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4-13 ジュリアン

 楓恋とロッテはジュリアンを連れて女神プロネウスの神域にきていた。魔王城にはジュリアンに滅ぼされた国や町から逃げてきた者も多く、反感を買ってしまう。そう考えていたところにちょうど呼び出されたのだ。


 ママが暮らす離れの寝室に案内された三人。客間のようでベッドが二つある。

「まずはジュリアン君がそこに寝てちょうだい」

 ロッテに促されるとジュリアンは従った。

「そして、二人の美女がジュリアン君に抱きつく」

「え!? 抱きつくんですか?」

 楓恋が驚きの声を上げた。

「もう抱きつくのも嫌なほどだった? 元カレでしょう?」

「ま、まあべつに、嫌いになったわけじゃないですけど。しばらく見ないうちにお姉ちゃんと結婚してただけで」

 ロッテはそそくさとベッドに横になってジュリアンに抱きついている。続いて楓恋も反対側から抱きつく。

「こういう事情があるから妹と元カノにお願いしたかったのよ。これからすることはジュリアン君とかなり深い信頼関係のある人じゃないとできないんだけど、奥さんのマデリンちゃんは身重だしね」

 二人はなるほどと肯いた。

「これから二人にはジュリアン君の心の中に入ってもらうわ。心の中で起きている問題を解決すればジュリアン君はきっと正気を取り戻すはずよ」

 ママが菜箸さいばしほどの小ぶりな杖で魔力を振りかけると、三人はそのまま眠りについた。

「ジュリアン君の罪はきっと私がなんとかしてあげるから、まずは起こしてあげてね」




 ジュリアンの心の中に入った楓恋とロッテは王宮の入り口にいた。夢の主であるジュリアンは別のところにいるようだ。

「うわっ、なんなのこれ……」

「物凄い数ですね。おびただしいってこういうことを言うんでしょうね」

 エントランスを入ったロビーの床や壁、天井まで埋め尽くすほどの虫が這っているのだった。ウネウネ動くウジ虫のようなものや、蝿、アブのような羽虫もいる。通常見かけるものより何倍も大きい。虫嫌いの楓恋は自らを抱くように守りつつ、鳥肌を立てている。

 さほど虫が苦手ではないロッテは内部の様子を観察している。

「窓は閉まっているようですね」

 そう言ってストレージから燻煙タイプの殺虫剤を取り出した。

「地球でGを退治したときの残りがストレージに入っていたので」

 陽平に習っていた複製の魔法で大量に複製し銀色のトレーに乗せた。

 続いて魔法を使って水を入れる。

「楓恋さん、バリアお願いします」

 楓恋がバリアとマジックバリアを付与すると、ロッテは虫がウジャウジャ蠢くロビーに踏み込んだ。

「楓恋さんにとばっちりが行かないように、いったん入り口を塞いでください」

 楓恋はコクコク肯いてエントランスをバリアで封鎖した。

「やだ、ロッテ頼もしい。惚れちゃいそう」

 ロッテは笑いながら着々と燻煙剤を設置して出てきた。


 外で待っていると、人魂ひとだまのようなものが現れた。二階の窓から出てきているようだ。

「ロビーを封鎖してるから上から出てきてるみたいね。浄化!」

 楓恋は本職の白魔法で浄化する。

 ぽつりぽつりと出現していた人魂だったが、どんどん数が増えてくる。

「これって、子どもの泣き声?」

「はい、ざっと千人以上いると思います」

 聞き分ける能力にも優れたロッテの耳がおおよその数を把握する。

「あっちもこっちもウジャウジャと」


 人魂はほんの序章に過ぎず、赤ん坊や少年少女の形をした亡霊が出てきた。体の部分が欠損した者や腐敗して溶け落ちたようなおぞましい姿の子ども達である。腐臭が充満してきて、二人はハンカチで鼻を覆う。

「こんなものを取り込んだらおかしくなるに決まってるわ。ちょっとこっちきて」

 楓恋はロッテを連れて一度後退する。亡霊達は二人を追いかけて城門の跳ね橋を渡ろうとする。

「ここまでの数のアンデッドに出会ったことがないから使い道もなかったんだけど」

 跳ね橋をバリアで覆ってせき止めると亡霊達は渋滞する。霊体なので重なり合っても関係ないらしい。

「入ってない人いないわね?」

 後続が無いことを確認してバリアを亡霊達に覆いかぶせ、閉鎖する。

「さあ、このアークプリースト楓恋さんがみんな天国に送ってあげる。今度生まれてきたら悪い大人に捕まらないようにね。開け! ヘヴンズゲート!」

 楓恋の大魔法が作動し、跳ね橋をすっぽりカバーするサイズの魔法陣が出現する。聖なる光の柱が空高くまで突き抜け、子ども達の亡霊が天に召されていく。子ども達は生前の愛らしい姿を取り戻し、楓恋に感謝するような眼差しで手を振った。

「すごい……楓恋さんって意外と聖女様なんですね」

「はい。一応、聖女様枠でジュリアンのパーティーに入ったはずよ。まあ、聖女なんて柄じゃないけどね」


 ――二人は燻煙が終わったロビーの後始末をして先に進むのであった。

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