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6 いざ、ドロップを求めて

 魔物狩りを実行することにしたジン。

 武器は無いが、回復魔法と下級回復薬を活かして町の周りを探索するくらいなら問題無いとの考えからだ。


 しかしハクタの町周りの魔物がスライムと土もぐらだけとは限らない。ギルドで聞けばよかったのだが、門近くまで来てしまったため今更戻るのは面倒だ。近くにいる門番の兵士に聞くことにする。


 冒険者登録している間に交代の時間が来たのか、ハクタの町に入る時にいた兵士とは別人だった。


「仕事中にすまない、少し聞いていいか?」


「なんだ?」


 兵士は門の外を見ながらジンに答えてくれた。


「この辺りにスライム以外の魔物は出るのか?」


 兵士は首を横に振って答える。


「いや、商人や冒険者にも話を聞くことがあるが、最近はほとんど出ないらしいな。スライムだけはそこそこ居るみたいだが」


「最近は、ということは昔はいたんだな。何があったのか知っているか?」


「直接の原因かは分からないが、1ヶ月くらい前からナナシ草が取れにくくなったんだ。その頃から魔物は減っていったな。なんでも、ナナシ草を主食にしてた魔物が森に帰っていくらしいぞ。おかげで門番としては暇なんだからありがたいけどな」


 EWOでは採取すれば目的のものと合わせて余るほど手に入ったナナシ草だが、この地域ではそうでもないのか……。

 それなら常設依頼になっているのも納得だ、とジンは考えた。


 更にジンは魔物に関して、別の角度からも質問をしてみる。


「今この近くの森には、土もぐらが出るということか?」


「そうらしいな。もともと森の方に行けばウルフやゴブリンが出るんだが、土もぐらも1ヶ月前からよく見かけるようになったらしい」


 土もぐらは植物の根を主食にする魔物だ。特にナナシ草の根は大好物で、EWO内ではナナシ草関連の依頼をこなすときは必ずと言っていいほど敵として遭遇した。


 対してウルフやゴブリンは森や洞窟などの薄暗い環境を住処にする雑食性の魔物だ。捕食対象には土もぐらも含まれる。


 加えて、本来ナナシ草は平原でもかなりの量が生える。故に土もぐらは森や洞窟よりも捕食対象の少ない平原の出現率が高く設定されていた。


(今はその法則を破り、森に住処を移さなくてはならないほどナナシ草が減っているということか。土もぐらにとっては、事態はギルド以上に深刻と考えて良さそうだな)


「ありがとう、事情は分かった。これから平原を探索しようと思うが、何か手続きは要るか?」


 兵士は再び首を横に振った。手続きがないのはありがたい、そう思って町を出た。


(さて、ここまでの情報で、ハクタの町周辺探索の目標が決まった)


 街道を歩きながらジンは考える。

 メインはスライムの討伐と核の回収。

 サブでナナシ草を含むハクタの町周辺の植生の把握だ。


 これがEWOであれば、より多い経験値とクルスを求めて迷いなく森に向かうところだが、現実に死んでしまう可能性がある以上安全策だ。


 特にウルフやゴブリンの群れが襲ってきた場合の危険度は、スライムの群れとは比較にならない。


 サブ目標にした植生把握は、兵士の言葉の裏づけと各種植物素材の獲得を目的とした。


 回復薬以外にも有用な植物は多いため、得られるものは得ておこうという魂胆だ。

 無論見つかればラッキー程度だが、珍しいモノなら露天の行商や道具屋に売ることも可能だろう。ついでの稼ぎと考えれば十分だ。


(森から出てきたときは命の危険もあって、寄り道は考えられなかったからな)


 だがハクタの町という拠点ができたことで、存分に探索ができる。

 討伐数の目標は宿泊代と食事代、それに貯金でスライム30匹分だ。頑張ろう。

 ジンは拳を突き合わせて探索を始めた。




 街道沿いには魔物がいない可能性が高かったため、少し離れた場所を探してみると、スライムがわらわら見つかった。


 中には十数匹の群れもあったが、それは完全スルー。ハクタの町に向かう時に見つからなかったのはラッキーだったとジンは思った。


 基本的にスライムは1対1の状況に持ち込んでカウンターで打ちのめしていく。攻撃パターンを変えるほど知能は高くないようで、仲間がカウンターで倒されても気にせず体当たりをしてくるためやりやすいことこの上なかった。


 そんなわけでサクサク狩りをしていたところ、気づけばスライムを20匹も討伐してしまっていた。

 ジンは背負った麻袋が少し重くなってきたなと思うが、まだ日が沈むには早いことと、プチヒールがあと2回使えることからペースを落とさずに探索を続けようと考えた。


 21匹目のスライムをカウンターで倒した時に、それらは起こった。


 1つ目は、


 ——レベルが3に上がりました。

 ——スキル“武器熟練(微小)”を習得しました。


 レベルアップだ。


 無職(ノービス)レベル3の習得スキルは“武器熟練(微小)”。自分が行うあらゆる武器攻撃の攻撃力に5%の上昇補正が入る。無職(ノービス)でははっきり言って無いよりはマシ、程度のスキルだ。


 それよりは元々のステータス上昇の恩恵が大きい。これでプチヒールがさらにもう2回追加で唱えられる。


 そして、二つ目がジンにとって待望の瞬間だ。


 スライムが核を残して消え去るのと同時に、核の隣に急に古びた宝箱が現れた。

 ランダムドロップである。


(キタ!! 本当にドロップアイテムがもらえるとは思わなかった!!!)


 逸る気持ちを抑えて宝箱を開けてみると、中身は瓶詰めされたぷるぷるの物体だった。ジンをはじめEWOプレイヤーにはなじみ深いもので、その名前や特性は店に持っていかずともわかる。


(しかもいきなりレアドロップの“スライムゼリー”! 今回の探索は大儲けだ!!)


―――――――――――――――――――

 スライムゼリー 【消費アイテム】

 HPを少量回復し、一定時間ダメージを

 わずかに減少させる。

 スライムのようなゼリー。さっぱりした味。

―――――――――――――――――――


 スライムゼリーは食べることで下級回復薬と同等の体力回復に加え、一時的に受けるダメージの5%をカットする効果が得られる。

 このように効果は微妙だがレアドロップのためか売値が高い。EWOではこれだけで500クルスだ。


 ジンは回復手段として、既にプチヒールと下級回復薬の二段構えであることから薬屋や道具屋は覗いておらず、スライムゼリーのハクタの町での価格は不明。


 しかし、武器の価格を考えると冒険に関わる商品はかなり高額であると想像できる。

 スライムゼリーもきっと高く売れるだろう。


(しかもランダムドロップがこの世界にも存在することを確認できたのは大きい。最初の職業(ジョブ)と、今後の職業(ジョブ)取得方針は決定だ……目指すは“盗賊(シーフ)”スタートの“財宝探索家(トレジャーハンター)”!)


 財宝探索家トレジャーハンターはアイテムドロップと、遺跡などの閉所索敵に特化したEx職業(ジョブ)だ。

 戦闘で使える魔法は多くないが、武器とスキル、アイテムによる戦闘力はそこそこあり、最高難度ダンジョン以外では前衛から中衛で十分な活躍が見込める。


 職業(ジョブ)の組み合わせは、

 盗賊(シーフ)の最上級で、あらゆるものを”ぬすむ”ことができる“盗賊王(シーフキング)”。

 弓使い(アーチャー)の派生最上級で、索敵、罠の使用および解除が高いレベルで行える“特殊部隊(コマンドー)”。

 生産職の一つ、商人(トレーダー)の派生最上級で、特産品やドロップアイテムなど、貴重な物品をさらに高く売れる“貿易商(マーシャント)”。

 以上の3つだ。


 さらに、種族が人間(ヒューマン)であるジンは、最上級職をもう1つ取得することができる。その1枠はこの世界に合わせた何か、ということにしておいて後から決めればよい。


(そうと決まれば、もっとレベルアップを頑張らないとな!)


 拳を突き上げ、一人そう決意するジンであった。



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