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3-14 プロネウスへ

「もう一年か。あっという間だったな」

 陽平達は最初に鬼原と行った寿司屋にいた。女神プロネウスから帰還するよう言われて鬼原に挨拶したら、送別会をしようと誘われたのだ。

「寂しくなるなぁ。せっかく飲み仲間、稽古仲間ができて楽しかったのに」

 鬼原は冷酒をグイっと煽る。季節は再び夏を迎えようとしていた。

 楓恋はガラスのとっくりを傾け、お酌する。

「でも、道場や会社のみんなとも打ち解けたじゃないですか。社長がこんなに気さくで優しいおじさんだったなんて知らなかったんですよ」

「それも君達のおかげだよ。僕のほうからなかなか打ち解けられない人間だったからね、君達と仲良くしてるのを見て僕に話しかけてくれる人も増えたんだ」

 楓恋のおちょこが空いたのを見て、鬼原がお酌して返す。


 この一年、女子二人はメイドカフェの勤務を続けてすっかり看板娘として定着していた。陽平は除霊師(自称)を続け、近県まで含めてすっかり霊的にクリーンな地域になっていた。三人とも鬼原の道場で武道の鍛錬を重ねてきたし、陽平の亡霊狩りに同行して実戦経験を積んだりもしてきた。


「社長のツルツル頭が見れなくなると思うと寂しいです」

 酒量を控え危うい酔い方を封印していたロッテも今夜は大いに飲んでいた。鬼原の背中に抱きついて、すべすべの頭を撫でている。

「店でも送別会のイベントを開きたかったけど、向こうの世界が切迫してるならしょうがない。またいつでも遊びにきてくれよ」

 鬼原はウザ絡みするロッテの手を愛おしそうに撫でた。

「我が師よ。私のこの両手にはハンズオブ武蔵が宿っています。あなたの御恩は生涯決して忘れません」

 ロッテはアニメで見た師弟関係を真似て礼を言った。客からもらったアニメやゲームにすっかりはまっていたのである。


 ロッテはふざけていたかと思うと、急に鼻声で言う。

「向こうで一年経ったらこちらでは三十年です。ちょっと忙しくてうっかり忘れていたらもう会えないんですよ。たとえ頻繁に会いに来たとしても、来るたびに社長がお爺さんになっていくなんて、私……」

 ロッテは鬼原の背中におでこをつけてワーっと泣いた。あえて誰も触れようとしなかったことに触れてしまうと、一同しんみりしてしまう。

「まあ、異世界とか不思議なことが本当にあったんだから、生まれ変わりだってあるかもしれないさ。あっちの女神様によろしく伝えておくれよ」

 手にしたおちょこに波紋が一滴広がった。


 店を出て鬼原の車に向かう。運転代行がきたらお別れである。

 眠くなってしまったロッテを陽平がおんぶして、小雨が降る中を歩いた。

 駐車場に着くと、鬼原が車のトランクから長い袋を取り出した。

「僕のコレクションから一振り、陽平君に進呈しよう。真剣だから本当は登録が必要なんだけど、あっちの世界に持って行くなら関係ないだろう」

「そんな、だって日本刀って凄く高いですよね? いいんですか?」

「サラシャちゃんの時といい、君達といる間で御殿が立つほど儲けさせてもらったよ。こんなお礼じゃ足りないぐらいだとも」

「分かりました。ロッテ、ちょっと降りて」

 高価な贈り物をきちんと受け取ろうとしたが、

「やだ、眠い」

 と言って降りてくれなかった。

 三人は顔を見合わせて苦笑し、代わりに楓恋が受け取った。


「歴史的価値があるような名刀ではないけど、気に入ってる若い刀工さんが打ったいい刀だよ。とはいえ、日本刀は打ち合うような戦いには向かないから付与魔法をかけて使うといい」

「分かりました。大切にします」

 続いて鬼原はトランクから大量の衣装バッグを取り出した。

「まだしばらくいると思って発注しちゃったんだ。よかったら持って行ってくれないか」

 楓恋とロッテのメイド服だった。一人一人採寸して作ったしっかりしたものなので、他の子に回すわけにもいかないという。

「ありがとうございます。向こうのメイド服は少し野暮ったいので、これをお手本にして城でも採用してもらいます」

 眠っているロッテの分も楓恋が受け取ってストレージに入れた。

 そうこうしているうちに代行業者の軽自動車が駐車場に入ってくる。

「来たようだね、とうとうお別れだ」

「ほら、ロッテ起きて」

 しぶしぶ目を覚ましたロッテと三人で見送り、住み慣れてきた我が家に転移する。


「これでよし。あとの手続きはママがやってくれるからこのままでいいってさ」

 一年で増えた所持品をストレージに移し、戸締り火の元を確かめて二階に上がる。

「しかし、もうちょっと広いところから転移できないもんかなあ」

 転移の魔法陣は来た時と同様押し入れの中に出現していた。

「触ってもいいですよ」

 楓恋がからかいながら押し入れに上がる。

 ロッテも上がるとあまりスペースが残っていない。

 無理矢理入るとあちこち柔らかいものを触って大慌ての陽平。

「一年経っても初心うぶなところは変わらないですね。そろそろ慣れてもらわないと」

 楓恋に手を引かれて胸を触らされた陽平は、うれしいやらびっくりするやら複雑な表情で硬直している。

「私もブラジャーのカップが一つ上がったんですよ」

 負けじとロッテも触らせてくる。

「ちょっと君達……飲みすぎじゃないの……」

 蒸し暑く酒臭い空気が飽和する中、転移魔法陣が作動し、元の世界へ帰っていく一行だった。

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