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6 採集の終わり

「むむ、これですかね? あとこれもかな?」


(……今のところかなりいいペースで集まっているな)


 ナナシ草の群生地に着いたジンとマゼンタは、早速ヒール草探しを開始した。


 ヒール草はナナシ草の潜性遺伝種(という設定)であり、葉の生え方が違うという点以外はほとんど見た目が変わらない。


 またEWOと異なる点として、ナナシ草はある程度固まって自生する傾向にあるようで、今回のように群生地が存在するらしい。


 要は四つ葉のクローバー探しに似ているわけで、幼い頃に一瞬ハマって以来、久しぶりの行為だったのだが……ジンの採取カゴの中は寂しいものだ。


(マゼンタを見ながらってのもあるとは思うが……)


 開始して数十分、既にマゼンタの採取カゴには、溢れんばかりのヒール草が並んでいた。


(コツを掴めばもっと効率よく採取できたりするのか? 少なくとも今は全然わからんぞ)


 四つ葉のクローバー探しの達人だった、もう顔もわからない小学校の同級生を思い出そうとしていると、


「あの、ジンさん? 300グリムくらいは集まったと思うのですが……?」


「ん、ああ、すまない。……確か重さの判断はこっちでしてもよかったな。今から準備するから、あとでカゴを貸してくれ」


 ジンはそう言うと、自身の採取カゴからヒール草を一旦取り出し、そこに投げナイフを慎重に入れていった。


「話には聞いていましたが、本当に投げナイフを持ち歩いてるんですね……危なくないですか?」


「使い始めた時は怖かったが、今は手の延長みたいな感じだな。そのうち足でも扱えるようになりたいと思ってる」


「うへえ……私なら絶対無理です……」


「まあ、僧侶クレリックで扱うのはちょっと無理があるかもな……じゃあカゴを貸してくれ。重さを比較する」


 ジンは雑談をしつつ、投げナイフ入りのカゴとヒール草入りのカゴを交互に持った。

 どちらのカゴが重いかを調べる、極めて簡単な方法だ。


 ジンの投げナイフは製作にあたり、近い重さ、近い重心のものにしてある。

 実際の重さも測定済みで、この世界の水が地球と同じ密度であれば、およそ150グリムになっている。


「どうですか?」


「カゴに大きな差があるとわからないが、まず300グリムは超えているな。マゼンタも確認してみるか?」


「わ、私は大丈夫です!」


「そうか? 重さを量るトレーニングは必要だと思うが……」


「やるとしても、もっと別の方法を使います!」


「……そ、そうか。いい方法だと思うんだがなあ」


 マゼンタが頑なに断り続けるので、ジンは仕方ないと肩をすくめ、投げナイフを懐に仕舞い込んだ。


「さて、これからどうする?」


「今回の依頼はもう達成してますし……これ以上は他の方に迷惑かもですから、今日はやめにします」


「わかった」


 ジンは心の中のメモに、ある程度引き際を理解していて得点が高いことを記しておいた。

 こういう細かな事項も、職員の評価につながるとのことだからだ。


「さて、帰りの注意点は覚えているか?」


「はい! 可能な限り来た道を戻ることと、採取品を守りながら戦うこと、でも危なくなったら採取品を置いて逃げること、です!」


「うーん、その回答はソロ探索なら満点だが、今みたいな複数人なら80点だな……これは、依頼開始の段階では敢えて伝えなかったことなんだが」


 ジンの返答にマゼンタはしゅんとした表情を見せたが、すぐに切り替えて真剣なまなざしに変わった。


「これからヒール草を守りながらハクタに戻るために、マゼンタと俺、2人の役割を決めておく必要がある」

 

「役割、ですか?」

 

「ああ。ざっくり分けると、先導する役割とヒール草を守る役割だな」

 

 ジンはVサインをするように右手をマゼンタに見せ、説明し始めた。

 

「行きはマゼンタの能力確認も込みで、ほぼすべての作業を1人でやってもらっていた。だが帰りは依頼のターゲット、ヒール草を持ち帰ることが命の次に大切な目標になってくる」

 

「そうですよね……命を大切にしているだけじゃ、冒険者として生活はできないですからね」

 

(……まあ俺がドロップを求めて冒険者してるってのは、別に話さなくてもいいよな)

 

 ジンはあくまでも、シアンに教えてもらった講習の要領を元に話を続けることにした。

 

「そこでさっきの役割分担だ。正直マゼンタの実力なら、先導もヒール草の防衛も、どちらもできると思っている」

 

 実はナナシ草の群生地にたどり着くまでの間に、スライムとゴブリンに1回ずつ遭遇している。しかもゴブリンに関しては2匹同時にだ。

 

 マゼンタのレベルや装備からスライムがワンパンなのは当然として、2匹のゴブリンが相手となった際も、大きな傷を負うことがなく勝利できている。


 内容はよく言えばセオリー通り、悪く言えば多少応用力が不足していたが、経験が少ないうちはそのほうが遥かに安全である。

 

(かなり訓練を積んだんだろう。であれば、成果物を確保しつつの移動や、先導の注意点もクリアできる可能性が高いな)

 

 ということで先ほどの提案をしたわけなのだが。

 

「私が先導します!」

 

 まさかの即答だった。

 しかも自分が負傷する確率の高いほうを選んだことに、ジンは少し驚いた。

 

「先導か。ちなみに理由とかあるか?」

 

「さっきのお話だと、ヒール草を守り抜くことが大切になりますよね? ジンさんならこのあたりの魔物よりもかなりレベルが高いですし、盗賊(シーフ)なので不意打ちを受ける可能性も低いと考えたのですが……」

 

「わかった、前を頼む。くれぐれも気をつけてくれ」

 

「え、本当にいいんですか?」

 

(……しまったな。かえって不安を煽ってしまった)

 

 ジンとしては本当にどちらでもよかったし、むしろ自分の考えのもと選択したのであれば好印象ですらあるが、マゼンタからしてみれば相当あっさりした返答であったため、不安がありありと見て取れる。

 

「ああ。この依頼でのリーダーはマゼンタだしな。マゼンタが考えて出した結論なら、それをフォローするのも仲間の役目だ」

 

 ジンが新しく入った後輩に接するように、努めて明るい声と表情で説明したところ、マゼンタから不安が幾分かは抜けたようだった。

 

「いいんですよね?」

 

「ああ」

 

「……わかりました。ジンさんがケガしないように、しっかり先導します!」

 

「頼りにしている」

 

 自分が傷を負うことには抵抗がないのか? とジンは考えながら、2人で群生地を後にした。

本当にお久しぶりです。

職場が変わり暇な通勤時間ができたので、またちびちび投稿していきたいと思います。

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