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31 報酬、そして

 いつのまにか100話を超えておりました。


 細々と書き進めておりますので、これからも応援していただけると幸いです。

 ジンはサンドワイバーンからぬすんだ通常ドロップ、“亜竜の鱗”を眺めてから、ボス部屋の中央へと歩く。無論、残りの3人もジンの姿を追う。


 サンドワイバーンを倒してからは2つのことが起こった。


 まず、入り口から最も遠い部屋の奥に、床から天井まで伸びる光の柱が出現した。ダンジョンの入り口へと転移する、通称“帰還の光”だ。


 ジンはEWOの中で何万回と見てきたが、それ以外の3人は全員実物を見たのは初めてのようで感動の声を上げていた。


(テレンスのレベルでもダンジョンを突破したことがないのか……だったらこの世界の人達が低レベルのままなのも当然か)


 町の外で魔物とエンカウントする回数はジンの体感で、丸1日歩き回ってもEWOの1時間にすら満たない。

 一方でダンジョンは、EWOよりはエンカウントしないものの大きな差はないと感じた。


「ダンジョンに潜りまくれば皆あっという間にレベルが上がるはずだけどなあ……と、こいつだな」


 そうこうしているうちに、ボスの真横に佇む宝箱へとジン一行がたどり着く。


 これが2つ目に起こったこと。

 中身は言うまでもなく、ダンジョンボスの撃破報酬だ。


「これが、ボスの宝箱ですか。大きくて豪華ですわね」


「各地で突破済みのダンジョンで得られるものでもそれなりの価値はあります。が、ここは私が聞いた限り未踏破……どれほど価値あるものが出るのか、私には検討もつきません」


「まあ、どんな結果でもきっと3人は驚くだろうな。とはいえぬすみが普通だっただけに期待はできないけど……ん?!」


 ジンが話しながら宝箱を開け、一瞬だけフリーズしたがすぐに再起動。喜びを爆発させてとあるアイテムに飛びついた。


 ダンジョンの撃破報酬は、必ず2つのアイテムが得られる。ボスモンスターのドロップ品と、ダンジョンごとに決められたドロップ品だ。


 これらのうち、ジンが手にしたのは後者に分類されるものだった。


「マジかマジか! 一発レア?!」


『ほう! 何が入っていたのだ??』


「これだよこれ!」


 ジンが宝箱から取り出したのは、オレンジ色の指輪。この世界の物にしては色が鮮やかなこと以外、特筆すべきことは何もないシンプルなものだ。

 ジンは3人に少しだけ見せたかと思うと、すぐに自分の方へと引き寄せ色々な角度から眺める。


「ほー、やっぱり魔道具だからかサイズは大きめにできてるな。俺の親指にも余裕で入りそうだ。グレートなバングルでもそうだったけど、アクセサリー類はあっちじゃ考えられないほどのフリーサイズっぷりだな」


『正直我には、防具になりそうな鱗の方が価値があると思うのだが……?』


 首を捻るアンドレをよそに、ソルは指輪を見るや戦慄した面持ちで答える。


「あ、アンドレ様。あれがただの指輪な訳がありません。ここまで魔力の籠った道具は初めて……いえ、これは……?」


「おお、ソルは気がついたみたいだな。こいつの名前は“エレメントリング【凪】”。身につけると地の精霊ノームの加護を得られて、ある程度の風属性魔法を軽減できる。精霊魔法を使えるエルフのソルだからこそ、ノームの力が宿っていることがわかったんだろう」


 ジンが摘んだエレメントリングが少しだけ強く輝いたのはきっと偶然ではなく精霊によるものだろう。


「属性魔法の軽減だと?! ……ということはあの魔術師(マジシャン)の魔法攻撃に対処しやすくなるということだな?」


「今のルインのレベル次第だが、事前情報通りならしやすくなるどころじゃない。疾風魔術師(ブリーズマジシャン)なら、最初に覚える“ウィンドアロー”より弱い魔法は無傷。警戒すべきは“サイクロン”だけになるんだ」


「「……え?」」『……ほ?』


 普段は全く印象の異なる3人が揃って疑問の声を上げた。それがどこか面白くて、ジンは吹き出してしまう。


「ぷっ……驚かせるつもりで伏せてたんだけど、こうも驚いてくれると笑えてくるな」


「まったく、あの方が言っていた覚悟とはこういうことでしたの?」


「ん? どうしたソル?」


「なんでもありませんわ。ですが、そろそろ教えてくださいまし。……ジン様はいったい何者ですの?」


 ソルは疑問を投げかけてからすぐに続ける。


「魔物の知識だけでなく、職業(ジョブ)の知識、種族の知識、果ては魔道具まで……まるでこの世の全てを知っていると言わんばかりの知識の質と量。私、ジン様が神の遣いとおっしゃられても信じますわ」


「神の遣い……そういえばアンドレも同じようなことを言っていたな」


『並の人間ではその結論に至るのが限界ということだ。さすがにそろそろ答えてやったらどうだ?』


「ま、そうだな……でも、もう少し待ってもらえるか?」


 ジンが全員に見えるように図鑑を取り出し、達成率のページを開く。


 達成率:5.0%


 そしてその下に新しく、例の付箋が追加されていた。


 『おめでとうございます』

 『ポータブル女神像を渡します』

 『ここを触るともらえます 女神』


 これまでと同じ丁寧な字で、“ここ”の文字が若干太く強調されている。恐らく“ここ”の部分に指か何かで触るのだろうが……。


「何がなんだかよくわかりませんが……私がこの文字を読めるということがわかりましたわ」


「お嬢様、私もこの文字が読めます。外国の文字でもこれほど曲がりくねったものは無いはずですが……ジン、お前本当に何者なんだ??」


「まあ2人に明かすのはもう少し後にするつもりだったんだがな。俺は、」


 そう言いながら、ジンは無意識に“ここ”に触れていた。


 すると付箋に向かって柔らかな光が降り注ぎ、天から女神像が降りてきた。その神秘的な光景にソル達は呑まれ、そして女神像から目を離せなくなった。


 この世界では教会で大小様々な女神像を拝むことができるが、降りてきている女神像は手のひらで体を握り込めるくらい小さなものだ。


 だがその造形は精緻を極めている。ソルが遠目にも髪の一本、服の皺に至るまでがはっきりとわかったほどだ。


 その光景もあいまって、女神がその御姿を写し取りジンという神の遣いに褒美として下賜しているようにも見えた。


 だがソルは、その自身の考えに疑問を持つ。


 ジンが、女神像を受け取ろうとしていないからだ。


 ソルが女神像が降り立つであろうジンに目を向けると、“ここ”に指を触れてから時が止まったかのように動かないジンの姿があった。


 女神像はおろか光にも目を向けず、じっとソルの方を見つめている。

 ジンが神の遣いであったとして女神像にそこまで意味はないとしても、それでも何も動かないというのはあまりにおかしい。


 何故か何故かと考えるうち、ついに女神像はジンの手元までやってきた。


 そこまできてようやくジンは手を動かし、女神像をおっかなびっくり手に取った。——少なくとも、ソルにはそう見えた。


 まるで女神像が、突然手元に現れたかのような反応にソルのますます疑問が膨らんでいく。そしてその様子をよそに、ジンは大きく息を吐いてから話し始めた。


「ふぅ……そうだ。ソル、テレンス、回答の続きだ。——俺は、この世界の人間じゃない。この世界を知る、別の世界からやってきたんだ。……本当はもっとゆっくり説明したいんだがどうやら時間が無いらしい。色々やりつつになるが、許して欲しい」

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