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4-12 僕の妻

 寝室に入ると新品とおぼしきシーツで完璧に整えられたベッドがあった。傍らのテーブルには高級そうなワインとグラスが二つ用意されている。部屋のあちこちにキャンドルが焚かれていて、ロマンチックな薄暗さを醸し出していた。


 オスカーは壊れ物でも扱うように、大事そうにロッテをベッドに置いた。

「ミアさん、どんなにこの日を待ちわびたことか。僕を置いて居なくなってしまわない丈夫なミアさんを作り出して二十年、気が遠くなるほど長かった。……僕と結婚してください」

 オスカーは小箱を開けて指輪を取り出し、ロッテの左手薬指にはめた。オスカーの薬指の指輪とおそろいのようだ。

 無言のロッテの頬に涙がこぼれた。

「そうか、君も嬉しいんだね。初めてちぎる君が緊張するといけないと思って、ワインを用意したよ。ジェイコブからもらったんだけど、かなり良いものらしい」


 コルクを抜いて二つのグラスに注ぎ、一つを手に取ったオスカー。

「このままではグラスを持てません。いい子にしますから拘束を解いてください」

「残念ながら解いてやるわけにはいかない。また恐ろしい武器を出すかもしれないからね」

「でも、ご自分だけ飲むなんてずるいです……あなた」

 ウィンクなどしながら媚びた視線を送るロッテ。拘束を解かせようと慣れない色仕掛けをする。

「ああ、そんな娼婦のような下品な真似はやめたまえ。僕のミアさんは清純でなければいけない」


 ロッテはばつが悪そうに目を伏せる。

「ごめんなさい、殿下」

「いや、あなたと呼ぶのは構わないよ。オスカーと呼んだっていい。君はもう僕の妻なんだから」

 ヨシヨシと頭を撫でるともう一つのグラスに持ち替えた。

「健やかなるときも、病める時も。妻の体が動かない時には夫が口移しで飲ませてあげるべきだろう」

 ロッテの分のグラスから口に含むオスカー。ロッテの顔から血の気が失せた。

 そのままオスカーは口移しで注ぎ込む。ロッテはしばらくためらったが、涙を流しながら飲み込んだ。

「さあ、プレゼントのリボンを解く瞬間だ」

 ロッテのメイド服が脱がされていく。ロッテは悲し気な顔でため息をついた。

「ああ、やっぱりミアさんは美しかった。この裸をどんなに想像したことだろう」

 下着だけになったロッテのお腹に頬ずりするオスカー。ロッテの全身に鳥肌が立つ。

「まだ緊張しているね。怖いのかい?」

 再度ワインの口移しがされて、ロッテはぼんやりと天井を眺めるだけになった。

 ――ブラジャーのフロントホックをはずした瞬間、部屋の扉が蹴破られ、オスカーは背後から斬りつけられた。


「ジュリアン……どうやって檻から出てきたんだ……」

 不意討ちしてきたジュリアンを忌々し気に睨むオスカー。背中に深手を負ったようだ。

 ジュリアンは何事にも関心が無いかのような目をして立っている。剣を握る手もまるで何かのついでみたいで、腕をブラブラさせている。

「自我を取り戻したわけではないようだな」

 ジュリアンは剣を床に落としたのも構わず、黙ってロッテを見ている。

「ぼっちゃま。いいえ、兄さん。私達、本当の兄妹だったんですよ」

 ロッテに呼びかけられてピクリと動くジュリアン。ベッドの横に膝をついてロッテの髪を撫でた。


 オスカーはチャンスとばかりに背中をヒールした。

「ジュリアン、檻に戻るんだ。僕とミアさんの初めての営みを邪魔してはいけないよ」

 動物にでも言い聞かせるように命じる。

 ジュリアンは剣を拾ってオスカーに斬りかかった。

「また蟲地獄をするかい?」

 ジュリアンは膝をつき、頭を抱えて悶絶する。

 しかし、唸り声をあげて立ち上がり、再度斬りかかった。

 オスカーは杖を出して受け止める。

「理性を失い、僕の調教下にありながらも妹を思う気持ちが勝っているとでも言うのか……あれをまだ使えない以上、分が悪いな」

 オスカーは杖に体重をかけてこらえながらも言う。

「ミアさん、僕はちょっとジュリアンを取り押さえる手立てを用意してくるから、大人しく寝ているんだよ」

 オスカーの指輪が光ると無詠唱の転移で居なくなった。


 ジュリアンは再びベッドの傍らに膝をついて、ロッテの頭を撫でている。

 身動きが取れないロッテは撫でられるままにして話しかけた。

「ねえ兄さん、あの人は私の父親だから、ファーストキスには数えなくていいですよね。幼い頃にパパとキスした経験が無い分を今回に充てることにしましょう。それに、父親に下着姿を見られたぐらい、どうってことないですよね」

 ジュリアンは応えないが、それでも少し表情が和らいだ気がした。

 ジュリアンに撫でられっぱなしで、どうしたものかと思案するロッテだったが、聴力の良い耳が物音を捕えた。

「誰かが外で戦ってる?」

 さらに耳を澄ますと、

「楓恋さんとアメリアさんの声がしますよ、兄さん。ヴァネッサちゃんとデルフィさんもいるみたい」

 ジュリアンは反応せず、相変わらずロッテを撫でている。

「ロッテー! いるー? 私が悪かったわ! 謝るから出てきてちょうだい!」

 楓恋が大声で呼びかけながら屋敷に入ってくるのが聞こえる。

「ここですー! 動けないのでここまできてくださいー!」


 やがて一行が到着して、楓恋はロッテのそばに駆け寄った。

「あら、ジュリアンもいたの……じゃなくて、世界を荒らしまわった狂戦士ジュリアンがどうしてここに!? あなた大丈夫なの?」

 ジュリアンは楓恋をボーっと眺めている。

「兄さん、よく分かってないみたいなんです。オスカーに心を盗られちゃったのかも」

「そっか、あの変態に何かされてなきゃこんなことにならないわよね」

 元カレを憐れみの目で見る楓恋。


「それで、オスカー呼びしてるってことは気持ちの整理が付いたのね。もうロッテを戦力から外そうなんて言わないわ。ごめんね」

「私の方こそ、ご迷惑をかけてすみませんでした。私のためにこんな敵地まで乗り込んできていただいて……」

 アメリアがあっけらかんと言う。

「まあ、意外と雑魚しかいなかったし、ここに転移のルートひらけたし、結果オーライってことで」

 和やかになったムードの中、ロッテが恥ずかしそうに言った。

「ところで、今のところまだ大丈夫なんですけど、おしっこしたくなったら困るので早めになんとかしていただけると……」

 オスカーに停止させられていることを説明するロッテ。

 アメリアが答える。

「なるほど、そういうことならエロ王に訊いてみよう。あのジジイ、その手の卑怯技は得意分野だったはず」

 一行は動けないロッテとジュリアンを連れて魔王城に転移するのであった。

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