4-1 成果
楓恋とロッテは女神プロネウスの神殿に転移してきた。
「おかえりなさい、疲れたでしょう」
さっそくママが出迎えた。
「あら、陽平君がいないわね」
キョロキョロする三人。
ママは何かを無理矢理思い出すかのように、自分の脳内を探すように目を動かした。
「ああ、やられた。姉さんったらもうっ」
ママは二人を促して離れのほうへと歩き出す。
「え? 陽平さんはどうするんですか?」
心配そうなロッテだったが、
「姉さん、つまり地球の母なる女神ガイアのところに飛ばされたみたい。陽平君に何か用事があるんでしょう」
地球の女神がママの姉さんということに驚きつつも、そういうことなら無事だろうと胸を撫でおろす。
「私達は陽平君に少し頼り過ぎているかもしれないわね」
そう呟く背中が以前より少し小さく見える。
離れでお茶を飲みながら、二人はステータス画面を見せる。
西野 楓恋♀ 26歳
レベル 5613
種族 魔人
ジョブ アークプリースト・黒魔導師・モンスターテイマー・レンジャー
職業 魔王城メイド長
スキル 白魔法マスタリー・遠距離戦闘・黒魔法・魅惑・調教・使役・召喚・飛翔
特技 家事全般・珠算・簿記会計・ピアノ演奏
「まあ、5000を超えてるわ。頑張ったわね。調教師とレンジャーが加わって、黒魔法もいくらか使えるようになったのね」
地球でレベルが上がりだした当初はあまりの勢いに驚いたものだが、いまや慣れっこであった。濃縮された経験によって、新たなスキルをさまざま追加していた。
「一年歳をとってるけど、嫌だったら魔王城の霊脈口で戻すといいわ」
「そうですね、五と六ではだいぶ違うお年頃なので、あとで戻しておきます」
「私も二十歳になったけど、お酒を飲めるのでこのままにしておきます」
シャーロッテ・プーチ♀ 20歳
レベル 6024
種族 魔人
ジョブ レンジャー・侍・魔法剣士
職業 フォルスタン家メイド
スキル 近接戦闘マスタリー・遠隔戦闘マスタリー・パーティー防御・黒魔法・ハンズオブ武蔵・飛翔
特技 家事全般・接客
「ロッテちゃんは6000を超えたのね、凄いわ。種族が魔人になってるということは……」
「はい、地球では大っぴらに使えませんでしたが、飛べるようになりました」
そのほかにも、鬼原になついて剣道や弓道などを頑張った結果侍ジョブを獲得し、客商売で精神的な成長も遂げて少し魔法を使えるようになっていた。
「二人とも、もうオールマイティーと言っていいほどの成長ね。一つの星を任せて女神をやってもらってもいいぐらいの強さだわ」
嬉しそうに言っていたママだが、ふとため息をつく。
「だけど、あなた達に匹敵する相手が現れてしまったの」
「ジェイコブ殿下ですか? それともオスカー殿下?」
ママは首を振る。
「ジェイコブもそうだけど、今世界を荒らしているのは、あなたの元カレよ」
「どの元カレかしら? 名前にも入ってるとおり、恋多き女なので……っと、冗談言ってる場合じゃないですね。ジュリアンが世界を?」
ママのほうから帰還を促されるほどの危機とはジュリアンだったのである。
「アメリアちゃんの魔王城とフォルステールの王都以外、世界は壊滅に近い被害を受けたわ。アメリアちゃんのところには、うちの猫達を行かせたし、ジョージ国王やギルドマスターも滞在して、対ジュリアンの最後の拠点になっているわ」
「そんな……坊ちゃまに何があったんですか? お嬢様や王妃様は?」
「オスカーのおぞましい実験によって、5000を超える高レベルになったのと引き換えに理性を失って狂戦士化してしまったの。マデリンちゃんやエマ王妃のいる城は被害を受けていないわ。兄弟の拠点は攻撃されないみたいね」
ロッテは頭を抱える。
「坊ちゃまがどんな怪物になってしまったとしても、私は坊ちゃまを倒すことなんてできません。せっかく強くなって帰ってきても、倒すべき敵が坊ちゃまだなんて……」
「あいつの女ったらしには悩まされたけど、私だってあいつを殺すことなんて……」
ママが肯く。
「そこで、なんだけど、元カノと妹の二人で彼の正気を取り戻してあげてほしいのよ」
ロッテは気まずそうな顔をする。
「あの、妹みたいに可愛がってもらってますが、私は人造メイドで、坊ちゃまの妹というわけでは……」
ママはうっかりやらかしちゃったという顔をする。
「知らないんだっけ? うーん、でも必要なことだし……」
やがて決心したように切り出す。
「衝撃的なことを言うから心して聞いてね」
ロッテは神妙な顔で肯く。
「あなたはミア王妃とオスカー王子の、体外受精による受精卵を強化して作られた改造人間なの。一から錬金術で精製されたホムンクルスというわけではないのよ。つまり、あなたはミア王妃の本当の子どもだし、ジュリアン君の本当の妹なの」
ミア王妃はジュリアンを産んだ後自分の短命を悟ると、優秀な科学者であり錬金術師のオスカーに妹代わりのホムンクルスを作ってくれるよう頼んだ。
当時からミア王妃に執着していたオスカーはホムンクルス制作に必要だと言って卵子の提供を受け、密かに自分の精子と掛け合わせて人工授精を成功させていたのである。
元々体質が弱いミアの子だからと強化した結果、ホムンクルスのような強化人間になったのだ。
「そんな……ミア様が本当のお母さんだったなんて……」
ロッテはそれでもなんだか嬉しそうである。
「私にもお母さんとお兄ちゃんが……お父さんは優しいオスカー殿下だったんだ」
楓恋はギョッとしたように言う。
「優しいオスカー殿下……ねえ。彼はジェイコブより危険な匂いがするわ。情のない人間というか。ミア王妃に内緒で人工授精っていうのも変態っぽいし」
ママは残念そうに言う。
「そうね、酷なことを言うようだけど、オスカーもジェイコブに負けず劣らずの外道に堕ちた人間だから気を付けて。身内でも平気で実験台にするような男だから、彼に父親の愛を求めてもガッカリすることになるわ」




