4-8 女神の試練②
まさに『地獄の』という特訓一日目が終わり、なんとか風呂に入ると、陽平はベッドに潜った。
「ご飯食べないの? お腹空くよ」
「食べたくない……」
横になったまま咳き込み、胃液を戻してしまう。
「そかそか、体はヒールしても心は寝て治すしかないね」
ガイアは手からオーラを出して寝ゲロを掃除した。
「日が出たらまた訓練だから、ゆっくり眠ってね。夕食、冷蔵庫に入れておくから、夜中に食べたくなったらチンして食べて。他のがよかったら冷蔵庫のものなんでも食べていいから」
ガイアは陽平の髪をしばらく撫でて、おやすみと呟くと部屋を出て行った。
ガイアの足音が遠ざかると、陽平は極力物音を立てぬよう気を付けながらベッドを抜け出す。
ガイアが拾ってきて机に置いてあった刀をストレージに戻す。
「やってられるか、こんなの」
転移を使って大雪原に出た。
「やっぱ無理か」
日本に転移しようと思ったができなかった。自分や所属するパーティで行ったことのある場所でなければ転移できないように、自力で通ったことのない南極日本間にルートができていないのである。
ロッテ同様魔人になっていた陽平は背中に翼を出す。楓恋やロッテと同じく白くて大きな翼だ。
地球でも使用可能なマップ機能を出して位置や方角を確認しつつ、オーストラリア大陸を目指すことにした。オーストラリアなら十代の頃に親に連れられて旅行で行ったことがあるから、そこから日本に転移できるはずだ。
――と、思ったのも束の間、雪原が切れてようやく海だという辺りの空にガイアが浮かんでいた。翼も無いのに空中にピタリと静止している。
陽平は何もかも投げ出したくなって雪原に墜落した。何度もバウンドしながら転がり、大の字になって天を仰ぐ。
「朝まで放っておこうかと思ったけど、溺れてサメの餌にでもなったら回収が難しくなるからね」
ガイアは陽平の傍らに体育座りする。
「海水のマナは重くてほとんど上空には届かないの。知ってた?」
「知るか」
「じゃあやっぱりサメの餌だ。陽平クンほどの大賢者でも自然のマナのアシスト無しで何千キロも飛べるものじゃないのよ」
ガイアも隣で仰向けになった。
「星が凄いでしょ。人工の明かりが何も無いから星がうじゃうじゃ見える」
陽平は言われて初めて満天の星がそこにあったことに気づいた。
「逃げることで精一杯だったか。もう投げ出す?」
「いいのか!? ギブアップできるの?」
陽平は嬉しそうに飛び起きた。
「陽平クンができないなら、あたしが勝手に拉致れるのは、あとは楓恋ちゃんぐらいかな。ロッテちゃんやアメリアちゃんもプロ子と本人の同意を取ればいけるかも。奴等と戦えそうなのはそれぐらい……」
陽平はガイアの言葉を遮って襟首をつかむ。
「あいつらを犠牲にして逃げられないって分かってて言ってんだろ! きたねーぞこの性悪女!」
陽平に殴られそうになっても平然としているガイア。なぜか目を閉じてウムと肯いた。
「よく言った。以前のキミならあれこれ言い訳して、やらない理由を考えることだけは天才的で、女の子を犠牲にしてでも逃げていたと思うよ。だけど、今のキミはたとえ可愛い女の子限定だとしても、仲間を置いて逃げられないと言い切ったんだ」
陽平はばつが悪くなって手を放し、ドスンと座る。
「勢いで言っただけだ。他人のこと背負う自信なんかないよ」
「ざ~んねん、神様に嘘はつけません。怖い怖い神様の襟首つかんで啖呵切ったあの言葉、紛れもなく本物でした。キミは自分で思うよりもちゃんと成長しているのです」
ガイアは陽平を後ろから優しく抱きしめる。
「本当はキミの伸びしろ三つあったんだ。逃げ癖と諦め癖、超越者ぶって感情や欲求を隠す性格。そのへんのなんか厄介なやつを直すことが三つ目だけど、そこはもう変わりつつある。あと二日だけ頑張ってみて。三日我慢すればってよく言うでしょ」
「校長先生のお話かよ」
「校長先生でもお母さんでもなんでもやるよ。あたし達のせいでキミはひどい目に遭ってるんだから、その分ちゃんと幸せになれるように鍛えてあげる」
――翌日からの訓練は相変わらず地獄のようだったが、信頼関係が生まれたせいか少しだけ気が楽だった。二日経ち、三日経ち、やがて普通の稽古と変わらなくなってくる。
経験値効率のいい地球上でラスボス以上にラスボスな神様を殺しまくっているのだから、経験値の上昇は凄まじかった。陽平は9000レベルを超えた。




