21 仮面の下は……
一通り話し終わったジンは、大きく息を吐いて手帳とペンを机の上に置く。
聞きっぱなしのジェフとアンドレはノートの文字を見たまま動かず、何も言わない。
(頼むから何か言ってくれ……それとも何か間違えただろうか……?)
ジンは転生したとはいえ、前世でも30代に届いていない作業員。こういう嫌な沈黙には慣れていない。
さらにしばらく考え込み、時折顔を見合わせたりジンに聞こえないように話をしていた2人だが、先に口を開いたのはやはりジェフだった。
「うーんとだな、魔王よりも遥かに突拍子もない話でな。訳がわからなさ過ぎて逆に質問しづらい!」
あっけらかんと胸を張り開き直ったジェフ。
『我らは元々ジンという“コレクターの盗賊”を女神の遣いのような、この世のものではない存在ではないかと考えていたのだ。ある意味正解であったが、まさか別世界の人間であったとは思わなんだ』
付け加えるように話したアンドレは、表情が見えないためにわかりづらいが、驚いているであろうことは容易に予測できた。
「そ、そうか。まあ俺としても詳しく説明できないしわからない部分もあるからな。そうだな、俺がこの世界をよく知っていると思えるよう知識を頑張って伝えようかな」
そう言い、ジンはこの世界に住む彼らに馴染みやすいと思われる剣士や盗賊、義賊を中心とした職業の話をした。
ただし突拍子もない話ではまた訳がわからないことになりそうなため、この世界で通用する事柄のみを断片的に話した。
それすなわち、能力やスキルの内容、スキルの取得レベルなどなど。ジンの頭にあるEWOの記憶を引っ張り出せば造作もないことだった。
『確かに、剣士の職業で得られるスキルは何一つ間違っていない。ジンの言う能力、というのも他の職業と比較した場合凡そ合っている……というよりジンの情報こそが正確なものなのだろうな』
ジンが一通り話した後、唸ったのはアンドレ。その横のジェフはアンドレよりも更に真剣な態度で返す。
「義賊もそうだ。他に居るかどうかも怪しい職業を知ってるってのは、少なくとも一般人の持てるそれではないよな……教会の回し者とかじゃないんだよな?」
その質問に対し、ジンは力強く首肯する。
「ああ、教会とは無関係だ。とはいえ女神文字がわかっている時点で、全く無関係かと言われたら微妙だけどな」
「確かにそうかもな」
『とはいえ今の知識は、人間としてはなんとか得られる知識であろう……我としてはもう一押し欲しいところだ』
アンドレの発言に、ジンは考える仕草を取る。
「慎重だな。アンドレやジェフだけじゃなくて、この世界の殆どの人が知らないであろう情報ならまだいくらでもあるんだが……」
「おいおい、まだあるってのか?」
「まだ、じゃなくてまだまだ、だ。今俺が話したのは本当に一部分。真面目に俺の知識を全て話そうとしたら、夜明けまで喋りっぱなしになるぞ」
うへえ、とジェフは苦笑いとともに後ずさる。
ジンが話したのは今いる3人の現在の職業について。
その先にある最上級職やEx職、それ以外にも検証の必要なシステムも含めた場合はこの比ではない。
(そもそもこの世界で、全ての最上級職があるかは怪しいんだけどな……)
ジンはマゼンタから、Ex職の勇者と最上級職の剣聖は世界のどこかにいると聞いた。
ではそれ以外は?
冒険者ギルドのネームタグでも、冒険者の職業は確認できない。それに職業持ちはこの世界に住む15歳以上の人間全てだ。極端な話、町に住む一般市民がとんでもなく強い職業を持っていてもおかしくない。
いずれ職業を総ざらいすることも必要になるかもしれない、とジンが考えていると、アンドレの声が聞こえてきた為に思考を中断する。
『……我としては夜通しまでは求めておらぬ。我の仮面の下を見て、素直に能力を言えるなら一先ずは信じられる』
言いながら、アンドレは自身の仮面に手をかける。
そこに待ったをかけたのは隣に座るジェフ。
「おいおいおい、アンドレが俺以外の相手に仮面を取るのなんて初めてじゃないか!? どういう心の変化だよ?」
『強いて言えば直感だな。極端な話“女神サマ”に導かれたのは我とジェフ、2人だけといって良い。文字を読めたのが我らだけなのは、きっとそういうことなのだろう』
一息ついて、アンドレは仮面を持つ指にグッと力を入れる。
『それにな、我が持つ疑問や悩みにもきっとジンは答えてくれると、そう思うのだ』
認識阻害の仮面を外すアンドレを見ながら、ジンはしっかりとスキルを発動させる。
「“観察”っ、そういうことかよアンドレ……力がないとか言われていたのも納得だ」
仮面の下のアンドレの素顔に、ジンは腰を抜かしそうになる。
その様子を察知してから、アンドレは笑いながら答える。
『そうかそうか、あ奴らとの戦いが聞こえておったか。さあ、我からの質問だ……我の種族は何だ?』
ジンは観察結果を確認するよりも早く、歌うように言葉を紡ぎ始める。
「種族スケルトン系。……種族レベル30ならスケルトンのままだな。人間と比較して、器用さ素早さに上昇補正、物理攻撃力物理防御力に下降補正。今のレベルなら“死霊の威圧”が使える。俺との模擬戦や『鉄槌』戦で見せた殺気の正体ってもしかしてこれか? 種族特性として寝食不可。闇属性、呪術、即死、魅了に耐性。打撃、光、神霊、浄化攻撃が弱点。あとはそうだな……」
動く骸骨!!




