12 空飛ぶ敵を倒すには?
ジェフ率いる義賊の拠点で一夜を過ごしたジンは翌朝、前日と同じようにピクト山まで来ていた。
(今の俺はジェフたちに拉致されている……ことになっているが、ビッグバードは初めて会う敵でかつ、レベルもピーマンと同じでそこそこ高い。ここら辺にいることがわかっている今、是非とも討伐しておきたい)
そう思いながら、昨日とは異なる広場に肉を置いて、物陰から様子を見る。
昨日使った“オオカミの肉”は、持って帰るには少し憚られる臭いと状態になってしまったので、代用として白ウサギから取れた“ウサギの肉”を使うことにした。
(空を飛ぶ相手との戦い方か……)
EWOでは空中を飛んでいようが宙に浮いていようが、最もリーチの短い素手で攻撃を当てることができた。ゲームバランス的な処置なのだろうが、転生先のこの世界ではそうもいかない。
(地球に生息する一般的な鳥は、だいたい100メートルくらいの高さは飛べるってネットで見たことがある。ビッグバードはそれより遥かに大型の鳥。それくらいの高さなら軽々飛べるだろうし、もし警戒されて高所に離脱されたら、手の打ちようがない……白うさぎ以上に短時間で倒すことを心がけないと)
今回ジンは、対飛行魔物の戦い方として2通りの準備をしてきていた。
方法が違うだけでコンセプトは同じ。“一度降りてきた相手を空中に逃がす前に討伐する”だ。
(いずれは上空を飛んでいる状態の相手でも倒せるようになりたいもんだが……実際にやろうとすると、こちらも“フライト”の魔法を使うか、攻撃魔法でも覚えない限り厳しそうだよなあ)
“フライト”は言葉通り空を飛ぶ魔法だ。しかしゲームであるEWOは3次元的な動きをするにはもちろん限界があり、せいぜい地面に設置された罠や毒沼の回避、混戦状態を飛び越えて本陣に向かう、などの使い方がされていた。
(今まで俺の知る魔法が全て使えていることから、この世界にも“フライト”の魔法は存在する。だとすればどんな効果になるのだろう……零戦みたいな超軌道ができるなら、盗賊系の超近距離型でも戦術の幅が大幅に広がるけれど……ううむ)
ジン自身の最終目標職業である財宝探索家は、取得職業枠の関係上、あと1つ最上級職を取得できる。
“フライト”や、その他空中戦を強化できる職業は確か……と考えを広げるが、頭を振ってその妄想を追い出す。
(今は魔物の索敵中だ。余計なことを考えて敵を逃してしまったら目も当てられない)
そう考え、再び集中してウサギの肉を眺める。
鳥の影も形もないが、今日は来ると信じて。
ジンが何度か妄想と現実を行き来すること、しばらく。
(この影は……ついに来たか?)
薄く、大きな円形の影が広間に映っては消える様子を見て、ジンは上空を見上げる。空にはウサギの肉の様子を見るように滑空する鳥が3体見えた。
距離が離れているためか“気配探知”に反応はしないが、地上からでも色の判別はなんとかできる。間違いなくビッグバードだ。
(今更ながら、“気配探知”の効果範囲は自分の位置から球状に広がっているんだな……さて、ギルドで出てた依頼の討伐目標は5体。残り2体は別の群れだったかもしれないな)
そう考えていると、3体の鳥は徐々にその高度を広場に向かって落としてきているようだった。
瞬きごとにぐんぐんと距離を縮め、ついには着陸する。EWOのグラフィックではビッグバードは常に空中を飛んでいたため、地上に足をつけているビッグバードを見たのは初めてだった。
(うーん、思っていたより少し大きいかな。まあ、小さくないならやりやすい)
小さい場合はナイフを突きつけるのにも、物を当てるのにも苦労するからな、と考えながら今の状況と次の行動を整理する。
ジンから彼らまでの距離はおおよそ20メートル。今のジンの足でも数秒はかかる距離だ。その距離をどう埋めるかというと、
(やっぱ最初はこれだよな!)
取り出したのは3本の投げナイフ。ハクタの町を出てからずいぶんお世話になっているそれを、ジンは走りながら順番に投擲。
ビッグバードの側面を狙ったナイフの一本目は、すこし狙いが外れて尻に命中した。
「グェェェエ!?」
ビッグバードは大きく鳴き、じたばたと悶絶しているようだった。
その声に驚いたか、ほかの2体はその場から大きく後退。後退したあとで投げたはずの3本目のナイフを含め、残り2本のナイフは空を切った。
(くそっ……スライムの時もそうだったが、やっぱりEWOのときの癖は抜けないな。今後の課題、だな)
EWO廃人の彼にとって最大の弱点は、今のビッグバードの行動のように、ゲーム通りにいかなかった場合の対応力がないこと。
EWOの挙動通りならこちらに目線を向けたりはするが、大きく動かないはずなのだ。
仮にこれが戦いを大きく分ける場面だった場合、致命的なミスになりかねない……そう考えた上での結論だった。
さて、残った2体のビッグバードは敵目掛けて突撃してきた。
何となく翼部分が光っているように見えるのは、ビッグバードのスキル“強攻撃”だろうか。この場合のダメージは、
(今の俺なら乱数6発で死亡かな!?)
そう焦りながらも、ジンは交錯までに2つ目の策の準備をする。
腰の後ろの杖には、魔力を既にある程度流してある。残りはタイミングを合わせて、
「“スモーク”!」
言葉を紡ぐと同時、ジンの周囲3メートルの半球状に真っ白な煙が発生。ジンはもちろん、ビッグバード2体をも飲み込んだ。
元々は盗賊19レベルで取得できる風属性魔法“スモーク”。効果は自分の周囲に煙を3秒だけ発生、自分の姿を視覚的に隠すことで、安全に逃走やアイテム使用を行う……というのが本来の使い方だ。
ジンは風の祝福の杖を取得した時点から、この魔法の可能性についてジンは思い当たっていた。
煙の中に敵を巻き込んだ場合、こちらの攻撃は可能か、ということだ。
ジンは握った短剣を、魔法発動直前のビッグバードの位置と“気配探知”を頼りに全力で振る。
それが何かを切り裂いた後、感じていた気配は地面に落ちてもがくように暴れているのがわかる。
霧が晴れると、翼をばたつかせてのたうち回る2体のビッグバードが目に入った。
暴れる、というのがどのようなダメージとなって現れるかわからないが、初めて会った敵に対してやらぬ訳にはいかないだろうとジンは考え、スキルを実行する。
「“ものをぬすむ”って痛?!」
ジンの手とビッグバードの体が光り、ものをぬすんだまではよかったのだが、ジンは結構手痛い反撃を食らってしまった。
程度はわからないが、痛みだけなら異世界に来て最も痛かったかもしれない。
「もしかして、“カウンター”だったりするのか? 暴れているならビッグバードが俺を攻撃時に認識しているわけではないと思ったんだが……」
検証すべきことがどんどん増えていくなと思いつつも、ジンは一旦呼吸を整え、下級回復薬を2つ煽る。仮にカウンターが成功なら、ジンのHPの2〜3割程度は削れているはず。安全に狩りができないと判断したためだ。
なお残る2体は“観察”の結果、ぬすめるアイテムを持っていないことが分かったので早々に投げナイフで倒してしまった。
「ふうう……事前に試した杖の効果ってわかってるとはいえ、一気にMPを持っていかれると普通とは違う疲れが身体に残るなあ。俺自身が今後すぐにはやらないが、大魔法の発動直後は気をつけてもらうか前衛のフォローが必要かもな」
風の祝福の杖をはじめ、各種“祝福の杖”は本来のレベルを超えて魔法を使うことのできる破格の性能を持っているが、デメリットは小さくない。
習得レベルとの差の2倍が、本来のMP消費に加算されるのだ。従って、今のジンがスモークを使うには、14MPが追加で必要になる。
「最大MPと消費MPがEWOと同じだと考えれば、今の俺が“スモーク”を発動できる回数は1回切り。正式に取得しても連続では5回が限界。MPの少ない盗賊系の宿命とも言えるが……本気で魔法職の取得も視野に入れようかな?」
ジンはそう呟きつつも、図鑑の情報を頼りにビッグバードの解体を始めるのであった。




