいわよ。私1人だと辛すぎるから、貴女にも声をかけたわけだし。……マゼンタはいい後輩だし普段の食事はここまでじゃないんだけど……」
「ふたりども、ぎいでまずかああ……」
わたしは今、とにかくかなしいんです! このかなしみをはきださないとと死んじゃうんです!!
「……これはもう、本人も何が何だかわからなくなってそうっスね」
「私もそう思うわ」
「でも意外っス。マゼンタちゃんが冒険者の1人に入れ込むタイプだったなんて。お相手は誰っスか?」
「……まあ、ここまで聞いているし仕方ないか。つい最近冒険者登録した青年よ。名前はジン。珍しい黒髪黒目の冒険者だし創薬ギルドにも行ったことあるから、貴女も知っているかもね」
「黒髪黒目のジン殿ってあれっスか、石冒険者の。魔道具の話で盛り上がったのを覚えてるっス」
「今、ジンさんのこと石冒険者って言いましたあああ!?」
「うええええ!? なんスかなんスか!? 揺らさないでほしいっス!!」
「あの『てっつい』のせいでえええ! きっとジンさん、いまも不安でいっぱいですよきっとおおお……」
「あの、シアン、先輩、これ、止めて……」
「何も知らなかったから仕方ないけど、貴女が悪い」
「そんな殺生なあああ……」
「あのじゃまものたちのせいでえええええ……」




