1-7 金策に行こう!②
火口を取り巻くようにあちこちにいたエンシェントドラゴンも数少なくなってきた。色々な付与をした矢を試すうちにすっかり乱獲モードに入っていた。
「空震!」
陽平が威力は弱いが範囲だけはやたらと広い魔法で竜を釣って集める。
「アローストーム!」
集めた竜をロッテが範囲攻撃で仕留める。無数の矢を放つ金食い虫の大技に最高級の死の矢を使う。湯水のごとく使い放題に使う。
「アハハハ……気持ちいい……やっぱりこれが一番いい……」
ラスト一匹まで倒し切ったところで地震が起きた。万が一の噴火に備えて転移魔法の心づもりをする陽平だったが、火口から声が聞こえてきた。
「残虐なる人の子らよ。何が悪いと言って我の子どもたちを殺戮したのか。我が子らが貴様らに何をしたと言うのだ」
火口から幾分小ぶりな竜が飛び出てきた。象の数倍だった子ども達に対して、この竜はせいぜいサイぐらいの大きさだ。体全体が溶岩のように赤く白く光を放っていた。
ロッテはシュンと申し訳ない顔をする。モンスターでもかわいそうという優しいロッテに戻ってしまっている。
「なんていうか、喋るやつとは戦いづらいな……ハハハッ」
笑ってごまかす陽平に竜は詰め寄る。
「我が子を返せと言っている。貴様なら蘇生もできるのだろう? 賢者陽平よ。大人しく我が子らを返せば命までは取らぬ。早うせぬか! 間に合わなくなるぞ!」
すごく長生きしていそうなドラゴンロードに怒られて陽平の心も揺れる。矢を作って売るのを副業にすれば、この賢いドラゴンロードを殺して目玉を奪う必要も無い。
「エクスプロージョン!」
突如ドラゴンロードを中心とした大爆発が起こった。声のした方角に目を凝らすと、マデリンが手を振りながら歩いてきた。
「面白そうなところにいるから来ちゃった」
パーティーメンバーの位置はお互いに把握できるので、買い物を切り上げて来たらしい。高級な転移の羽を使ってすぐそばに転移してきたに違いない。
「容赦ないな、マデリンさん」
「はい、お嬢様は破壊の姫君と称されるほど容赦ないお方です」
合流したマデリンはキョロキョロと辺りを見回す。
「死骸も残らなかったかしら? ごめんなさいね、目玉狙いだったのでしょう?」
「マデリンさん後ろだ!」
溶岩のような竜は元通りに再生してマデリンの背後にいた。右手を振り上げて鋭い爪で斬りかかる。
間一髪、ロッテのパーティー防御が発動して両者の間に割って入った。とっさに籠手で受け止めたが、溶岩の爪が籠手を蒸発させてしまう。
「回復・シールド・マジックシールド!」
陽平は続けざまに魔法を使ってロッテを守る。
ロッテは飛びのいて装備を二刀流の短剣に替えた。
竜の斬撃を短剣で受けたり逸らしたりしているが、短剣のブレードが溶岩の色になって溶けてくる。
マデリンは離れたところで詠唱している。杖の先の紅玉に魔力が収束していく。
「密陀僧の砂礫、砲金の粉塵、泥濘と沸き立つ蒼穹に夫子の業を焼べよ。開闢の薄明、功し音声……」
もう少しのところで竜は火の玉を吐いて詠唱を邪魔してくる。
「これはちょっとまずいな」
陽平はこれまで試す機会が無かった攻撃魔法を使ってみることにした。
「エンシェントドラゴンロード!」
呼ばれて竜は振り返る。
「死ね!」
竜はウッと唸ってその場に崩れ落ちた。溶岩のようだった体は光を失って小ぶりな白竜に戻っていた。
マデリンが詠唱をやめて駆けてくる。
「デスをあんなに簡単に成功させるなんて、あなた何者なの?」
デスの魔法は特に詠唱が長く、スナイパーのように遠隔から本を片手に使う暗殺術だという。成功率も実力に大きく左右されるものらしい。
メイドのロッテが巨大な包丁を取り出して解体ショーをしている間、陽平はマデリンにレクチャーした。
「なるほど、つまり詩のような詠唱はイメージを強化するための方便に過ぎないというわけね。誰もが詩を唱えることで魔法が発動するものだと思い込んでいるけど、詩を唱えるうちに自然とイメージできるように作られていると。陽平、素晴らしい大発見だわ」
竜の子一匹見当たらなくなった火口の荒野でマデリンは試し打ちをする。
「大爆発!」
唱えるや否や、空で大爆発が起こる。
「大洪水!」
火口の中の溶岩に大洪水を浴びせて盛大に水蒸気が上がった。
「凍結!」
盛大な水蒸気が凍り付き、火口の上に雪の結晶が舞った。
「すごく便利だわ、ありがとう陽平!」
マデリンは陽平のほっぺにキスをして大喜びした。
「マ、マデリンさん……」
「マデリンでいいわよ。あなたはどんな師匠よりもすごいことを教えてくれた大恩人ですもの」
ほどなくしてロッテの作業が終わり、解体した戦利品を分け合って、一行は街に戻ったのだった。