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4-11 お払い箱

 ロッテが魔王城のメイド達を手伝って食器のワゴンを押していると、誰かが自分の話をしているのが聞こえた。ロッテは強化人間なので耳がいいのだ。

 廊下から壁越しに中の話し声を聞く。城の丈夫な壁でくぐもっているので、さらに聴覚の感度を強くした。

 話しているのは楓恋とギルドマスターだった。

「――陽平さんが帰ってきたら、ロッテは戦力から外してください」

「そうか、仕方あるまいな」

「ジェイコブに踏み込まれたこともあるので、イル・グリジオとここの留守を守ってもらいましょう」

 ロッテは駆け出した。ワゴンに脚をぶつけて皿がいくつか落ちたのも構わず、廊下を走っていってしまった。

 その様子をマデリンが見ていた。

 マデリンは荒くノックして部屋に入る。

「ちょっと、何の話してたの? ロッテに関すること?」

 楓恋とマスターは顔を見合わせ、やがて肯いた。

「あの子、壁越しでも結構聞こえるのよ。何か変なこと言った? 凄い勢いで駆けていったけど」

「あらま、聞かれたか。あの子、オスカーが父親と知ってちょっと危ういから、突入時の戦力から外そうって相談してたのよ。ショックを受けないようにじっくり話そうと思ったのに」




 ロッテは中庭に出て、すり寄ってくるネロとビアンカを撫でていた。

「あなたたちもカンドーレが来てから出番が少ないですね。私と一緒でお払い箱です。私だって地球で頑張って修行してきたのに……お父さんをかばった罰ですね」

 黒猫のネロを抱きしめる。

「楓恋さんのこと、もう一人のお姉さんみたいに思ってたのに。ずっと一緒のパーティーでいられると思ってたのに……大人ってシビアなものですね」

 ネロに頬ずりすると、ポロポロと涙が落ちてくる。

「……悲しいことでもあったのかな? 僕の大事なお嬢さん」

「オスカー殿下! どうしてここに!?」

 どこからともなく現れたオスカーはシーっと指を立てる。

「君を泣かせるやつらのところに、置いてはおけないと思ってね。迎えにきたよ」

 オスカーはひざまずいてロッテの手を取る。

「で、でも、殿下……私は……」

「今日はお父さんって呼んでくれないのかな? パパでもいいよ?」

 オスカーがにっこり微笑むと、ロッテは顔を赤らめる。

「じゃあ、パパって呼ばせてもらいますね。……パパ」

 ネロとビアンカは背中の毛を逆立ててシャーシャーと威嚇している。

 オスカーは構わずロッテを連れて転移してしまった。

「ロッテいるの? さっきはごめんなさい! ちょっとお話ししましょう!」

 遠目にロッテが見えた気がして駆け付けた楓恋だったが、既に連れ去られたあとだった。




 ロッテとオスカーは地底の研究室のほうの屋敷にいた。

 オスカーが紅茶を淹れようとすると、ロッテが代わると言っていそいそと支度する。

「苦労をかけたね、君はマデリンなどよりもよっぽど正当な血を引くプリンセスだというのに」

 ロッテは紅茶を出すと、オスカーに向かい合って座った。

「私はメイドの仕事を気に入っていますし、お嬢様もぼっちゃまも、とっても良くしてくださるので、苦労だなんて思ったことないですよ」

 オスカーは出された紅茶を美味そうにすすった。

「うん、いい味だ。これからはお茶の時間が楽しみになるね」

 ロッテは困惑した表情を浮かべる。

「勢いでついてきてしまいましたけど、ずっとここに居るわけには……」


 オスカーは首を振る。

「僕はさっき、迎えにきたと言ったね。君を僕の妻として迎えることにしたんだよ」

 ロッテの困惑は深まる。

「あの、ごめんなさい、ちょっとおっしゃる意味が分かりません。パパと私は血のつながった親子だから、結婚なんてできないと思います」


 オスカーは席を立ち、ロッテのすぐそばでテーブルに手をつく。

「いや、君との間に子を儲けても奇形が発生する確率が低いことは実験から明らかだ。それに、僕は子どもを期待しているんじゃないんだよ、ミアさん」


 オスカーはロッテの頬を撫でた。そのままキスをしようとして拒まれる。

「ご乱心されたのですかオスカー殿下? 私はミア様ではありません!」

「いいや、違うな。君は僕がミアさんとして作って、ジュリアンに預けていたものだ。作者がミアさんだと言うんだから間違いないさ」


 ロッテは立ち上がって後ずさった。テーブルセットの椅子が倒れ、オスカーはそれを避けながらにじり寄る。

「あなたは楓恋さんが言う通り、邪悪な変態王子だったのですね。少しの間とはいえ、気を許した自分が恥ずかしいです」

 オスカーは微笑を崩さない。

「オリジナルのミアさんも可愛らしいながらに気丈な人だった。元冒険者だったからね。そうやって拒まれたから僕はミアさんと結ばれることはなかった。今思えば、あの時無理矢理犯してでも僕のものにしていれば、こんなに執着することもなかったのかもしれない」


 抱きつかれそうになってロッテはハンズオブ武蔵を構えた。

「ああ、悪い子だ。僕の言うことを聞かないミアさんにはこうだ!」

 突如ロッテの体が動かなくなる。

「いったい何を……」

 オスカーはボタンが一つだけ付いたリモコンのようなものを手にしていた。

「君に非常停止の機構を付けておいて正解だったよ。二十年も経って使う時がくるとはね」

 ハンズオブ武蔵が解けていく。

「一時的に君の体はマナを扱えない状態になっているんだ。さあ、いよいよだ。君を僕の妻にしてあげよう」

 オスカーはロッテを担ぎ上げる。マナを扱えない状態のロッテは一トンほども体重があるのに、平気な顔で寝室に向かっていく。

「嫌です! 放してください!」

「あんまり言うことを聞かないと人格矯正手術をするよ。手間を取らせないでくれ」

 ロッテは青ざめる。そんな手術をされたら自分が自分でいられなくなるかもしれない。もう陽平達の元に帰れなくなるかもしれない。

「ごめんなさい。大人しくしますから、ひどいことしないでください」

「ああ、いいとも。大人しく言うことを聞くなら、夫婦の営みは愛し合ってするべきだ」 

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