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3-7 襲撃

「父上の解呪ご苦労だったな、魔王アメリア」

「あんたどうやって! イル・グリジオをどうした!」

 城門内は結界に守られていて直接飛竜では入ってこられない。城門から入ってきたなら、魔獣イル・グリジオが守っていたはずなのである。

「あの猫か? ずいぶんとしつこかったが始末したさ。そういえば、あれが貴様の頼みの綱だったな」

「嘘だ……ネロ、ビアンカ……あたしが門の守りなんか任せたから……」

 アメリアは細身の剣を出して炎の魔法をまとわせる。周囲に人が多くて銃を使うことができないのだ。

「魔法剣か。無駄なことを」

 ジョージが両者の間に割って入る。

「よせ、アメリアちゃん。今のこやつはそなたよりもはるかに強い」

「父上の言う通りだ。大人しく城を明け渡すなら見逃してやってもいいぞ」

 血走った目をして構えるアメリア。

「どいてよ爺さん! ネロとビアンカのかたきを討つんだ!」

 ジョージは手を広げて行く手を阻む。

「若い娘がむざむざ殺されるところなど見とうない。こらえてくれ」


 ジェイコブはおもむろに戦闘用のグローブを装着した。

「考えてみれば貴様には仲間がいたな。あの賢者やシャーロッテとつながっていることは明白だ。やはり貴様は生かしておけん」

 ジェイコブは立ちはだかるジョージを平気で突き飛ばし、アメリアに襲い掛かる。

 メイド達が悲鳴を上げ、屈強なモンスター達がジェイコブに挑む。

「ほう、このレベル差でも向かってくるとは大した忠誠心だ」

 しかし、ジェイコブが上段回し蹴りをしただけで衝撃波が起こり、全員吹き飛ばされて地に伏せてしまう。


「愚かなせがれよ……」

 ジョージは何か詠唱しようとしたが、ジェイコブの蹴りをもらって壁に叩きつけられた。

「あんたの父さんだろ! 年寄りになんてことするんだ!」

 燃え盛るレイピアで無数の突きを放つアメリア。

 ジェイコブは涼しい顔でかわし続ける。


 みんな吹き飛ばされて巻き込む心配が無いと見たアメリアは自動小銃に持ち替えて乱射する。

 しかし、ジェイコブは至近距離でのフルオート連射までもかわしきった。

 首がもげそうなほどの左フックをもらったアメリア。ストラップを引きちぎられ、銃を投げ捨てられる。


「いろいろ準備してきた甲斐も無いが父上の呪いのおかげで決着がついたな。死ね、魔王アメリア!」

 オーラを溜めた両拳がえげつないほどのラッシュを繰り出してアメリアの体をもてあそぶ。

 アメリアはもはや痛みを感じなくなって、なぶり殺される自分の体をぼんやりと眺めている気分だった。

「あたしも数えきれないぐらい人を殺してきたもんな……とうとうあたしの番か……やっぱり怖いな」


 ギルドマスターが叫んだ。

「殿下、あなたに魔王は倒せませんぞ!」

「貴様、何を言っている? 魔王ならじきに死ぬぞ」

 足下に転がったボロ雑巾のようなアメリアを鼻で笑う。

「殿下に勇者のジョブを付与した覚えはありません。よって、魔王にとどめを刺すことはかなわないのです」

 ジェイコブはマスターをせせら笑う。

「何かと思えばそんなことか。勇者以外にも魔王にとどめを刺せるジョブがあるだろう。ギルドマスターの貴様が知らんのか?」

「まさか……」

 ジェイコブは自らのステータスウィンドウを出して見せた。


ジェイコブ・ド・フォルスタン♂ 35歳

レベル 2397

種族  悪魔

ジョブ 魔王

職業  フォルステール王国第二王子

スキル 格闘マスタリー・白魔法・黒魔法

特技  蹂躙・凌辱・拷問


「魔王同士ならば問題なくとどめを刺せるだろう。違うか?」

「違いません」

 マスターは悔し気な表情で首を振った。

「それよりも悪魔とはなんです? ものの例えではなく種族が悪魔になった人など、私は見たことがありません」

「知るか! さあ、俺が新しい魔王としてこの魔王城をもらい受けるぞ!」

 手刀がアメリアの喉を突こうとしたとき、ジェイコブは弾き飛ばされ壁にクレーターができた。


「……カン……ドーレ」

 聖獣イル・カンドーレが現れ、中庭を丸ごと包む魔法陣が出現した。その場にいた皆が大いなる白魔法に癒された。

「イル・グリジオ! よかった!」

 イル・カンドーレと並んでイル・グリジオが立っていた。こちらも癒してもらったのか、元気そうだ。

「ちょっとだけ時間稼いで!」

 二匹の巨獣に頼むと、アメリアはジョージのもとへ走った。

「爺さん、呪い解いて!」

 起きたばかりのジョージを急かして詠唱させる。

 ジェイコブは巨獣達に苦戦しているようだ。


此方こなたの呪い(まじない)斎戒さいかいに変えて我が血潮にて贖う(あがなう)。退勢たいせいに堕した(だした)此方の顕職けんしょく這般しゃはんをもって出廬しゅつろせしめん。我、ジョージ・ド・フォルスタンここに約諾やくだくする」

 ジョージは指先で鼻血を拭ってアメリアの手を取る。

「ジジイ汚い! ちゃんと指から血ぃ出してやってよ!」

「こんなもの、どこでも同じじゃ」

 アメリアの両掌にルーン的なものが刻まれ、レベルが回復した。

「うっひょー、レベル2000超えてる。今までたまってた分、一気に開通したー」

 久しぶりのお通じみたいな喜び方をするアメリア。

 両手にカギ爪を装備してジェイコブにかかっていく。


 ジェイコブは舌打ちした。

「レベルが戻ったか。こいつは厄介だな」

 イル・グリジオは相変わらずレベル1200程度だが、カンドーレは相手のパーティーレベルの平均値を自分のレベルにする。つまり、相手が一人なら全く同じレベルになるのである。

 巨獣二匹とアメリアのカギ爪による猫パンチ地獄がジェイコブを翻弄し、体のあちこちがズタズタに切り裂かれている。

「ここまでか」

 呟いたジェイコブは指笛を鳴らして飛竜を呼んだ。

 しかし、飛竜は現れなかった。

「プークスクス、飛竜に見捨てられてやんの。かっこわるー」

「あいつ、とっ捕まえて焼肉にしてやる」

 ジェイコブは地団駄踏みながらも足下に魔法陣を発生させた。黒い炎で描かれたような禍々しい魔法陣で、その異様さにアメリア達は気を取られる。

「あっ! 待てっ!」

 ジェイコブは水に入るようにスーッと魔法陣に消えていったのだった。

「彼、なんかもう人間じゃないね」

 アメリアの呟きにマスターが応える。

「悪魔だとよ。あの親不孝ものが」

 マスターの視線の先には、スケベジジイの片鱗も見せないほど意気消沈するジョージの姿があった。

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