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37 伯爵邸解放戦③

「さて、ここも制圧は完了したが……なかなかキツイ戦いだったな」


 そうつぶやくジンの周りには、鎧姿の親衛隊達が血を流して転がっている。表情こそわからないが、時折聞こえる声は非常に苦しそうだ。


「あれがキツかった? こいつらとほぼ同数のハードリビングメイルを簡単に倒していたのにか? ……お前の感想はよくわからんな」


 テレンスは肩をすくめ、剣を鞘に収めて続ける。


「俺とお前は軽傷、アンドレ殿に至ってはほぼ無傷、お嬢様は汚れすらついていない。誰がどう見ても快勝だろう」


 そう言うテレンスは汗こそかいているものの余裕の表情だ。顔に出せないアンドレも同調するように頷いている。


「そりゃ前衛2人はそうだろうけどな、問題なのはM……魔力の方だ。ソルも俺もそれなりに魔法を使わざるを得なかったからな、正直あまりいい勝利じゃない」


 思わずMPと言いそうになり、EWO用語を口に出す癖は早く直さないとなと考えつつジンはそう答えた。


 “観察”にうつる情報では、ソルのMPは6/10となっている。

 作戦では最初の“サイクロン”以外の魔法の使用は自由にしていたが、“サイクロン”一回ではソルのMPは最大値の1割も減らないはずなのだ。


 6/10というMPは、この一戦いのみでそこそこの数の魔法を使っていたということになる。


 ちなみにジン自身の情報は具体的な数値としてはわからないが、“スモーク”の使用回数を考えれば、同じスモークは残り2回しか使えないはずだとジンは計算していた。


 残る魔法薬の数を考えると……


「ソル、索敵前に1本、後の扉を開ける前にもう1本下級魔法薬を使ってくれ。知ってると思うが、薬は連続で使うと効果が薄くなるからな、計画的に行くぞ」


 これもEWOの仕様のひとつだ。

 内容は、連続で回復アイテム使用を使用すると、回復力が30%ずつ落ちてしまうというもの。3回目の回復力は半分を切るため、EWOプレイヤーたちはそこを連続使用の限度としていた。


 ちなみに、連続使用の回数をリセットするには、何かしらのスキルを使用するかゲーム内時間で5分経過すればいい。


「わかりしましたわ。では早速」


 そう言うとソルは下級魔法薬を優雅あおり、スキル発動の準備に入った。

 この瞬間からスキル発動までの5秒間、周辺が完全に無力化されている今に限ればジンは全くやることがなく暇だ。


 ジンはそのわずか5秒の間でも、自らの中にある疑問に向き合う。


(言っておいてアレだがこの回復薬の仕様、というのか? これが明らかにおかしいって俺は思うんだがなあ……)


 連続で使うと回復量が下がる、というのは薬であることを考えればわからないでもないが下がり方が露骨すぎるのだ。

 あまりにもゲーム的というか、現実離れしているように思える。

 回復薬の仕様だけではない。ジンが常日頃使っているバックアタックやカウンターもそうだ。


 あの女神が言っていたように、EWOというゲームが偶然この世界とほぼ同じものであったというのも、正直疑わしく思っているジンがいる。

 やはり、自分にとって都合が良すぎるのだ。


 例え女神の言葉が嘘だったとしても、今あるこの世界が夢とも思えないため対案が出せない、というのは事実なのだが。


「——“精霊共鳴”。扉の先に敵は無し、ですわ」


「……わかった、ありがとう」


 思考の途中であったが、ソルの一声でジンはすぐに我に帰る。


 お礼を受け取ったソルはジンの言った通り、2本目の下級魔法薬を飲む。

 それを飲み干すのを見てからジンは口を開いた。


「よし、全員準備はいいな? ……書斎はこの扉を通って突き当たりを左、その先の扉だったな?」


「ええ」「ああ」


「よし、3カウントで俺が扉を開く。それから全力で走り抜けるぞ、3、2、1、行くぞ!!」

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