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12 テレンスとの共闘

 翌日、夜明けと共に目を覚ましたジンが朝食を摂っていると、宿屋の店主から1通の手紙を渡された。


 宛名は“マゼンタ”、封として使われているのは冒険者ギルド章入りの真っ赤な封蝋だ。


(……正直この封蝋を保存しておきたい)


 そう思うが、今のジンはペーパーナイフやその代わりになるようなものを持ち合わせていない。

 店主から借りるのもよかったが、何となく頼むのも申し訳なく思ってしまい、そのまま封を破るように開けて手紙に目を通す。


 そこには今日の正午、冒険者ギルドでテレンスが待っていると書いてあった。受付嬢にこの手紙と共に事情を話せば部屋まで案内してもらえる、とのこと。


 用件はそれくらいで、後半はマゼンタからの個人的な内容だった。今日は彼女は非番の日らしい。


(お体に気をつけてください、ね……。こんな心配されるの何年ぶりだろうな)


 今のジンは(ストーン)冒険者。加えてあまり常識もないとなれば心配されるのも無理はない。


(いつかその優しさにお返しをしてあげたいものだ)


 そう思ってしまうのは男の性というやつだろうか。




 ぼうっとしている間にあっという間に時間は過ぎ、正午が近くなったためジンは冒険者ギルドに赴いた。


「この手紙を見せれば案内してくれると聞いたんだが」


 と、ジンはマゼンタからの手紙を受付嬢に見せる。初めて見る受付嬢は、その手紙を受け取ると内容を確認してギルドの奥へ案内してくれた。昨日とは別の部屋だ。


 受付嬢は昨日クラインがしたのと同じように扉前のベルを鳴らすと、扉を開けてくれた。


「おおむね時間通りだな。時間にルーズな冒険者も多いと聞くがお前は違うようだ」


 扉の先には、テレンスが立ち塞がるように腕を組んでこちらを見ていた。表情は最初に話した時のように、ジンに対して良い感情は見えてこない。


(いちいち癇に障る言い方をするなあ)


 このテレンスの、敵意とも取れる感情はどこから来るのだろう。ジンは特に悪いことをした記憶がないのだが……


「テレンス、これから依頼を受けてくださる方にその態度はどうかと思いますわ」


「失礼しました、お嬢様」


 テレンスの背後から、ジンに向けて声がかかる。非常に美しい少女の声だ。テレンスはすっと、その声の主とジンの視界から消えるように離れた。


 少し遠くの椅子に座るのは、黄金の髪と翡翠の瞳が美しい少女。その姿は、動いていなければ人形のように見えるほど完璧なものだ。


「初めましてジン様。私、ソルと言いますわ。そこにいるテレンスの雇主、とでも言えばよいかしら?」


「よろしく頼む……申し訳ない、世情に疎くて貴女のことを存じ上げないのですが、どこかの貴族様のご息女でしょうか」


 雇主、ということはこの少女は見た目に違わず貴族の子供だったりするのだろうか。そう考えての質問だ。


 10歳前後の容姿だが、お嬢様言葉や椅子に座る堂々とした態度は、そう考えると妙にしっくりくる。


「昔はそうでしたわ。結果として、ついてきてくれたのはそこのテレンスだけですの」


「なるほど、そのご年齢で……大変だったのですね」


「きっと無職(ノービス)の貴方ほどではありませんわ。それと、敬語はやめてくださいまし。テレンスは仕方ないにしても、貴方までこちらに合わせなくていいですのよ?」


 ふふっ、とソル上品に笑う。


「……申し訳ないのだが、お言葉に甘えさせてもらう。俺としても、他の冒険者からナメられたり変に勘ぐられたくはないからな」


 横に立つテレンスから妙な圧を感じるが、雇主のソルが言うのだから問題はない……はずだ。

 ソルも満足そうに頷いているし、問題はないのだ。


「挨拶はこのくらいにして、早速依頼の話をしてもよろしくて? お席はそちらにお願いしますわ」


 ジンはソルに指された、彼女とテーブル越しに向かい合える席に座る。つい昨日座った椅子よりも少しだけふんわりしている気がした。


「さて、まずはどこからお話ししましょうか……依頼の内容や報酬についてはお聞きになりまして?」


「ああ。ギルドからちゃんと聞いている。北の森の調査だよな?」


「ええ。ですが正直、そこまで精密な調査をしていただこうとは思っておりませんわ。最終的にはテレンスと一緒にゴブリングレートを倒していただきたいのですわ」


「……どういうことだ?」


「貴方はお持ちの“超反撃”の技術で、遥か格上のテレンスと良い勝負ができたとか。その技術を彼にも教えていただけると嬉しいのです」


 超反撃……? と思いながらも、ジンは話を止めないために話を続ける。


「あれはたまたま、模擬戦の形式だったからだ。実戦なら普通に負けだ」


「だったら尚のことですわ。その技術があればテレンスはより実戦に強くなれますの。最終的には私を守る力が増すのですから、メリットは大きいですわ」


(ふうむ……この世界ではカウンターを“超反撃”と呼んでいるわけか。そして超反撃はこの世界では学び取るために師が必要なくらいには高等な技術と……EWOでは初心者脱出くらいの感じだったのだが)


 ジンはようやくその事実に気がついた。そう考えるとこれまでスライム狩りも、誰かに見られていたらまずいことになった可能性もある、と背筋が震える思いだった。


(これからEWO基準で行動する時には誰かに確認をしてからの方が良さそうだな。知らないうちに技術を垂れ流す可能性もあったわけだ)


 そこまで考えて、ソルに答える。


「知られているなら仕方がない。テレンス殿に超反撃のコツを教えようと思う。ただ、こちらからも要望があるがいいか?」


「何かしら?」


「ゴブリン狩りをしながら技術を教えたい。俺をテレンス殿の超反撃の的にされると、模擬戦のような気絶では済まないかもしれないんだ」


「確かにその通りですわね。テレンス、出発の準備をなさい」


「かしこまりました」


「……おい、今からか?」


「ええ、そうですの。とはいえジン様もご用意が必要だと思いますわ。1時間後に北門の外でお待ちしておりますの」




 どうしてこうなったんだ。


 ジンは馬車に揺られながらそう思った。ちなみに突然の出発のことではない。


 テレンスにカウンターの技術を教えるのだから彼が一緒に来るのは当たり前だし、善は急げという発想もわかる。


(なぜ、ソルお嬢様がついてくるんだ? 彼女はハクタの町で待ってもらった方がよっぽど安全だと思うんだが……)


 おかげでテレンスは妙な圧を放ちっぱなしだし、ソルはそんなこと気にせずに質問ばかりしてくるし、ジンにとってはかなり心労を抱えることになった。


(これがまだ帰り道分もあるんだよな)


 そう思うと今から憂鬱だったが、馬車が減速を始めたことで少し気分が晴れた。森に到着したようだ。


 馬車を降りると、街道の先が森に続いているのがわかった。魔物の気配は伺えないが、いつどこから襲ってきてもおかしくないような不気味さを感じる。


「ここからですね、お嬢様は後ろに」


 テレンスはそう言うと、剣と盾を構えて先頭を歩く。

 ソルはその後ろに、ジンはさらにその後ろで後方の警戒を行う隊列だ。


 本来はカウンターの技術伝達のためにジンが前に出るのが良いのだろうが、ジンは頑として拒んだ。


(前衛で不意打ちでもされたら死にかねない)


 ただそれだけだったが、服をはじめとした装備を確認された後であっさりと採用された。


 警戒して平野から森の中へ進もうとすると、入口の茂みから小さな影が飛び出してきた!


「まさかゴブリンか!?」


 テレンスは盾を使って身を固めた。

 その瞬間、その盾に攻撃が降りかかる。

 ゴイン、という不快な音がしたかと思うと、小さな影が弾き返されて地上に落ちた。


「もうゴブリンが森の端にまでいるんですの!?」


 テレンスの防御の音を聞き、ソルは急いでより後方に下がった。

 代わりにジンが前に出て、襲撃者の姿を確認する。


(子供よりも小さな背丈、手に持つ不格好な棍棒、間違いなくゴブリンだ。まさかもう再会できるとはな)


 そう思って拳を構え、テレンスと並び立った。


「テレンス殿、まずは俺に相手を任せて欲しい。基本ソル殿の護衛をしてもらって良いが、合図をしたら“挑発”を使えるように準備を頼めるか?」


「言われなくても護衛はする。ただ、“挑発”に関しては理解した」


 そう言うと、テレンスは隊列をより下げてソルの前に立ち塞がるように盾を構えた。


(さて、ゴブリンの数は2。さほど多くないのが救いだが奴らは増援を呼ぶ。早めに片付けたいが……)


 ゴブリンは武器を持ったテレンスが下がり、武器のないジンが出てきたことで顔を見合わせていたが、すぐにジンを見直してニャァっとその顔をより醜く歪めた。


(良い獲物が出てきたとでも思っているんだろうが、そうではないと教えてやるぞ)


 今のジンはレベル5。昨日の昼までとは違い、ゴブリン2体なら十分戦えるステータスになっている。素手でもカウンターを決めれば余裕だ。


 ジンはジリジリと距離を詰めつつ、ゴブリンたちの出方を伺う。ゴブリンたちもどうやら考えは同じようだった。


 お互いの距離が3メートルを切った瞬間、先にジンが動いた。

 向かって左側のゴブリンに突撃する。


「グギャ!?」


 ゴブリンはその行動が予想外だったのか、咄嗟に棍棒を使って守りに入る。ジンの攻撃にはなんとか間に合い、棍棒を蹴ったジンはその反動で足に痛みを覚える。


(普通の靴なんだから当たり前だが、結構痛いな!)


 すぐにプチヒールを唱えたくなるが、右からもう1匹のゴブリンがフォローに入りにくるのが見えている。回復は後だ。


 2匹目のゴブリンは走り込んでくる速度そのままに飛び上がって攻撃してきた。テレンスの時と同じように顔に棍棒を当てるつもりなのだろう。


 ただ、動きの見えているジンは問題なく対処できる。

 すぐさま空いている右手でゴブリンを殴りつけた。


 “カウンター”一閃。

 ゴブリンはこれまで戦ってきたスライムたちと同じように吹き飛び、そのまま動かなくなった。


 棍棒で蹴りを防御したゴブリンは、吹き飛んだ仲間を見て恐れをなしたのか、ジンに背を向けて森に戻ろうとする。


「テレンス殿!」


「“挑発”」


―――――――――――――――――――

 挑発 【(アクティブ)スキル】【範囲】【要:盾装備】

 自分を中心とした範囲の敵に

 “挑発”状態を与える

―――――――――――――――――――


 挑発状態は、攻撃対象を自分に固定する状態異常の一種だ。

 またこれがかかっている間、逃走を封じる副次的な効果も持つ。


 EWO廃人のジンは知っている。逃走したゴブリンは必ず仲間を呼んで報復しにやってくることを。


 挑発は成功したようで、回れ右をしてテレンスに突撃していく。あとは簡単だった。


「ふっ!」


 ジンはゴブリンを真後ろから2度蹴り上げ、絶命させた。

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