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6 ゴブリン

 ジンは逃げるように走る人影と、それを追う人影を視界に捉えつつ、徐々に今いる街道を逸れて小高い丘の方に向かっていた。


 ジンに正義感が無いわけではないが、逃げる側に加勢するというのは安直過ぎる。


(追われている側は見る限り野営などの道具をほとんど所持していない。インベントリがあれば別なんだろうが、今の俺の状態や雑貨屋のことを考えると一般的ではないはずだ……今の位置から森まではそれほど離れていない。森で不測の事態に遭遇し、逃げていると考えた方が自然か?)


 丘の上で観察を続けていると徐々に2種類の人影の詳しい情報が目に入ってくる。


 逃げる側が2人であることはわかっていたが、1人は騎士のような立ち姿で、もう1人はマントとフード姿のためかなり近くまで行かないとどんな人物かはわかりそうもない。


 ただし背丈は騎士と比べるとかなり低い方だ。子供の可能性が高い。


 一方で追う人影の数は6。全て棍棒で武装しており、逃げるフードの人物よりも背が低い。さらには緑色の皮膚を確認できたことでようやくわかった。


(あれは普通の“ゴブリン”だな……6匹となるとそれなりの群れだと思うが、まさか森から追ってきたのか?)


 森までの距離はそう遠くないが、EWOの魔物図鑑通りなら、基本的な生息地は太陽の光をあまり浴びることのない森や洞窟のはず。


 それよりも外側の領域、特に陽がよく当たる平原にゴブリンの群れが現れるとは考えにくい。


(可能性としてあるのは、何かしらの原因でゴブリンのコロニーを刺激してしまった、とか? ……いつまでも追ってくる時があるもんなあいつら。とはいえ本来の縄張りを離れてまで追いかけてくるとは、よっぽど大きなことをしてしまったのか? コロニーの長でも倒したか?)


 通常のゴブリンがコロニーという大所帯(だいたい100匹単位)を率いることがあるのは、EWOの設定上、“ゴブリン村長”や“ゴブリン騎士長”、もしくはそれ以上に強い指揮官タイプのゴブリン種である。


 ゴブリン村長とゴブリン騎士長はゴブリン全体では下の上~中の下くらいの強さであり、レベルはそれぞれ最低でも15と18。


 通常のゴブリンは最低3レベルなので10レベル以上の差があるということになる。


 そこまで考えて、騎士たちがコロニーの長を倒した説を否定する。


 仮にそうであるなら、そんなゴブリンの長を倒せるほど2人のレベルが高いということになり、最も弱い普通のゴブリンはとっくに経験値キャップに到達していて物の数ではないだからだ。


 さて、とジンは再び考える。

 2人を助けるか、否かだ。


 今の自分の戦闘能力を考えると……プチヒールおよびプチファイア用のMPは少なく見積もって3回分。


 無職(ノービス)レベル3かつ武器無しのためゴブリンは乱数4発で倒せる。対してゴブリンはこちらを確定6発で倒すことができる。


 この時点での結論は、ゴブリンの群れを相手にするのは正気じゃない。ということだ。


 もちろん、助けなかった場合に起こり得る事態も考える。


 何事もなくやり過ごせる可能性はあるが、仮に何かの拍子にゴブリンの群れがこちらに向かってきた場合は太刀打ちできず、また逃げ切ることもできないため確実に死ぬ。


 両者を天秤にかけ、ジンが選んだのは前者だ。


(人のために前に出ることは美徳だ。ただしそれは前に出る意味があること、そして前に出る自信と力があることが条件だ。それらを持ち合わせていない今の俺はやり過ごせるよう祈るしかない)


 果たしてジンの祈りは通じたのか、2人の人間もゴブリンたちもジンに気が付くことなく通り過ぎて行った。


 ジンは深く息を吐いた。


(急にこっちに進路を変えたりしないでよかった。今は相手がゴブリン1匹だって死にかけるステータスなのに、いきなりあの数だもんな……)


 そこまで考えて、念のため彼らの様子を観察し続けることにした。自分の狩りに夢中になってあの群れとかち合ってしまっては、わざわざ助けなかった意味がないからだ。


 しばらくはゴブリンたちが2人のことを追っていた。人間も魔物もスゴイ体力だな、と思っていると不思議なことが起こる。


 ゴブリンたちが2人を負うことを突如諦めたかのように、一斉に走るのをやめて立ち止まってしまったのだ。


 2人もそれに気が付き動きを止めるが、全く追ってこないことに気が付いたのか警戒して距離を取りつつ離脱するも、先ほどまでの逃げる必死さ、というものは感じられなかった。


(一体何なんだ?)


 さらにジンはゴブリンたちを観察する。2人の人影が見えなくなってもなお立ち尽くすゴブリンたち。森に帰るようなこともせず、本当にただの棒立ちだ。


 ……まるで誰かの命令を待っているかのように。


 そこまで確認したジンは、何やら危ない雰囲気を感じてその場を後にした。今日以降のスライム狩りの場所を大きく変更しなければならないな、とつぶやきつつ。




 その日の午後、2人の旅人がハクタの町の冒険者ギルドにもたらした情報は、直接聞いた冒険者ギルドのみならずノーマン町長をも驚かせる内容だった。


 その内容は……

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