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3-3 侍

 高そうな寿司屋のカウンター、大将の目の前に案内されたが、おっさんが言う。

「ちょっと内緒話するから奥いいかい?」

 和装の女性について奥に行くと、別料金がかかりそうな個室に案内された。

「陽平君、力仕事だったね? 結構食べるの?」

「あ、はい、まあまあ食べます」

「私も陽平さんに負けないぐらい食べられます」

 かつての大食い競争を思い出してか、誇らしげに言うロッテだった。ずっと王家の二人と妹同然の扱いで暮らしてきたから、食べ物ごときに遠慮なんて発想自体がなかったようだ。

 陽平と楓恋が慌てる中、おっさんは豪快に笑った。

「ロッテちゃんだったかい? 面白いお嬢ちゃんだね。じゃあ、お姉さん、ジャンジャン持ってきちゃってよ。食べられなくなったらストップかけるから。あと、みんなビール飲む? 運転代行頼むから楓恋ちゃんも飲もう」

 ロッテだけは十九歳なのでと思ったら、

「私、三月生まれなのでこちらの世界ではもう二十歳みたいです。ビール飲んでみてもいいですか?」

 新生活に浮かれているのか、いつもより積極的なロッテであった。


 しばらく高級寿司と酒を楽しんでいると、おっさんが名刺を差し出した。

「ロッテちゃんが面白くて忘れてたけど、これ俺の名刺。この辺で店をいくつかやってるんだ」

 株式会社キハラインターナショナル社長鬼原龍三きはらりゅうぞうとあった。強そうな名前といい、組の代紋でも入っていれば完全にそっちの人の名刺だが、本当にカタギだという。

「会社やってる以上、舐められたら始まらないからハッタリ利かせてるんだけどね、そのせいで友達少ないんだ。頭はハゲちゃったから剃ってるだけなんだけどなぁ」

 ピンクのほっぺをしたロッテが鬼原を指さして笑う。

「それならサングラスとヒゲをなんとかしなきゃだめですよー。あっちからきた私でも怖い人だと思っちゃうぐらいなんですからー」


 笑い上戸で何でもしゃべってしまう。あんまり飲ませちゃだめな子だと陽平が案じていると、案の定気づかれてしまった。

「やっぱり、あっちからきたんだね? あっちってどこ?」

「惑星プロネ……」

 楓恋がとっさに口を塞いだ。

「大丈夫だよ。おじさんもオカルト大好きだから。それで、君達もあれ見えたんだよね? 落ち武者の亡霊」

 内緒話がしたいとはこのことだったらしい。

「じつはおじさんね、あいつらを退治してるんだよ。ああいうのが近所に現れると独特の耳鳴りがしてね」

 鬼原は右手を手刀の形にして見せる。白く燃えるようなオーラが湧いてきて、三人は驚愕した。

「おじさんは侍の末裔でね、居合道とか剣道とか武道をいろいろやってるんだけど、おじさんが刀とか持ってたら一発で捕まっちゃうからね。この『ハンズオブ武蔵』で戦っているんだ」

 鬼原は左手にもオーラを出して構えて見せる。光る手刀の名前こそどうかと思うが、さまになっていてかなり強そうに思える。


 ロッテは対抗するようにストレージから短剣を取り出して二刀流で構えて見せる。

 手品のように出現した短剣に鬼原は大いに喜んだ。

「すごいね、どうやって出したの? それ、おじさんにもできる?」

「これはストレージとい……」

「ロッテ、いい加減にしなさい!」

 楓恋におでこをペタっと叩かれると急に糸が切れたように脱力してアヒル座りになる。

 短剣を放り出したかと思えば、声を上げて泣き出してしまった。

「ちょっと……そんなに強く叩いてないでしょ。あなた、どうしちゃったの?」

「だって……騒いでないと不安だったんだもん……この世界はすぐにお腹が空いて……なのにまだ私はお仕事決まってなくて……お腹空かせて死んじゃったらどうしようって」

 海外留学の学生などにもよくあるやつだ。何もかも楽しくてはしゃいだかと思えば、いきなりホームシックや鬱になったりする人もいるという。

「そっか、ごめんねロッテ。あなたにとってこっちは異世界だものね。そんなに不安だったか。……おいで」

 楓恋はふくよかな胸にロッテを抱いて落ち着かせた。

「ロッテの仕事が見つからなくても俺が食わせてやるから心配するなって。それに、どうしようもなくなったらあっちに帰ればいいさ」


 しんみりしてしまった空気を打ち壊すかのように鬼原が言う。

「そうだ二人ともうちの店で働いたらどうだろう? うちでやってる店の一つにメイドカフェがあるんだけど、ロッテちゃんも楓恋ちゃんもすごく可愛いし、なんかメイドっぽい雰囲気あるし」

 ちょくちょく、ただ物じゃない勘の鋭さを見せる鬼原ではあるが、これはチャンスかもしれない。楓恋一人ならまだしも、ロッテが心配だったから二人一緒に働ける場所を探して難航していたのだ。

「一応伺いますけど、エッチなお店とかではないんですよね?」

「うんうん、もちろんエッチな店じゃないよ。万が一セクハラとかされそうなら俺が出て行って『ちょっと話そう』って声かけたら逃げていくから大丈夫だよ」

 そう言って鬼原は親指を立てた。

「メイド喫茶なら異世界の話がうっかり出ても不思議ちゃんで済むかもな」

 陽平が言うと、鬼原も肯く。

「ロッテちゃんは演じなくてもちょっと天然で不思議ちゃんだし、楓恋ちゃんは辛辣系お姉様キャラがいいかもしれないな。叱られたり冷たくされるのが好きなお客もいるんだよ」

 詰めの話が進んで、あれよあれよと二人の就職も決まったのであった。

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