表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/121

28 魔王の存在

 EWOにおける魔王とは?


 EWOプレイヤーにそう問いかけたら色々答えが挙がるだろうが、最も多いのはおそらく『メインストーリーの凶悪ラスボス』だろう。


 ストーリー本編で最後の壁として立ちはだかる魔王は、その名に恥じない凶悪の権化。


 強大な攻撃力、固すぎる防御力、多彩な魔法を扱う知性、ほぼ全ての状態異常を無効にするにする耐性、超遠距離にでも攻撃を届かせるリーチ……。


 さらにはAIも特別製らしく、それまでの敵とはどれをとっても一線を画す、ラスボスにふさわしい相手だった。


(あれと同じ強さの魔王がいるのなら……今の俺には……生身の人間がソロで勝てる未来が見えない)


 ゲームであればこそ、何百周も討伐をした経験があったからこそ、EWOではソロでの討伐も可能だったし、現に“ジョブマスターズ”取得は魔王の討伐で締めくくることができた。


 転生直前のあの時も、当然ジン1人で討伐している。


(であれば、今後は仲間集めも視野に入れなきゃいけないのか……複数人の戦略を立てるのは決して得意じゃないんだが……)


 何度も言うように、EWOでのジンは基本ソロだった。そのため、多人数の戦略は知ってはいても自ら率いて実行した機会は少ない。


 この世界の全てを集める、と自らに課したゴールがさらに遠くに行ってしまい、げんなりとするが、同時に例えようもない興奮がジンの内に沸き起こる。


(ラスボスが落とすドロップか……考えただけでワクワクするな!)


 EWOでのラスボス戦は半ばイベント戦のような扱いだったためか、通貨を含めてぬすめる物もドロップする物も無かった。


 ところがこの世界には、スライムの核やゴブリンの魔石のように、魔物ごとに落とす素材がある。もし魔王の素材が手に入ろうものなら、


(掛け値無しに世界にたった一つのアイテムだ……! やっぱり魔王にふさわしく宝玉とか? それとも魂が詰まった結晶? いやいや武器として使っていた魔剣がもらえるかも……! はっ、それなら四天王や幹部の武器ももらえたりするんじゃ……!?)


 ジンが先ほどの死の緊張感から解き放たれて、妄想の世界に旅立つ。そうだったらいいな、などと考えていると、あることを思い出した。


(ゴブリングレートの宝箱は残念だったが、そういえば何か盗んでいたような……?)


 激闘の最中、ジンはゴブリングレートから何かをぬすみ取っていたが、内容を確認しないまま討伐してしまっていた。


 ポーチの中身を開けてみると、下級回復薬の隙間になにかが捻じ込まれている。ジンはそれを取って広げてみた。


 ハンカチくらいのサイズに広がるそれは、茶色の毛皮をベースに、赤と金の派手な刺繍が施された布。


 荒々しいデザインだと思いよく触ってみると、2枚の布を筒状になるよう縫ってあるのがわかった。サイズから全く推測できなかったが、そうと分かればジンにも見覚えがある。


―――――――――――――――――――

 グレートなバングル 【装飾品】

 物理攻撃力が少し上昇する。

 ゴブリングレートが落とすバングル。

 装飾もサイズもなかなかにグレート。

―――――――――――――――――――


「おお! 間違いない“グレートなバングル”だ!……デカイなー。グレートでも限度があるぞ。この大きさだとバングルどころかネックウォーマーって言っても通じるな、うん」


 間違いなく、人間(ヒューマン)の手首につけることを最初から想定していない。おそらくゴブリングレートの手首のサイズがこれくらいなのだろう。


 ジンは試しに自分の手首にグレートなバングルを通してみるが、そのサイズ差に苦笑いを浮かべることしかできない。


「お、おおお!?」


 ジンは思わず声を上げていた。


 彼が苦笑いを浮かべていたのも束の間、バングルがぐんぐんとサイズを縮めていく。最終的にはジンの手首にぴったりフィットしていた。


 これまでも魔物や魔法をはじめとして創作の世界でしか見たことのない光景目白押しだったが、これはその中でも相当インパクトのある部類だ。


「もしやこれが魔法の装備品の力というやつか……? 改めて、本当に凄い世界にやってきたんだな俺は」


 バングルの収縮が終わると、今度は自分の中で力が溢れてくるような感覚があった。おそらくバングルの効果である、『物理攻撃力10%上昇』が適用されたのだろう。


 ジンにそれをすぐ確かめる術は思いつかないが、ここまできて効果無しはあり得ないだろうと考えて特に何もしないことにした。


「さて、やることも終わったし帰ろうかな」


 と、ジンは横たわったまま動かないゴブリングレートを見る。


(とんでもない肉弾戦を仕掛けてくる相手だったが、世界にはこれ以上のレベルの魔物がごろごろいるはず。俺自身、もっともっと強くならないといけないな)


 そう決意して、さて帰ろうと一歩を踏み出した時、またもジンはゴブリングレートに向き直る。


「……ところでゴブリングレートの討伐部位って何なんだ? まさか普通のゴブリンと一緒で魔石……? マジ?」


 分厚い胸板の下に存在するであろう魔石を、ナマクラの短剣1本で掘り出すという肉体労働を考え、流石のジンもため息をつくのであった。

 アクセサリーに詳しい方はご存知かもしれませんが、“グレートなバングル”は分類上は“バングル”ではないです。

 恐らく“リストバンド”、もしくは“ブレスレット”です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ