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6 新天地でやるべきこと、やれること

 不思議な形の花のマーク以外ロクな情報を得ることができなかったジンは、とりあえず冒険者ギルドに戻ってきた。


「ジン様、おかえりなさいませ。素材の査定が終わっておりますよ」


「それは良かった。いくらになった?」


「ええっとですね……」


 と、受付嬢は文字がたくさん書いて紙を取り出して見せてくれる。

 上からスライムの核、ウルフの毛皮、土もぐらの腕……


「これは、買取一覧……か?」


「もしかしてご覧になるのは初めてですか?」


 ジンが頷くと、受付嬢は咳払いと共に説明してくれる。


「ジン様のおっしゃった通り、こちらは買取品の査定一覧です。買取対象の素材のが多くある場合に、ギルドから発行されます。内容は品名とそれぞれの量、および買取価格です。冒険者登録を行ったギルドで説明は受けたかと思いますが、冒険者ギルドの買取額は全世界一律となっています。そのため、割りに合わない、もしくはより高値で買い取ってくれる方を知っている場合は引き取られる方もいらっしゃいます」


 よろしいですか、と言いたげな視線を向けてきたため、ジンは頷く。


「肝心の買取額ですが、“オオカミの肉”の状態の悪い物を除き、総額で16万5600クルスとなります。買い取れなかったオオカミの肉は、ギルドでの処分も可能です」


「なるほどな……」


 ジンは答えながらも、査定一覧をざっと見る。

 特におかしな買取品の名前になっていたり、大きく量が間違っているわけでもなさそうだ。


「わかった、この内容で売ろう。ただ、お金はぴったり2つに分けて、半分はギルド預かり、もう半分は現金で今欲しい」


「わかりました。では8万2800クルスを現金で用意します。少しお待ちください」


 受付嬢は一度席を離れたが、ある程度準備はしてあったようですぐに戻ってきた。


「お待たせしました。こちら8万2800クルスです。お納めください。冒険者ではないパーティーメンバーの方がいらっしゃる感じですか? それともどこかお買い物ですか?」


 ジンはその質問に、腕を組んで答える。


「まあ冒険者ではないが……」


 少年のことをなんと説明したらよいか少し考えていると、受付嬢は察したかのように、


「何か事情がおありのようですので、話さなくても結構ですよ。失礼しました」


 そう言って頭を下げた。


「……まあ、助かる」


 面倒な説明が省けて、という意味ではあるが一応感謝しておいた。

 お金を少年に渡すために席を立とうとしたところ、受付嬢に引き止められる。


「ところで、ジン様が持ってきてくださった素材たち、質の良いものが多く査定担当の者も驚いておりました。これを持ち込んだ冒険者はさぞ強い方だろう、と。……是非ともモルモの町の依頼を受けてくださるとありがたいのですが……」


「それは盗賊団の依頼のことか?」


 思ったより大きな声で出たジンの言葉が、ギルドに響く。


 実のところ、ジンは盗賊団員捕縛の依頼をギルドで()()()()()()とは一言も言っていない。

 町長代理の元に出向いたのは、あくまで情報収集の一環だ。


 道徳をそれなりに身につけた日本人だったジンは、基本的に誰かが困っているなら手を差し伸べることに抵抗はない。


(だが、依頼の詳細やモルモの町への影響を考えるとリスクが大きい。迂闊に受けるべきではない)


 相手がこの近辺に居るのは確実。だがそれ以上の情報がほぼ何も分からない段階で首を突っ込めるほどジンは強くないし用意もできていない。

 相手の中にルイン級の魔法職がいた時点で詰みなのだ。


「……申し訳、ございません」


 受付嬢は顔を青くして頭を下げた。

 ここまでさせるつもりは全くなかったんだが、とジンは思い、襟を正して答える。


「こちらも、突然大きな声を出してすまなかった。お詫びと今後の参考までに、俺の職業(ジョブ)とレベルを教えておこう。盗賊(シーフ)レベル11だ。とはいえつい数日前までハクタの町に居てな、活動記録も残っているだろうから例の盗賊団とは関係ないぞ?」


盗賊(シーフ)なのにあれだけの数を……? いえ、失礼しました」


 またも慌てて受付嬢は頭を下げる。


「盗賊団関係の依頼はこれ以上お勧めすることは致しません。ただそれ以外にも、例えば魔物討伐系の依頼は比較的多い方だと思っております。こんな感じなのですが……」


 と、彼女は6枚の依頼書を広げる。

 確かに朝もとっくに過ぎたこの時間で、まだこれだけ依頼があるということは魔物の被害が多いのだろう。


 しかもその内2つは常設依頼。


「こちらなら、ジン様のレベルとも合っておりますし問題はないと思います……」


 慎重に話す受付嬢。

 ここまで萎縮されてしまっては踏み込んだ話もやりづらいのだが……。


「依頼に関してはわかった。この2つを受けよう、サイン用の筆を……と、そうだ。質の悪かった“オオカミの肉”を受け取りたいんだが可能か?」


ジンは自らのEWOの知識と現在の装備から、効率も良くかつ比較的簡単に達成可能な依頼を選んだ。


(レベル2桁台の冒険者パーティーならいずれも楽にやれるはずなんだがなあ……待てよ、例えば地形や天候とか、ゲームとは違う内容で苦戦する可能性はあり得るな。オオカミの肉が役に立ってくれるといいんだが……)


 依頼書の内容をこなすために、あのアイテムはきっと役に立つだろうと思い、ちょっと嫌な匂いがし始めている肉の塊を受け取ってギルドを後にした。

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