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3-1 ただいま

 転送された三人はどこかの家の押し入れの中に出た。いきなりの狭さで、くんずほぐれつになってしまった三人。

「ご、ごめん!」

 体制を立て直すのにも一苦労で、あちこち柔らかいものを触っては謝る陽平だった。

「い、いえ、狭いからしょうがないです」

 ロッテは顔を赤らめながら、一番乗りで押し入れから飛び出した。

「せっかくだから、しっかり触っておきますか? 陽平さんは女の子に耐性無さ過ぎですから」

 暗がりで楓恋に手を取られ、豊かな膨らみに導かれる陽平。

「なんで!? 楓恋さん!?」


 寸前のところでロッテが歓声を上げた。

「わー! 綺麗な虫がいますよ!」

 ロッテが自動防御のときのような俊足で行って帰ってくる。

「ほら、ツヤツヤで黒光りしてオニキスみたい」

 ロッテが宝石のようだと自慢気に見せるそれに楓恋は悲鳴を上げた。

「いやだ! ロッテ、それを近づけないで!」

 宝石に例えたその虫とは、不快害虫の王者Gであった。

「氷結」

 陽平の氷結魔法でGは凍り付く。

「毒虫なんですか? こんなに綺麗なのに」

 ロッテは渋々窓を開け、氷漬けのGを窓の外に投げ捨てた。

「早く手を洗って、もうあれは触っちゃだめよ。あれを平気で触る女の子なんて頭がおかしいと思われるわ」

 毒虫ではないが不快害虫の王者であることを告げると、ロッテはようやく納得した。


 一行は洗面所を探しつつ家の中を探索する。古い一戸建ての内装だけリフォームしたような家だった。そのリフォームからも少し時間が経っているようで壁紙が少し黄ばみ、若干カビくさい気がした。

 一行が到着した押し入れは二階にあって、別にもう一つ部屋があった。階段を下りると居間があり、隣接してもう一室ある3LDKだった。家具や生活道具一式が全て揃っていて、よもや知らない人の家に侵入してしまったのではと心配になった。

「メモがありますね」

 楓恋が手にしたメモはママからのものだった。

「あまりそちらの世界に干渉はできないけど、当面必要なものは用意しました。陽平君と楓恋ちゃんの運転免許証を更新してあります。家賃は五万円で、楓恋ちゃんの銀行口座から自動引き落としになります。仲良く協力して頑張ってね」

 と、書かれていた。

 住所不定の異世界人は家を借りようと思っても保証人などの問題で難しいだろう。これはママのナイスアシストであった。


 楓恋がロッテに、水道を始めとして家の中の設備について説明している。

 陽平はステータスウィンドウを開いてみた。

「普通に開ける。魔法も全部あるな。所持金は十万円か。二人はお金いくら持ってるー?」

「十万ですねー。ロッテも同じだそうですー」

 家の中のどこにいても大声を出せば聞こえる感じが懐かしかった。思えば、あちらでは豪華な宿や城で過ごすことが多かった。

 ストレージを見てみると銀行の通帳やキャッシュカードがあった。ストレージから直のキャッシュレスは使えないので、所持金を財布や通帳に分配しておく必要があるだろう。


 ロッテにいろいろレクチャーし終わった楓恋がお茶を淹れて、ダイニングテーブルに着く。

「家賃とか生活費の負担と、家事の分担を決めましょう」

 そろばんや簿記会計が得意なメイド長がテキパキと決めてくれるおかげで、生活力のない陽平は大いに助かった。なんとなく男子で年長の陽平がリーダーのように思えてしまうが、この手のことはからっきしである。

 そういうことも見越して家賃の引き落としも楓恋の口座なのだろう。

「陽平さんはお料理ができないので、お風呂、トイレ掃除とゴミ出しをお願いしますね。掃除、洗濯、料理はロッテと私でシフトを組んでやります。あとは……」

 広くない庭が草ボーボーになっていた。

「これはちょっと面倒ですね。暗くなってから魔法で片付けちゃいましょう。陽平さんお願いします」

 風魔法のウィンドカッターでも使えばすぐだろう。

「じゃあ、夕食の買い物にでも行きますか。こちらでは三食きちんと食べないとすぐにお腹が空きますからね」

 レサジアの市街地にいても空腹はあまり感じなかったが、魔王城はマナが強いのでなおさらだった。地球に戻った以上、食事は嗜好品ではなく、命をつなぐものだ。


 買い物に出る前に、それぞれの部屋のタンスに入っていた服に着替えた。陽平は賢者らしいローブだったし、楓恋はメイド服、ロッテはこちらで言うところのロリータ服に近いフレアワンピースだったから、そのまま出かけたらコスプレ集団になってしまう。

 テレビによれば今は六月下旬らしく少し暑いので、陽平は半袖シャツとジーパンを履いた。楓恋は白の七分袖ブラウスと水色のスカートを、ロッテは白地に小花柄のワンピースを着た。

 一応靴まで揃っていたが、着替えは多くない。安い衣料品店を見てくる必要があるだろう。


 車庫には古ぼけた白い軽ワゴン車があった。陽平の運転で少し走ってみると、標識の青看板などから関東地方の郊外S市であると分かる。陽平にしても楓恋にしてもゆかりのある土地ではなかった。

 田んぼや畑ののどかな風景をしばらく走ると、駅を中心とした市街地があって、結構賑わっていた。

 ショッピングモールのだだっ広い駐車場に止めて、買い物に出る。

「ちょっと口座にお金入れてきますね」

 楓恋はかつて気に入っていたブランド物の財布とバッグを魔王城の霊脈口で再現して持っていたので、それを使うことにした。

 楓恋がATMに並んで待つ間、陽平はATMやスーパーについて説明する。ロッテは目をキラキラさせて食いついてくる。何もかもが新鮮で、何もかもが興味深いようだった。


 買い物を済ませて駐車場に戻ると、いかついおっさんが陽平達の車を見ていた。

「あの、何か?」

 サングラスをかけたスキンヘッドの男で、口の周りから顎にかけて髭を生やしている。背が高くてガタイがいい。早い話がもろに反社会的な感じのおっさんである。

「これお兄ちゃんの車? ごめんね、風でドアがガバーっと開いてぶつけちゃったんだ」

 隣に止めてある高級ドイツ車のドアをぶつけたという。しかし、ちょっとしたかすり傷で、元々のボロさからして大して気にするほどでもなかった。

「タッチアップペンで塗れば済む程度だからいいですよ、気にしないでください」

 怖そうなおっさんに関わりたくないのもあって言うと、おっさんは何度も礼を言って高級車に乗り込み、去っていった。

「ずいぶん腰の低いヤ〇ザ屋さんでしたね」

 楓恋は帰る道すがら、ロッテに反社会勢力について解説していた。

 この日の経験だけで、ロッテのレベルが68も上がって650になっていた。元々の地球人二人はそれぞれ1レベルだけ上がって楓恋が898に、陽平は1046になった。

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