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3-2 初仕事

 数日経って陽平は土木作業員のアルバイトを決めていた。以前の陽平なら絶対に選ばない職種だが、身体強化や回復の魔法があるからそう過酷でもないはずだ。それに、アルバイトの中では給料が高くて履歴書や面接が簡単で済むこともメリットだった。実際、履歴書などろくに見ないで、「明日から来れるのかい?」という感じだった。


 久しぶりに目覚まし時計で早起きし、楓恋が作った朝食をとった。楓恋に車で駅前まで送ってもらうと、現場に向かう車が拾ってくれることになっていた。

「はい、お弁当です。お仕事頑張ってくださいね」

 ロッテお手製の弁当を手渡され、おっさん満載のワゴン車に乗り換える。

「新入りの三橋です、よろしくお願いします!」

「おう、よろしく。おまえあれどっちか嫁さんなの? 娘か? えらい可愛いな。ちっこいほうは外人みたいだったし」

 運転している年配の男が根掘り葉掘り聞いてくる。もう慣れっこになってしまったが、とんでもない美女二人と生活を共にしているのだと思い出す。

「あ、いや、ちょっと訳あって同居してるだけで……」

「どんな訳があったらあんないい女と住めんだこの野郎! 俺にもその訳よこせ! ってか今度紹介しろ!」

 ワッハッハと豪快な笑い声が起きる。


 現場についてラジオ体操や朝礼が終わると、穴を掘ったり重たい資材を運んだり、次から次にやることがあった。あっという間に十時休憩になり、お昼になってロッテの弁当を愛妻弁当だとからかわれ、三時休憩を経て終業となった。支援魔法を密かにかけていたとはいえ、慣れない仕事でヘトヘトに疲れた陽平だった。


 地元の駅まで送ってもらうと、楓恋達がすでに迎えにきていた。

「おかえりなさい、陽平さん。お仕事どうでした?」

 助手席から振り返ってロッテが訊いてくる。

「魔法があっても結構しんどいな。でも、なんかあっという間の一日だった」

 陽平は自分の作業着の胸元を引っ張りながらクンクンにおいをかいだ。

「ごめん、汗臭いよな。窓開けるね」

 楓恋がルームミラーで陽平をチラッと見る。

「一生懸命働いた男の匂い、嫌いじゃないですよ」

 ロッテはクンクン鼻を鳴らす。

「私も、わりとありだと思います。結構好きかも」


「急ブレーキします!」

 タイヤが派手になって急停止する。予告してくれたおかげで誰もケガはなかった。

「どうしたの?」

 陽平は前席シートの間から前を覗く。

「あれ、モンスターですか?」

 ロッテは見たことがないかもしれないが、

「落ち武者だわ。アンデッドの一種……ゴーストのほうが近い?」

 轢かれかかった落ち武者は尻もちをついていたが、立ち上がって歩道によけた。かと思うと、通行人に向かって刀を振り上げた。

「落ち武者、停止!」

 とっさに窓の隙間から魔法を唱える陽平。車を降りるとロッテも続いた。

 後ろの車にクラクションを鳴らされて、楓恋は車を離れられない。

「みんなこいつのこと見えてないのか」

 車の流れも人の流れも止まらず、楓恋は止められる場所を探していた。

 落ち武者は見えている二人に気づき、襲い掛かってくる。

「浄化」

 陽平の白魔法で落ち武者は蒸発するように消え去った。


「お兄ちゃん、やるねぇ。まるで魔法使いみたいだ」

「あ、このまえの」

 いつの間にか傍に立っていたのはスーパーでドアをぶつけたスキンヘッドのおっさんだった。

「ああ、あのときのお兄ちゃんか。先日はどうも」

 おっさんはサングラスを畳んで胸ポケットに入れる。

「この前のこともあるし、食事でもどうだい? おごるよ」

 まだ生活費が心もとないから一食でも浮くのはありがたいが……。

「反社会的勢力の人と密接交際してはいけないって楓恋さんが言ってました。逃げましょう、陽……」

 陽平は慌ててロッテの口を塞いだが、おっさんは愉快そうに笑った。

「おじさんはこう見えてカタギなんだ。悪い人じゃないから大丈夫だよ。何が食べたい?」

 ロッテはペコリと頭を下げる。

「反社の人じゃないんですね、失礼しました。それなら私、お寿司というものが食べてみたいです」


「ロッテちゃんちょっとこっちおいで」

 寿司は高いからもうちょっと遠慮しなきゃいけないと話していると、おっさんはスマホを出して電話をかけ始めた。

「あー大将、これから四人いいかな? ああ? 今混んでる?」

「あ、じゃあまた今度でお願いします。仕事帰りで風呂も入りたいし」

 大げさな話になって面倒に思った陽平は辞退しようとしたが、

「ああ、八時からならオッケー? じゃあそれで頼む。はいよろしくー」

 おっさんは電話をしまう。

「時間があるから風呂入って出直してくるかい? 家遠いの?」

「そうでもないです。八時なら十分戻ってこれます」

 結局断り切れない陽平であった。

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