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7 レベリングのお時間

 ジンが受けた討伐依頼は、片方が期限のない常設依頼、もう片方は期限ありの普通の依頼だ。


 次には常設依頼の様子見をするために、モルモの町の外に広がる農地を訪れていた。

 依頼書曰く、ここで育てられているのは小麦のような植物で、その草を食べてしまう魔物が広く生息しているとのこと。


(確かに草食であることはEWOの魔物図鑑にも書いてあったけど、具体的な名前や好みなんかは書かれていなかったもんな……勉強になる)


 ふむふむと草の根本を注意深く探していると、少し遠くに目標の魔物がいるのを確認した。

 ジンは稲の陰に身を屈め、息を潜める。


 ターゲットの名前は“白うさぎ”。文字通り全身真っ白なウサギである。

 フォルムは普通のウサギと同じように丸々とした可愛いものなのだが……。


(目まで真っ白というところも一緒か……)


 そう、()()()()()()()()()真っ白なことから名付けられた、とされる“白うさぎ”。

 目も例外ではなく、どこかのホラー映画に出てきてもおかしくないその驚きの白さに、ジンを含めたプレイヤーたちは運営やキャラデザ班の正気度を疑ったものだ。


 なお能力の方はウサギの外見どおり、素早さに全振りしている。特技や呪文は持っておらず、攻撃は通常攻撃のみ。ただし、瀕死になると逃げ出す性質を持っている。


 したがって“気配隠蔽”を取得できる盗賊(シーフ)系か弓使い(アーチャー)系の職業(ジョブ)持ちでないと、序盤にソロで安定して狩るのは難しい。魔法職では魔法の一発で仕留めきれなかった場合、逃げられる可能性が高いからだ。


(さてと、ここくらいからならいいかな?)


 ジンは姿勢を屈めたまま徐々に近づき、ポーチから道中拾った石ころを取り出す。そしてそれを山なりに投げた。同時に短剣を後ろ手に構える。


 盗賊(シーフ)となって器用さが上がったジンは、道具の扱いが日々上達している。日頃の投げナイフの練習の成果もあって、自分の投げた小石の落下点を調整し、白うさぎという的に命中させることは造作もなかった。


「キュ!?」


 と短く鳴き、目を回している白うさぎに向かってジンはダッシュ。満足に動けない白ウサギの首を1突きして討伐した。

 短剣に付いた血を払いながらもジンは呟く。


「ふうむ、EWOと比較して変わった点や難しいことはなかったな。……盗賊(シーフ)弓使い(アーチャー)が冒険者には少ないとか? それかモルモに冒険者自体の数が少ないのか……」


 常設依頼の内容は、今倒した“白うさぎ”3匹の討伐を1セットとし、討伐した数だけ報酬を与えるというもの。

 とはいえジンには、盗賊(シーフ)が1人でもいれば効率は良くなくとも確実に達成できるような依頼が、常設になる理由がわからなかった。


「……討伐しすぎて、もし変に目立つことになってしまってはめんどくさいな。あと5匹だけ狩って終わりにしよう。次からは“観察”して、盗めるアイテムを持っていた時は盗まないとな」


 そう言い、ジンは小麦っぽい植物の根本を再び探し始める。




 6匹分の“白うさぎ”の討伐確認部位である耳と、買取素材である毛皮、それにぬすむことに成功した“ウサギの肉”をそれぞれ別の麻袋に詰めてからジンが向かった先は、ハクタの森を起点に、モルモの町を結んだ延長線上にある山。


 依頼書曰く、ピクト山と呼ばれているらしい。


 この山の浅い部分で、通常依頼のターゲットである“ビッグバード”の群れが生息しており、それを討伐してほしいとのことだ。


「ギルドが確認したビッグバードの数は5匹。まあ、まともにやりあったら苦戦は必至だな」


 ビッグバードはレベル8の鳥型の魔物。EWOのグラフィックでは翼を広げた状態で1メートルくらいの大きさはあったはずだ。


 厄介なのは鳥ゆえの飛行能力。ただでさえリーチの短い短剣を使うジンにとって、彼らのように距離をとって戦う敵とは相性が悪い。

 だが、そのための投げナイフであるし、ハクタの森からのお土産でもある。


(食いついてくれるといいけどな)


 山の中の少しひらけた部分に、腐りかけのウルフの肉を置いて遠くから様子を伺う。

 設定通りならビッグバードは肉食。ウルフなどの、自分より弱くかつ耐久が低い相手を狙うそうだ。


 加えて腐りかけなら匂いもよく届くのではないか、と思ってわざわざ持ってきたのだが……


(暇だな……)


 待機してまだ少ししか経っていないが、鳥の影もない状況に早くもジンは飽きてきていた。


(うーむ……ん??)


 ジンが、何か暇を潰せるものはないかともやもやしていると、“気配探知”に反応があった。場所は左手、進行方向は肉の方に向かってまっすぐ。


 どうやら目的とは別の魔物が釣れてしまったらしい。

 ジンはまだ姿が満足に見えていない敵を“観察”する。


 名前:ピーマン

 種族:魔物 植物

 HP:8/10

 MP:10/10

 レベル:8

 持ち物:無

 状態:空腹


 観察している途中から、その姿は見え始めた。輪郭だけ見れば70センチくらいの巨大なピーマン。ジンの位置からではうまく見えないが、EWOと同じならジャックオランタンのように体全体が顔となっているはず。

 そして色白のひょろい手足が生えて歩く魔物が、“ピーマン”だ。


(EWO運営からの公式な見解はなかったが、おそらく“ピーマン”と“(マン)”をかけているのだろうと攻略サイトでは見かけたことがある……が、それにしても嫌な相手だな……)


 “ピーマン”は攻撃力が低いが、高いHPと“斬撃耐性(中)”のスキルを持っているために耐久が高い。


―――――――――――――――――――

斬撃耐性(中)【(パッシブ)スキル】

 斬撃ダメージが15%軽減する。

―――――――――――――――――――


 とはいえ敵の状態は空腹。全ステータスにデバフと、小さいながら継続ダメージを受ける状態異常だ。外傷がないのにHPが減っているのはそのためだろう。

 これなら倒せる、と長期戦覚悟でジンは草の影からバックアタックを仕掛ける。


 もちろん、斬るなんて愚を犯すことはしない。しっかりと両手で短剣を握り、野菜の体に突き刺した。


「ーーグギョギョ!?」


 なんとも気持ち悪い悲鳴? を上げたピーマンは、その小さな足でピョンピョンとジンとの距離をとる。


(そりゃ1撃では倒れないよな。だったら)


 追撃のためにジンは前に出る。なおHPは8から4に減っていた。

 しかしながら、ピーマンもやられっぱなしというわけではない。小さな足をせせこましく動かしてきたと思うと、意外な素早さで体当たりを仕掛けてきた。その速さはジンにとっても予想外で、


「うおっ!?」


 体当たりをガードの上からとはいえまともに喰らい、吹き飛ばされる。背後の木に身体が当たり、肺から酸素が抜けていくのを感じた。


「痛つつ……っとまた来たな!」


 息も絶え絶えにジンは回避。ピーマンは勢い余って木にぶつかり、痛がるそぶりを見せるがジンの目に映るHPに変化はない。


 苦し紛れに2本の投げナイフを投擲する。今度はピーマンがその攻撃に面食らったか、驚いた表情を見せて回避しに動く。が、避けきれず1本は命中するも、体には刺さらず浅く傷をつける程度にとどまった。


(威力が無いのか、耐性のせいか、そのどちらもか……)


 分からないが投げナイフの属性は斬撃、として頭の中のメモ帳に記載する。

 ピーマンは投げナイフが怖くないとわかったのか、先ほどと同じように強気で突っ込んでくる。


「一直線にくるとわかっていれば、やることは一つだよな。……とはいえ耐久の高いお前だからこそできる、実験台になってもらうぞ」


 構えたジンとピーマンの体当たりがぶつかる。

 その直前、ジンは身をひねり至近距離で()()()()()()()()。スピードが乗っていないにもかかわらず、ナイフは深々とピーマンの体に突き刺さる。


 HPも2まで減らせられた。


(ここもシステム通り! カウンターは飛び道具でも可能というわけだな!!)


 新たな情報を得たジンは、苦しそうな顔をするピーマンに打って出た。背後から飛びかかり、その野菜の体を滅多刺しにする。血液のない野菜の体には、鋭い切っ先を滑らせるものは存在しない。ゆえに可能な連続攻撃だ。

 ピーマンのHPはたちまち0になり、再び動くことはなかった。


 ジンは図鑑を手に取り、念のため盗難と不意打ち防止を兼ねて、“気配探知”に反応がないことを確認してからそれを開く。つい昨日まで白紙だったページに“ピーマン”の情報が追加されていた。


「さてとこいつの買取素材は……ヘタ? 身ではなくてヘタなのか……何故だ……?」


 ピーマンの唯一と言っていい非可食部を買取素材として要求されたことに頭をひねりながらも、この図鑑に嘘はないと信じて短剣でヘタの部分を切り取り、既に慣れ親しんだ麻袋に突っ込む。


(図鑑に魔物素材の用法までは書かれていない。買取時に聞いてみることにしよう)


 そう思っていると、遠くから複数の視線を感じた。

 目を凝らして山の木々の間を見つめていると、大きな緑の顔が複数見えた。

 こちらを向いているようにも見えるが、視線はジンの背後、オオカミの肉に注がれている……気がする。


(もしかしてピーマンの団体様かな?)


 ピーマンのレベルは8。経験値キャップ到達までにはまだまだ余裕がある。


(さて、ここからはレベリングと洒落込もうかな。複数のタンク相手に今の俺がどこまでやり合えるか、楽しみだしな)


 ピーマンの群れを見据えつつ、草むらに身を隠したジン。

 ……それから全てのヘタが取られるまでにそう時間はかからなかった。

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