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1-8 そなたは十分に強い

 数週間の時が経っていた。陽平はロッテと毎日のように金策の狩りに出かけ、億万長者になっていた。ロッテはレベル99になった。気が向いた時だけ参加していたマデリンも97レベルになっていて、もう少しでカンストである。


 狩りから帰って一風呂浴び、高級レストランで夕食中の三人。ジュリアンはここ数日、パーティメンバー検索を非表示にしてどこかに出かけているようだった。

「なんとなく聞いちゃいけないのかなと思ってたんだけど、このパーティーは魔王討伐行かないの?」


 マデリンがため息をつく。

「前に魔王城まで行ったんだけど、こっぴどくやられたのよ。それでジュリアンが怖気づいてしまってね」

「ぼっちゃまが気に入っていたプリーストさんが錯乱して逃げ出して、崖から身を投げてしまい……。それからというものぼっちゃまはお酒に溺れ、女の子をとっかえひっかえというような荒れた暮らしをされています」

 マデリンはワイングラスを傾け、遠い目をする。

「相思相愛だったものね。あの時、陽平みたいな高位のヒーラーがいてくれたら助けられたのかしら」

 しんみりした空気になってしまって、無言で食事をしていると、入り口のほうが騒がしくなった。


「殿下、そのような身なりでの入店はご容赦くださいませ」

 見ると、ジュリアンが支配人になだめられていた。

 三人が駆け付けると、ジュリアンは誇らしげな顔で言った。

「私もレベルカンストしてきましたよ。参りましたか、おっさん!」

 拳を突き出して威張ったかと思うと、近くのソファに腰かけて眠ってしまった。

「やだ、この子ったらシャワーも浴びないで戦い続けてたのかしら」

 髪はボサボサで無精髭だらけ、鎧についたモンスターの血や脂とジュリアンの体臭が混じりあい、ひどい有様だった。

「でも、すごく満足そうな顔をされています。陽平さんに対抗心を燃やして、ぼっちゃまも元気になったみたいですね」

 ジュリアンは魔王討伐のリーダーとして勇者ジョブを授かっているが、中身は剣士である。近接ソロでのレベル上げはまとめ狩りもできず、骨が折れたはずだ。

 一行は支配人に詫びて会計を済ませると、転移の魔法でホテルに戻ったのだった。


 翌朝、四人はホテルのカフェテラスでお茶をしながら話し合っていた。明るいうちからシャキッとした四人がそろっただけでも珍しいぐらいだった。

「みんなレベルアップしましたし、悔しいですが、おっさんの戦力があればいけると思うんです」

「そうね、ほぼ全員カンストで賢者までいるなんて、こんなに充実したパーティーは滅多にないはずよ」


 ロッテが申し訳なさそうに水を差す。

「それが……いろいろ調べてみたのですが、私達が以前やられた魔王のようなモンスターは魔王ではないようなのです。そして、今まで誰一人としてあのモンスターを突破できた人がいない」

「あんな恐ろしい化け物が魔王じゃなくて何が魔王だっていうのよ? その情報は確かなの?」


 ジュリアンが苦々しい顔になる。

「姉上は離れて詠唱していたから気づかなかったかもしれませんが、あの奥にまずい気配があったのは確かに感じました。まあ、詳細を確かめる前にカレンがあんなことになってしまったんですが……」


 例の亡くなったプリーストのことらしい。

「その、カレンさんが錯乱したときの様子を教えてもらえないかな?」


 ジュリアンは一瞬不快そうな顔をしたが、気を取り直す。

「カレンは優れたアークプリーストで、ステータス透視も得意でした。その彼女が奴のステータスを透視したとき、何か恐ろしいものを見てしまったようなのです……」


 つらそうに話すジュリアンに代わってロッテが続ける。

「こんなの無理に決まってる、この世界はおしまいだわと叫びながら逃げ出して、背後の崖から身を投げてしまいました。崖の底は針山のように尖った岩だらけで……」


「なるほど、そういうことか」

 カレンが覗き見たのはカンストを超えたレベルだったのだろう。それもかなり大きい数字だったはずだ。勝ち目のない魔王の存在を悲観して、発作的に自殺してしまったのかもしれない。

 手持ち無沙汰になってそれぞれにお茶をすする。ティーカップがソーサーに触れる音がやけに尖って聞こえた。


 気まずい空気を打ち消そうと陽平が口を開く。

「ところで、その魔王ってどんな悪さをしてるんだっけ?」

 冷静に考えてみると、魔王討伐のパーティーに入ったから討伐しなきゃと思っていただけであって、魔王がどんな悪事を働いているのか知らなかったのだ。


「あら、知らないの? 魔王は怠け者を束ねる、怠け者の王だと言われているわ」

 怠け者の王という響きに不思議な魅力を感じる陽平。

 マデリンはかまわず続ける。

「職業から逃れるために国を出た人は怠け者の国レサジアに向かうの。魔王というのはそのレサジアの王で、この星のマナを吸い上げて糧としたり、モンスターを作り出して使役しているのよ」


 ロッテは皿に盛られたクッキーに手を伸ばしながら、楽し気に言う。

「この国の子どもたちは『ちゃんと働かないと魔王が来てレサジアに連れていかれちゃうよ』なんて言われて育つんですよ」

 ジュリアンがおどけて言う。

「私もレサジアの人々を非難するほど働いてませんがね。星のマナをタダ食いしまくってる連中を放置したら星が枯れてしまいます。魔王ってやつは中でも大喰らいらしいです。そいつだけでもなんとかしないと星がヤバイのですよ」

 ロッテがうんうんと肯く。

「星のマナを使い果たせば魔法が使えなくなり、文明は滅びます。気候もめちゃくちゃに変動してしまうそうです」


 ふと、陽平はウィンドウを開いて調べ物をする。この星の名前は……惑星プロネウスとあった。やはり、聞いたことのない星に来ていたようだ。

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