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3-5 おめでた

 地下施設で昼間は鍛錬、夜は夫婦の営みに励むジュリアンとマデリンだったが、早くも妊娠が判明した。ちょっと計算が合わないほどの早い妊娠で、冒険者をしている間に既に授かっていたのかもしれない。

 二人は屋敷の奥の洞穴、オスカーの研究室に報告にきていた。

「どちらにしてもよかったじゃないか。跡取りもできたし、じきに公爵位と領地をいただけるだろう。坊やだったジュリアンが父親になるとは、不思議な感じがするな」

 オスカーは目を細め、歳の離れた弟と義妹のおめでた報告を祝福した。


「さて、スペアができた君にやってもらいたいことがあるんだ。マデリンはジュリアンの領地が整うまで、僕の城でのんびり過ごすといい」

 マデリンは不服そうに言う。

「せっかく子どもができたんだから、ジュリアンにも経過を見てもらいたいわ。父上やママにも報告して、正式に婚姻を結びたいし」

「残念ながら、ジェイコブがしびれを切らしているからね。スペアができたならすぐにジュリアンの強化を開始しなくては」

 ジュリアンがオスカーを睨む。

「スペアとはいったいなんのことです兄上? それに、鍛錬なら姉上と暮らしながらでもできるはずです」


 オスカーは腕組みをして、しばし考え込む。

「マデリンにストレスは良くないから聞かせたくなかったんだが、ジュリアンには特殊な強化を受けてもらうことになってるんだ。この場所にきて鍛錬してもらったのは、いわば基礎作りでね」

「特殊な強化……ですか?」

 ジュリアンの背中を嫌な汗が伝う。

「そうだ。父上はナマケモノになってしまったし、僕がいなければ研究が途絶えてしまう。ジェイコブは次期国王になる身だから実験台にはできない。叔父上も既に他界しているから残った聖王の血族はジュリアンだけというわけだ」

 マデリンがオスカーの襟首をつかむ。

「何を言ってるか分かっているの兄上? 実の弟を人体実験に使うつもり? どうかしてるわ!」

「姉上、落ち着いてください。体を大事にしないと。それに、まだ危険な実験と決まったわけでは……」


 マデリンが手を放すとオスカーは怒るでもなく、ふむと肯いた。

「どの程度の副作用があるかは不明だが、民から吸い上げたマナや経験値を濃縮したものに、あるものを加えて被験者に流し込む。急激なレベルアップができることは動物実験からもほぼ確実だ」

「動物実験ですか? その動物はどうなりました?」

 オスカーはクイっと眼鏡を直しながら言う。

「ただのトカゲがアルティメットドラゴンに進化したよ。実験は大成功だったが人間にこの技術を使った場合、人の姿を保てるのか、それとも人ならざるものになるのか、そこが問題だと思うんだ」


 マデリンが素早く杖を構えて魔力をためる。

「いけません姉上、エマさんが!」

 マデリンの頬を涙が伝う。

「ママを犠牲にしてでも、いいえ、ママ一人の犠牲で済むうちにこの人達を止めなきゃ取り返しがつかないことになるわ! 剣を抜きなさい、ジュリアン!」

「分かりました、姉上にそこまでの覚悟があるなら!」

 剣を構えるジュリアンの目にも涙がにじんでいる。

「オスカー兄上、お覚悟!」

 マデリンの魔法がオスカーの四肢を拘束し、立ったまま大の字のようになった。そこへ間髪入れずにジュリアンの剣が突き立てられる。

「優しい兄上だとばかり……尊敬していたのに!」

 ジュリアンが突き立てた剣をねじり込んで胸をえぐる。オスカーは血反吐を吐いて頭を垂れた。

 拘束を解かれたオスカーをジュリアンが抱きかかえる。ゆっくりと地面に寝かせ、血まみれの胸に手を組ませた。


「さあ、次はジェイコブ兄上です。こうなってしまったらやるしかないでしょう」

「我が国の安寧のため、地獄の底までお供するわ、ジュリアン」

 口づけ合って決意を新たにする二人の後ろでオスカーが目を開けた。

「ひどいことをするじゃないか、まったく。これにはさすがの兄さんも少し腹が立ったよ」

 ジュリアンが身構えるより早く肩に針を刺された。

「妊婦にはこっちだな」

 杖を構えて防ごうとするが、手の動きが全く補足できないほど速くて針を刺されてしまった。


 マデリンが刺されたのはただ痺れるだけの針だったが、ジュリアンに刺されたのは、

「お仕置き用の特別製だ。生きたまま全身を無数の蟲に喰われる幻覚を見るものだよ。実際に蠢く感触や痛みを感じるから、発狂して死んでしまう者もいるぐらいだ」

 ジュリアンが白目を剥いて悶絶している。唸り、叫び、どんな体勢になっても止むことのない痛みと不快感の地獄。

「僕を一回殺したんだから、三回ぐらい殺してやろう。僕だって蘇生の魔法ぐらい使えるからね」

 オスカーがジュリアンに痛覚倍増の針を刺すと絶叫しながら死んでしまった。

 蘇生しては同じ地獄を繰り返す。

 マデリンは最愛の夫が三度狂い死ぬさまを見せつけられ、こちらも発狂寸前だったが身動き一つできなかった。

「今度やったらこんなものじゃない地獄を見せるからね。二度と馬鹿な真似をしちゃいけないよ」

 オスカーは自らステータスウィンドウを出して、マデリンの虚ろな目に見せつける。


オスカー・ド・フォルスタン♂ 43歳

レベル 2049

種族  人間

ジョブ 魔王

職業  フォルステール王国第一王子

スキル 錬金術・呪術・死霊術・白魔法

特技  生体改造・マナに関する技術開発


「荒事は苦手なほうだが、100レベルを超えたばかりのヒヨッコになんて負けないよ。君達を追い詰めたらどういう行動をとるか観察させてもらっただけだ」

 ようやく口を聞けるようになったマデリンが問う。

「魔王ってあなたいったい……」

「実験の犠牲者が千人を超えたあたりで変化したようだね。聖王たる我が一族が魔王とは皮肉な話だが」

 オスカーはクックックと笑って続ける。

「魔王にとどめを刺せるのは勇者だけだからね、ただの剣士に戻ったジュリアンに勝ち目など無かったんだよ」

 勇者とは魔王討伐任務の遂行中だけ付与される特殊なジョブなのである。

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