4-5 奪還作戦④
「――楓恋、起きて!」
マデリンに揺り動かされて目を覚ました。
「ロッテがきてくれたから、今のうちに体勢を立て直して」
折れた脛には回復ポーションがかけられたようだが、完治はしていない。楓恋は自分でヒールして立ち上がる。
「あっ……」
ずぶ濡れの下半身に気づいて赤面するが、ストレージの機能を使って即座に着替えた。鬼原にもらったミニスカート気味の可愛いメイド服である。
「我が君に助けてもらった命、簡単に諦めちゃダメだったわね」
「そうよ、楓恋みたいないい女が、死ぬにはまだまだ早いわよ」
マデリンに尻を叩かれると、すっかり戦意みなぎる顔に戻っていた。
ロッテはジェイコブの猛ラッシュを光剣で受け流し、苦戦の最中だった。
楓恋の後にはヴァネッサが気絶してひっくり返っていた。
「ヴァネッサはロッテがやってくれたの?」
「そうよ、あとはジェイコブ兄上さえなんとかなれば」
楓恋はヴァネッサに近寄り、ストレージから何やら取り出した。
「ヴァネッサちゃん、おやつあげますよ~、起きて~」
「ちょっと、なんで起こすのよ」
マデリンは楓恋がおかしくなったのかと心配そうに見ている。
楓恋が手にしているのは細長いチューブに入ったジェルタイプのおやつだった。
「ほらほら、テイム屋さん特製の、犬をダメにするワンピューレ。すっごく美味しいわよ~」
犬系のモンスターを仲間にするための特製餌である。せっかくテイマージョブを取得したから、こちらに向かう前にテイム餌一式を買っておいたのだ。
むにゃむにゃ言っている口に少し入れてやると、ヴァネッサはむくっと起き上がった。
「これなんですの!? 癖になりそうなこのお味!」
むしゃぶりついてくるヴァネッサに三本ほどワンピューレを貢ぐと、
「わたくし、楓恋さんの犬になりますワン! ですの」
と、テイムが完了した。
「じゃあさっそく、ヴァネッサ、ゴー!」
主人になった楓恋が命じるとヴァネッサは走り出し、ジェイコブにかかっていった。
ロッテは後退して息を整える。
「こちらにばかり戦力が集まっていたなんて。遅くなってごめんなさい、楓恋さん」
「来てくれてありがとう。やっぱり無策で突っ込むものじゃないわね。慢心したわ」
ジェイコブとパンチの応酬をするヴァネッサに、ロッテが弓で援護する。かすっただけでデバフてんこ盛りのトゲを残す嫌らしい矢でアローストームを降らせると、格上のジェイコブも余裕がなくなってきた。
「インプロージョン!」
楓恋が叫ぶとジェイコブの体が縮み始める。
「おい貴様、なんてことを!」
インプロージョンは大型のゴミなどをぺちゃんこのスクラップにする魔法で、戦闘用ではないが威力が強いのである。
「つぶれて死んじゃえ、ドS王子! バーカバーカ!」
楓恋の手が大きなおむすびでもむすぶような動きをする。ロッテとマデリンもそれに続いて同じ動きで力を込めた。ジェイコブの抵抗を押しつぶしているのだ。レベル差があっても三人の術士による合成魔は効いているようだ。
「兄上、助けてくれ! つぶされる!」
暴君ジェイコブが無様な悲鳴を上げて助けを求めている。生きたままあらゆる方向からプレスされる苦痛は筆舌に尽くしがたいものだろう。
女子達三人はこの機を逃すものかと夢中で押しつぶす。
瞬く間にジェイコブは全身の骨を滅茶苦茶に押しつぶされ、血液やら体液が絞り出されてバレーボールほどの球体になってしまった。
マデリンはオスカーの指輪が光っていることを目ざとく見つけた。
「蘇生されるわよ!」
マデリンは風の魔法でオスカーの指を狙って妨害する。
楓恋はヴァネッサに命じた。
「その搾りかすをどこか遠くにやってちょうだい!」
「うわぁ、きったなーい。ご主人様に意地悪した馬鹿王子なんか飛んでけーですわ」
ヴァネッサはサソリの尻尾をゴルフクラブのようにスイングして、ジェイコブだった塊をぶっ飛ばした。
「ナイスショット!」
遥か彼方に飛んでいったのを見て、楓恋とヴァネッサはハイタッチした。
「女の子がひどいことをするねぇ。インプロージョンを人間相手に使うなんて悪魔みたいなことを。ああ怖い怖い」
「あんたに言われたくないわ変態眼鏡! あんたのアソコもインプロージョンしてやろうか!」
楓恋の侮辱にムッとした顔のオスカーだったが、ロッテが話しかける。
「あの、オスカー殿下、あなたは私の……お父さんなのですか?」
オスカーは途端に優し気な笑顔になって答えた。
「ああ、そうだよ。僕の可愛いロッテ。ミアさんにそっくりの美人さんになったね」
続けて何か言いたそうなロッテだったが、オスカーに手で制される。
「僕としてはまだジェイコブを失うわけにはいかないから、話はまた今度だ。いつでも遊びにおいで」
立ち去ろうとするオスカーを楓恋が呼び止める。
「待ちなさい変態王子! いまここでケリをつけてやるわ!」
このままオスカーを倒せばジェイコブの蘇生も阻止できて一件落着のはずだった。
「ごめんなさい、楓恋さん。私のお父さんをもうちょっとだけ見極めさせてください」
ロッテが楓恋に抱きついて妨害していた。振りほどこうにもロッテのほうが高レベルなのと、元からの戦闘職の腕力があって敵わない。おまけに体重まで重くしているようだった。
「ありがとう、僕のロッテ。愛してるよ」
オスカーは恥ずかしげもなく言い切ると、使用人達と手分けしてジェイコブを探しに出た。
文句の一つも言いたい楓恋だったが、ロッテの嬉しそうな顔を見ると何も言えなかった。もしも、嘘でもいいから自分の父や母が同じことを言ってくれたなら。そんなことを考えていた。
楓恋は勝利の一服を咥えてウーンと伸びをする。
「とりあえず乗り切った~!」
「あれ、楓恋さんタバコやめてたんじゃないんですか?」
「今だけ復活! 陽平さんいないし!」
「陽平さんとタバコ、何か関係があるんですか?」
「いいえ、なんでもないわ」
楓恋は意味深に笑ってごまかした。
マデリンが手で煙を扇ぐ。
「ちょっと、妊婦なんだから離れてよ」
「イエス、ユアハイネス」
楓恋は恭しくおじぎをしながら距離を取った。
「しばらく会わないうちにキャラが変わった? 明るくなったわね」
楓恋が一服し終わるのを待って、一行は魔王城へと転移した。




