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【5章開始】ジョブマスターの転生冒険記―ゲームの世界でジョブ・アイテム・図鑑をコンプした廃人ゲーマーは、転生先でも全てを集めるようです。  作者: りゅーいち
第2章 令嬢の起こす騒乱

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16 焚火の前で

 ジンとテレンスは警戒態勢で森の入り口に近づいていく。


 そこそこ近づいたところで、茂みが揺れたかと思うとゴブリン達が飛び出してきた。数は先程と同じ2匹だ。


「予想済みだ!」


 ジンは飛びかかってくるゴブリンをバックステップでかわし、その体を蹴りつける。攻撃が終わっているためカウンターとはならないが、ゴブリンがよろめくほどのダメージを与えることができた。


 そうしている間にも、もう1匹のゴブリンが再び突撃してくる。少しでも傷を負いたくないジンは距離を取りつつ機会を伺う。


 何度も攻撃をかわされたゴブリンの表情が歪んでいく。疲労か、焦燥か。詳しいことはジンには分からないがゴブリンにとって良い感情ではないだろう。


(——ここだっ!)


 ジンが動いたのは、ゴブリンが棍棒を大きく振りかぶったときだ。


 大振りの攻撃が来ると確信したジンはゴブリンの動きに合わせて大きくバックステップ。反動で前に飛び出すときには、棍棒での振り下ろしは完全に空を切っていた。


 ヤクザキックの要領で正面からゴブリンの顔を蹴り飛ばす。何かが折れるような嫌な感触が伝わるが、気にしている暇はない。

 痛みにのたうちまわるゴブリンを即座に追撃し、その命を絶った。


 最初に蹴り飛ばしたゴブリンは、やはり森の中へ戻っていく。ジンはあえて見送った。


「いいのか?」


「ああ。目的はレベルアップなんだから魔物の数は多い方がいい。それに、平原なら草や木の根に足を取られることも少ないしな」


 そう答えると、テレンスは慣れた手つきで素早くゴブリンを解体し、取り出した魔石をジンへと投げる。


「それにしても、武器を全く使わないのは何事だ? それも普通ではない方法で職業(ジョブ)を得る一環なのか?」


「ああ、それはだな……今の俺はほぼ文無しなんだ。だからレベルアップと並行して、魔物のドロップを拾ってるんだ」


「はあ……ただの貧乏というわけだったか」


 テレンスは呆れた様子を見せる。

 そんなテレンスをよそに、ジンは受け取った魔石をつぶさに見ている。スライムの核のように球ではなく、山間で採れる本物の石のようにごつごつしていた。


(やっぱりゴブリンから取れる魔石は色も形もほとんど一緒なんだな)


 昼に倒したゴブリンの魔石を回収してソル達に質問してみても、形が似通っている正確な理由はわからないとのことだったが、人間の心臓と同じようなものだろうというテレンスの意見はしっくりきた。


 個体差はあっても、種族が一緒ならば臓器の形に大きな変化はないからだ。


「面目ない……っと、来たな?」


 街道から逸れた森の中から、先ほどのゴブリン達よりも多くの音が聞こえてくる。

 現れたのは6匹のゴブリンと、


「ゴブリン兵がいるのか」


 恐らくこの群れを指揮する存在なのだろう。


 普通のゴブリンは棍棒で武装しているが、ゴブリン兵が持つのは出来が悪いとはいえナイフだ。防御力こそ普通のゴブリンとほぼ同じだが攻撃力はかなり異なる。


「“プチファイア”」


 先手必勝とばかりにジンはプチファイアをゴブリン兵に向かって唱える。


(近づかれなければどうということはないんだよな)


 レベルアップに伴い魔法の威力が上がっている今のジンなら、ゴブリン兵にもプチファイアで致命傷を与えられる。


 そう思ってのプチファイアだったが、その予想は叶わなかった。


 プチファイアがジンの意図に反して突然曲がり、ゴブリン兵すぐ横のゴブリンが炎をその身に受けたのだ。

 轟々と燃えるゴブリンはそのまま崩れ落ち、立ち上がることはなかったが……


「マジか!?」


 思わず素で叫んでしまう。

 EWOでは、対単体の攻撃魔法をかばうためには騎士(ナイト)魔法使い(メイジ)僧侶(クレリック)系統のスキルを発動させる必要がある。


(今の挙動はおそらく“自己犠牲”。僧侶(クレリック)レベル13で習得する、遠距離攻撃の対象を自分に変えるスキル。だが)


 普通のゴブリンがそんな上等なスキルを持っているなどと誰が予想できるのか。


「くっ……」


 お返しとばかりにゴブリン達の波状攻撃がジンに襲いかかる。


 立ち位置的にすぐにとり囲まれるようなことはなかったが、回避一択だ。ジンは小刻みに距離を取りつつ考える。


(先に助けた冒険者も、弓使い(アーチャー)が気づかないうちに囲まれてたって話だ。その冒険者が何レベルかは知らないが、最低でも“気配隠蔽(中)”以上の隠蔽系のスキル持ち! 今さっきの自己犠牲といい、誰かがスキルを与えている? ……一度期間限定クエストの中身をしっかり思い出す必要があるな!)


 そう思いながらも回避は続け、ゴブリン達がいい感じに疲弊してきたところで反撃に出た。


 まずは大振りになったゴブリンの攻撃に対してこちらも攻撃を合わせる。これで討伐数は2匹だ。


 フォローするように背後から2匹のゴブリンが迫るが、ジンは姿勢を半身にして彼らを視界に収める。

 向き直ったジンを見てゴブリン達は急ブレーキをかけるがもう遅い。


「そら!!」


 ゴブリンたちを蹴り飛ばし、さらに追撃で拳を振るう。その2匹もあっけなく倒れた。


 あと3匹というところで、ゴブリン達は散発的な追撃をやめ、ジンを取り囲むように立ちふさがった。正面にはゴブリン兵が居る。


(こいつはドロップで“鉄の短剣”を落とすから期待したいところだが、ひとまずは包囲網を抜けてからだな)


 残りの3匹は、にじり寄るように包囲を狭めてきている。カウンターを決めることができれば別だが、1匹を倒そうとすれば他の2匹からの攻撃を受ける可能性がある。


 そんな状況でのジンの選択は、シンプルな1点突破だ。

 向かって左後ろのゴブリンに向かって攻撃を仕掛ける。狙われたゴブリンは棍棒を前に構えたまま反撃の姿勢は取らない。


(防御ね、上等!)


 これまでと同じようにゴブリンを蹴り込み、一気に距離を取らせる。

 このまま攻撃しようとしたジンは、背後から残り2匹が走り込んでくる音を感じて振り返った。


(EWOの移動速度よりも早い!)


 10メートル以上離れていたはずの2匹のゴブリンとの距離は、今は3メートルもなかった。既に普通のゴブリンはジャンプして飛び込むように攻撃を仕掛けてきていた。高低差をつけた2匹の同時攻撃だ。


 想定を超える移動速度と連携にジンは舌を巻くが、慌てることなく下から迫るゴブリン兵に対処。ナイフで防御される可能性を考慮して靴の裏で蹴りつけた。


 ナイフで反撃はされなかったが、能力の関係か普通のゴブリンほど吹き飛ばない。


 上からのゴブリンの飛び込み攻撃は体をかばい両腕で防御。結構な痛みが走るが折れているわけではなさそうだ。


(今のHPならいくらかは受けても大丈夫だからな!)


 着地で姿勢が固まっているゴブリンに向かって、お返しとばかりに脚を振るう。綺麗に命中し吹き飛ぶゴブリン。更には追撃に成功し、討伐。


 まだ生きているゴブリンがフォローに入ってきたがこちらは既に瀕死の状態。カウンターを合わせることはジンにとって造作もなかった。


 残るはゴブリン兵1匹。少々強いとはいえ1対1なら負ける気がしない。


 部下がいなくなったことに憤慨したのか、怒りの形相で攻撃してくるゴブリンだが特に技量があるわけではない。滅茶苦茶にナイフを振るってくるだけだ。


 それらを回避しつつ、大振りになったところでジンがカウンターを決める。他のゴブリンと同じくあっけない最期だった。


「ドロップ品は……無いか」


 地面に宝箱がなかったことは残念だが、まあ仕方あるまい。


 テレンスにゴブリン兵の解体をお願いすると、普通のゴブリンと色違いの魔石が出てきた。ジンはいい値段で売れることを期待しつつも、次の戦いに備える。


「あれだけのゴブリンの群れに対して、ほぼ装備なしで傷は1つだけとは……流石だな」


 テレンスからはそう声を掛けられた。


「ありがとう。だがまだまだだ。せめて普通のゴブリンは一撃で倒せるようにならないと効率が悪すぎる」


 これはジンが戦って感じたことでもある。


 1体を倒すまでの攻撃回数が1回か2回かの差は、非常に大きい。


 単純な攻撃回数が増えるだけではなく、敵からの反撃を想定する必要があるとか、敵によっては回復による戦闘時間の延長もありうるなど、労力が2倍にも3倍にもなるかもしれないのだ。


 そんな考えを見透かしたのか、テレンスは腰から一本の短剣を取り出した。模擬戦時にジンが使っていた短剣と、長さは同じくらいだ。


「……これもお嬢様のためだ、使うといい。武器があれば効率も上がるだろう。ただ、明日には返してもらうぞ」


 受け取って鞘から抜いてみると、鏡のように白く光る刀身が現れた。意匠も見たことがないため、ジンとしてもこれが“鉄の短剣”なのか“銀の短剣”なのか、あるいはもっと別の武器なのかわからなかった。


「こんな上物の短剣、借りていいのか?」


「ああ。とはいえ、ゴブリン兵の群れが現れる前に貸せれば、よかったのかもしれないな」


「そういう考えもあるが、元々素手でやるつもりだったんだ。ありがたく使わせてもらうぞ」


 今日はまだまだ長いのだ。これから先の討伐が楽になるなら、最初の1戦くらい誤差のようなものだ、とジンは思った。




 それから日が落ちてからも、ジンは戦い続けた。


 森の外縁を適当に歩いて適当に襲いかかってくるゴブリンを1匹残して討伐し、呼ばれた増援も全て打ち倒す。


 テレンスが貸してくれた短剣の性能も相まって、ゴブリンの群れを最初の半分以下の時間で片付けていた。


 調子に乗って1回だけ、増援で呼ばれたゴブリンを1匹残し、さらに増援を呼ばせたことがあったがあれは失敗だった。


 ゴブリン兵よりも上の存在であるゴブリン騎士が、取り巻きとしてゴブリン兵5匹を連れてやってきたのだ。ゴブリン騎士討伐の適正レベルは近接職で10。とても今のジン1人で敵う相手ではなかった。


 テレンスとも協力して討伐こそ果たしたものの、ジンのHPの半分以上は持っていかれた。もちろん、回復のためにプチヒールを使い、MPも相応に消費した。

 それ以降、増援1回目までのゴブリンの群れをひたすら倒すようにしている。


 それはさておき。

 何度目かもわからないゴブリン兵を撃破したところで、ジンの頭の中に声が響く。


 ——レベルが7に上がりました。


「よし、とりあえず目標達成だな」


 今日の目標は、短剣を買えるだけの金を貯めることと、レベルを7以上に上げること。


 金はゴブリンのドロップアイテムである魔石を売れば良いため、奴らを倒すことは一石二鳥の価値がある。


 スライムの時のように詳しい個数は流石に覚えていないが、テレンスがうんざりした顔になるくらいには収集していた。


「目標に到達した、ということは今日は終わりか?」


「ああ。少し休んでからハクタの町に戻ろうと思う。付き合わせて悪かったな」


「全くだ。まさか陽が落ちてもなお戦い続けるとは思わなかったからな」


 テレンスはテントの前でジンにそう語りかける。ジンがゴブリンとの戦闘中は、テレンスにベースキャンプを守ってもらっていたのだ。


 ジンが焚火の前で休憩休憩、と言いながら腰を下ろすと同時、テレンスが口を開いた。


「お前、周りに異常だと言われたことはないか?」


 少し考えて、ジンは返事をした。


「言われたことはないな」

()()()()()()()()()、な)


 思い出すのはもちろんEWOの記憶だ。


 気づけば立派な廃人となり、全てのアイテムを集め切ってもまだ飽き足らず、ついには職業(ジョブ)を極めたEWOの日々。その中で、他のプレイヤー達から何度異常と言われたかわからない。


 本来はそんな記憶だけの存在のはずが、今は少しずつ、文字通りジンの心身に息づきはじめているのをジンは感じていた。


「そうか、ならば私が代わりに言ってやろう。ジン、お前は異常だ」


「……それは褒め言葉か?」


「どう捉えるかはお前次第だ。だが、そうだな……私はお嬢様の盾となり剣となり、時には今回のような命令をこなす駒となることもある。その忠誠心を、狂信あるいは盲信と取られ、異常と言われることもしばしばあった。これまでの私は、そういう人物を異常と呼ぶ心理がわからなかったのだが、今になってわかった」


「ほう?」


「自分に到底できないことを、息をするかのように簡単に行う人物を、人は異常と呼ぶのだろう、とな」


「結局褒め言葉なのかわからないじゃないか」


 ジンは苦笑するが、テレンスは何も答えなかった。

 代わりにジンは続ける。


「俺には俺の目的、やりたいことがある。それに少しばかり、ハクタを守りたいって理由が加わっただけだ」


「……それが異常なのだ。おそらく、私だけではなくほとんどの人にとっては」


 それだけ言うと、テレンスはテントを解体するためか、工具を持って焚火の前から離れていった。


 ——決戦まで、あと3日。

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