4-3 奪還作戦②
楓恋は離れた木の陰からオスカーの居城であるディオスマール城の様子をうかがっていた。門番も見当たらず、城の中もあまり人気が無さそうだ。
そういえばオスカーは人嫌いなのか、身の回りに最低限の使用人だけ置いてひっそり暮らしているという噂であった。
それでも、ここにマデリンが居るとママが言うのだから、たしかに居るのだろう。
ロッテと約束した突入時間がきたので、一瞬翼を出して城門を飛び越え、壁に身を寄せながら忍び込む。
「お邪魔しますね~」
小声で囁きつつ、開放されたエントランスから抜き足差し足で進んでいく。
遠くで皿洗いでもしているような音が聞こえる。
物音がする方角はなるべく避けたいので、静かな二階へと上がった。
王城ほどではないが、やはり数十もの部屋があって、どこにマデリンがいるのか分からない。陽平がいれば便利な探知魔法でも使えそうなものだが。
恐る恐る三部屋ほどドアを開けて中をうかがったところで、誰かが走ってくるような音が聞こえた。
楓恋はとっさに翼を出して飛び上がり、高い天井付近で辛うじて足場になりそうなでっぱりに着地した。
「匂いますわ。結構いい香水をつけてる若い女の匂いですわ」
四つん這いで走ってきたのは人狼の娘だった。美しい銀色の尻尾がモフモフしていて、頭に犬耳がついている。肘から先と膝から先もモフモフしているがコスプレではなく本物のようだ。黒い革のキャミソールとショートパンツを着ていて、首輪をつけていた。ボンデージっぽくてエロティックな印象である。
「クンクン、上ですわ」
お座りの体勢で上を向くと楓恋と目が合った。
「メイドさん、そんなところで何をしているんですの?」
モフモフ尻尾がパタパタしていて、機嫌が良さそうに見える。
魔王城で着ている黒いロングのメイド服を見て、この城のメイドだと勘違いしているらしい。
楓恋は少し距離を取って着地した。
「天井に汚れが見えたので掃除をしてました」
「そうなんですの。あなた、見ない顔ですわね」
「新しく入った楓恋と申します。よろしくお願いします、お嬢様」
気取った言葉遣いの娘に一応スカートをつまんで挨拶してみた。
「わたくしはヴァネッサ……ヴァネッサなんとかだった気がしますが、忘れてしまいましたの」
可愛い顔をしていて、ロッテに似ている。胸がかなり大きくて、ボンデージキャミから覗く谷間はなかなかのものだ。
「楓恋さん、ボールを投げてくださいます?」
「え? ボールですか?」
ヴァネッサは尻尾を振りながらストレージから小さなゴムボールを取り出した。スーパーボールのようなよく跳ねるボールだった。
しょうがないから廊下の奥に向かって投げてやると、凄いスピードでダッシュしてボールを咥えてくる。
「もう一回ですわ」
唾のついたボールを手に落とされ、楓恋は鳥肌を立てながら投げてやった。
「もう一回、もっと遠くに投げてくださいます?」
「ちょっと忙しいので、これで最後ですよ」
意地悪をして全力で遠投すると、それでもあっという間にボールを咥えて戻ってきた。
「やればできるじゃありませんの。用事を済ませたらまた遊んでくださいます? 用事は何ですの?」
用件を言ったら戦闘になるかもしれないが、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。
「マデリン殿下にお会いしたいのですが」
「マデリン様ならこっちですわ! ご用が済んだら遊んでくれますの?」
尻尾を振って目を輝かせている。女の楓恋でも可愛く思ってしまうぐらいだから、男から見れば破壊力抜群かもしれない。
「ああ、オスカーの趣味か……」
「何かいいましたの?」
「いいえ、なんでも。じゃあ、マデリン殿下に会ったらまたボール遊びしましょう。レッツゴー」
ヴァネッサの案内で奥に進む。歩くときは普通に二足歩行もできるようだ。
「ここですの」
結構な数の扉を通り過ぎたところだった。ヴァネッサが居なかったらだいぶ苦戦しただろう。
ヴァネッサがノックすると少し間があってドアが開いた。
「あらヴァネッサ、今日はつわりがきついからまた今度にしてちょうだい」
いつも遊びをせがまれているのか、めんどくさそうに断るマデリンだったが、
「楓恋……なの?」
「そうよ、マデリン。お久しぶり」
アメリアに楓恋の生存を聞かされたものの、そのまま逮捕されてお預けになっていた再開がやっと実現したのである。
ハグをして喜んだあと、マデリンは部屋に入るよう促した。
「そうじゃなくて、ここを出るわよ。持ち出すものがあったらすぐに用意して」
「ああ、そうよね。のんびり過ごしてばかりだったから、もう少しで頭がボケるところだったわ」
お気に入りの所持品をいくつかストレージに戻すと、マデリンはオッケーと声をかけた。
楓恋が転移の魔法を使ったが、効果が無かった。
「一応軟禁されてるわけだから、お城から出ないとダメみたいね」
二人並んでエントランスを目指そうとするが、
「嘘つき」
背後でヴァネッサが睨んでいた。




