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3-10 水底から

 お盆はご先祖様があの世から帰ってくる期間である。普段は地元の心霊スポットなどで亡霊狩りをする陽平だったが、お盆に帰ってきた無害なご先祖様達を強制送還してしまうのはまずいということで、海に遠征してきたのである。


 お盆に水に入るもんじゃないなんて言い伝えがあるが、生者の足を引っ張って溺れさせるようなのがただのご先祖様なものだろうか。きっと悪霊の類に違いないと踏んで、除霊師(自称)の出番というわけだ。


 陽平達に敵う悪霊などそうそういないだろうが、念のため四人一緒に動くことにした。それぞれに浮き輪や救命胴衣を着けて、腰ぐらいの深さのところで遊んでいた。

 水をかけ合ってキャッキャウフフとはしゃいだり、軽く泳いだりしてみても変化は起きない。

「やっぱ餌が必要かなー?」

 陽平は自分の浮き輪をはずしてロッテに預けた。

「気を付けてくださいね、無理して死んじゃったら元も子も無いですから」

 心配する楓恋に親指を立て、陽平は沖の小島に向けて泳ぎ始めた。

 少し離れて三人が追いかける。


 進むにつれ、晴天の海水浴場にしては波が高くなってきた。波がくるたびに結構な高低差を上がったり下がったりする。

「わあっ、水飲ん……じゃっ!」

 ロッテが咳き込んでいる。

 陽平が顔を上げたところで鬼原が叫んだ。

「陽平君、これ以上は危険だ、戻ろう!」

 肯いた陽平は平泳ぎで戻ってこようとするが進まず、クロールをしても大して変わらなかった。むしろ、残りの三人のほうが陽平に近づいて行っている。

「まずい、離岸流だ!」

 流されるうちに合流して陽平に浮き輪が返された。川のような流れに逆らわず、横の方向に逃れることにした。

「焦って力むと脚を攣るから、慌てるな」

 鬼原のアドバイスに従い、みんなで手をつないでじっくりと脇へ逸れていく。

「だいぶ流されたけど、流れから外れたみたいだ」

 いつの間にか目指していたのとは別の小島の近くまできてしまったので、とりあえず上陸して休むことになった。


 陽平が小島に上陸して女子達の手を取ろうとすると、女子二人は浮き輪からすっぽ抜けて海中に消えてしまった。

「なんだ!?」

 陽平が飛び込んで潜水する。鬼原はまだ上陸する前で、救命胴衣を脱ぐのに手間取っている。

 陽平は自らに支援系の魔法をかけた。

「身体強化、バリア」

 泳力のアップと併せて頭の周囲をバリアで覆い、呼吸と視界を確保したのだ。

 クリアになった視界で見ると、女子二人が何者かに足首をつかまれて海底に向かって引きずり込まれていくのが分かる。上半身が人間の女で下半身が魚のような生き物だ。

「人魚? 亜人か!?」

 ともかく、女子二人の呼吸を確保しようとバリアをかけた。


 呼吸が戻った二人は落ち着きを取り戻し、ロッテの両手が光った。鬼原直伝のハンズオブ武蔵である。

 ロッテはまず、楓恋の足首をつかんでいる手を突き刺し、続いて自らの足首をつかむ手も刺した。

 金属をこすり合わせたような奇妙な悲鳴が上がり、海中に血煙が広がる。血が出るということは実体があるということで、やはり亡霊ではないようだ。

 結構な深さまできていたので、浮上するのにも時間がかかる。もどかしくバタ足して上がっていく女子達を謎の亜人が追いかける。


「破壊光線」

 陽平の指先からレーザービームが放たれて、亜人を攻撃する。

 ひらりひらりとかわされてしまうが、女子達は無事に島に上がれたようだ。

 陽平も遅れて上陸すると、亜人は諦めたのか、どこかへ泳ぎ去ってしまった。

「あー死ぬかと思った。こっちの世界にもあんなのがいるなんて」

 体力自慢ではない楓恋がようやく呼吸を落ち着かせた頃、ロッテが叫んだ。

「あっ! 泥棒!」

 普通の人間より何倍も視力がいいロッテは、ビーチに置いてある荷物が見えるらしい。

「さっきの亜人が私達の荷物を漁ってます!」

 これから泳いで行っても到底間に合わない。貴重品はロッカーに入れてあるし、荷物は諦めるかと思ったが、

「ロッテ、周りに誰かいる? その亜人以外に」

 ロッテは砂浜を見渡す。

「いないみたいです」


「よし、じゃあみんな浮き輪を着けて浮かんでちょうだい」

 言われたとおりにすると楓恋は背中から翼を出した。真っ白で大きな翼だった。

「楓恋ちゃん、天使さんだったのか!」

 鬼原が言うのも肯ける。とびっきりの美女がビキニ姿で翼を帯びている姿は、神々しいほど美しかった。

 楓恋はストレージから細くて丈夫そうなロープを取り出した。

「楓恋さんは人を縛る趣味でもあるのかな、やっぱり女王様なのかなとか思っていますね陽平さん?」

「いや、べつに……」

「夢を壊すようですが、これはバーベキューセットを梱包して余ったロープです。残念でした」

 喋りながら三人の浮き輪にロープを結び終えた。

「じゃあ、身体強化ください」

「オッケー」

 楓恋に身体強化をかける。

「行きますよ! 浮き輪から抜けないようにしっかりつかまって!」

 三人の浮き輪から伸びたロープを両手に持って、楓恋は水面すれすれを飛ぶ。

 モーターボートにでも引かれているようなスピードで、あっという間に足がつく辺りまできてしまった。

「あとは歩いてきてください」

 これ以上は引きずってケガをしてしまうので楓恋は手を放す。

 そして、そのまま謎の亜人の後ろ頭に飛び蹴りを食らわせるのであった。

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