3 ジンが手にした“聖書”
「はぁ……はぁ……一体、なんなんだ、これは……」
教会で日本語タイトルが書かれた本を拾ったジンは、盗賊の能力とスキルを最大限に発揮し、最も近い路地裏に駆け込んだ。
ジンは少しずつ息を整えつつ、月明かりにその本を照らしてつぶさに確認をする。
その表紙は非常に複雑で、見とれてしまうような模様で飾られている。模様は本来、書籍のタイトルが記載されるはずの背表紙にまで及んでいる。
同様に、裏表紙にも文字は何も書かれていないようだった。
表表紙にはもちろん、『違う世界から来た、貴方に贈ります』と、確かに日本語で書かれている。
「俺がこの世界の文字を読める以上確証は持てないが、わざわざこんな手の込んだことをするくらいだ。俺以外に読むことはできないんだろう……開けて、みるか」
ジンはおそるおそるその重厚な表紙を開く。
最初のページに現れたのは、パステルカラーのチープな紙が3枚。全て白紙のページの上に貼られていた。
転生前ではよく見かけた付箋、あるいはポストイットと呼ばれるそれを見て、ジンはずっこけそうになる。
「なんというか……まあ読んでみるか」
神々しさとはある種対極の位置にあるそれらに一気に気が緩んだジンだが、集中し直して読み返す。
付箋には丁寧な字でこう書かれていた。
『これは図鑑。倒した魔物の情報がのります』
『達成率5%でポータブル女神像をあげます』
『それまで教会で祈ってはいけません 女神』
本当のメモ書きのように言葉足らずな部分はあるが、言いたいことはなんとなく伝わる。
「倒した魔物の情報が記録されて、進捗に応じてものくれるってことなんだろうけど、最初の報酬がポータブル女神像!? なんと大盤振る舞いな……」
ポータブル女神像は持ち運びができる消費アイテムで、効果は職業の女神像をしらべた時と同様にその場で職業の変更ができるというもの。
戦闘中には使えないという欠点はあるが、いつでもどこでも職業変更ができるというのは大きい。
「ただ、『それまで教会で祈ってはいけません』とはどういうことなのだろう? 言葉通りなら、職業の女神の祀られている教会で祈ってはいけません、ということなんだろうが……なぜ……?」
ジンは色々と考えて見たが、最後の1文に関しては、やること自体は明確だが目的が全くわからない。わざわざ消費アイテムを使うよりそこらへんの教会で済むだろうに。
「だが、忠告には素直に従っておこう。今のタイミングで女神像を調べても意味は無い。……ところでこの達成率ってのはきっとコンプ率なんだろうが……」
ジンがなんとなく次のページをめくってみると、文字が書いてあった。こちらも例に漏れず日本語だ。
達成率:0.4%
「うわほとんど何もできてないな俺。ゴブリンばっかり倒していたにしてもこれは……いくらなんでも総数が多すぎやしないか?」
5%という目標の高さに、早速心が折れそうになるジンではあるが、とりあえず白紙でないページを探して本をめくる。最初に出てきたのはお決まりのあいつだった。
No.1
名前 スライム
種族 スライム
ドロップ品 ????、スライムゼリー
買取素材 スライムの核
「まあ、知ってたさ。そういえばスライムの通常ドロップ品はまだ取ったことなかったな」
スライムの通常ドロップ品は“おいしい水”。こんな名前だが飲んでHPが回復するわけではなく、下級回復薬をはじめとした回復アイテムの材料として使用する。
とはいえスライムが出てくる最序盤でそんなことができるはずもなく、売値も安いので大体の場合は廃棄される悲しいアイテムだ。
「そのうち取ろうと思っていたんだけど……ん? ということはだ……」
ジンの脳内に1つの仮説が駆け巡り、ジンを突き動かした。戻る先は自分の部屋だ。
「やっぱりそうか」
ジンは図鑑と、筆算で見開き丸ごと黒く染まった手帳を見てそう結論づけた。
「図鑑の“達成率”はドロップアイテムを1つの項目として扱っている。だから魔物1体あたり、3つの情報を持っているってことだ」
ジンは、EWOの魔物634種のドロップ品を正確に記憶している。
そしてどんな魔物にも必ず通常ドロップとレアドロップの2種類が存在する。それらの情報とジンの転生してからの記憶を思い起こせば、
「俺が倒した魔物と手に入れたアイテムの数は9。魔物が3つの情報を持っているとすれば達成率の総数は1902。計算上は達成率と一致する!」
無論間違っている可能性もあるが、わざわざドロップ品の項目を『????』にしてくれているのだ。可能性は高いと言えるだろう。
「そうなると5%達成のために必要な魔物の種類は、ゴブリン達からドロップを集め切ったとしても残り27種。……魔物の棲息域まで正確には覚えていないけど、序盤終わりくらいまでは進めないとまずくないか?」
そして思い出すのは、無職のレベル上げ。最終的に、レベル7から10に上がるまでにかかった時間はおよそ2日。
ゲームであれば、恐らく2時間ぶっ続けであれば到達できるのにもかかわらず、だ。
これは疲労などではなく、単純に魔物と出会っていなかった方が大きいように感じていた。
つまりどういうことかというと、
「魔物と会わない確率が24倍……ってことだよな」
果たしてそれで、27種のレアドロップを獲得するのにかかる時間はいかほどか。
……ジンはこれを少なくとも1ヶ月と見積もった。
そして全ての魔物を倒し、レアドロップまでコンプするには……
「今すぐにでも準備して明日には出ないとだな。俺の目標は全てのアイテムの収集。ゆっくり休むのは後でもできる」
そう思ってからのジンの行動は早かった。
すぐに冒険者ギルドを訪ねてハクタの町周辺の魔物と、次の町についての情報をキャッチ。馬車を用意した方がいいことがわかると、ギルド経由で手配をお願いした。
また、武装の強化……をするにはお金がまだ心もとなかったので、攻撃方法を増やすために投げナイフも購入した。5本セットで4万クルスもするのは高いか安いか判別はつかなかったが、投資だと思い割り切った。
かくしてジンは怒涛の勢いで旅立つ準備を終え、翌日には町を出たのである。
すべては彼のコレクター魂がなせる業といえよう。
……何名かが、別れの挨拶やお礼を言えなかったと悲しんだのは別の話。
フルオートで更新されていく魔物図鑑。
幼い頃の作者にとっては、RPGの中で魔法や特技よりも不思議な存在でした。
店で図鑑買えばいいやんっていう……。




