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2-16 ジョブの試練へ

「それで、ここにきたのはフォルスタン家の次男についてかしらね、長男にもだいぶ問題があることも把握しているわ」

 彼等がやがて戦乱に結び付く動きをしていることはすでに把握しているという。子ども達の自主性に任せるとは言っても、戦乱の世になることはママの望みではないそうだ。

「かと言って、事故に遭わせて始末してしまうというのはさすがにアンフェアだと思うの。そこで、今回地球からスカウトしてこちらに来てもらったのが陽平君なのよ」

 異世界から強い人間を召喚して戦わせるのはぎりぎりフェアネスを保てる範囲内と判断したそうだ。

「あ、そういえばあのシステムボイスってママの声か!」

 ママはシステムボイスの声色で言った。

「よく気づきました、陽平さんのレベルが上がりました」


 そんな茶目っ気のあるママだったが、真顔に戻る。

「それにしても、彼等はよからぬ研究をして予想をはるかに超えるスピードで力を付けているわ。このままではアメリアちゃんが全力を出せたとしても敵わなくなる可能性まで……」

 楓恋はふと思いついて問う。

「ママの力で我が君の呪いを解くことはできないのですか?」

 ママは残念そうに肯いた。

「施術者を殺さないで呪いを解くのって、案外難しいのよ。当事者同士で解除してもらうほうが手っ取り早いわ」

「うーん、あのスケベジジイをしばき倒して解除させるにしても、敵地のど真ん中だしなぁ」


 陽平はふとひらめいて言う。

「ギルドマスターが王様の友達みたいなんだけど、王様をこちらに連れてきてもらうことはできないかな? もちろん、しばき倒すためじゃなくて話し合いのために」

 アメリアがプーっと口を尖らせる。

「あのジジイにお尻触られて、びっくりしてる隙にこの呪いをかけられたんだよ? せめて一発ぐらいしばいてやらないと」

「まあまあ、全部片付いてから改めてしばき倒せばいいじゃないの。今は共闘すべきだと思うわよ」

 ママは穏やかな口調でサラッと言ってのけた。アメリアと気が合うのも分かる気がした。


「ギルドマスターには私もツテがあるから、私がセッティングしましょう。それで、あとの三人のジョブだったわね」

 ようやく本題である。

「あの次男坊に対抗するために近接戦闘のジョブが欲しいのね?」

「そうなんだ。それで魔法が手薄になるのもちょっと惜しいんだけど……」

「それなら大丈夫よ。うちのジョブシステムは積み重なっていくタイプだから。ジョブチェンジしたらあっちは使えないとかじゃないのよ」

 格闘や剣の得意な賢者にもなれるらしい。


「それで、もしよかったら一度地球に戻ってみる? あっちの経験値設定はかなりレートがいいのよ。魔法が無くて飢えれば死んでしまう過酷な世界だから、何をやっても経験値が格段にいいの」


 楓恋がウーンと唸る。

「今さら魔法が無い世界に帰るのはちょっとおっくうですね。あちらにはあんまりいい思い出もないし……」

「嫌な思い出のほうは仕方がないけど、魔法なら使えるわよ。一度こちらの世界の人間になってしまえば、向こうの世界でも魔法やスキルを使えるの。霊脈口が整備されてないだけで、どこの星にもマナはあるのよ」


 それでも楓恋は難しい顔をしている。

「我が君を長期間置いていくのは心配です。私がいないとカップラーメンとかジャンクフードばかり霊脈口で作って食べるし、侵入者を誰彼かまわず始末してしまうから蘇生役も必要ですし、副メイド長のクロエはちゃんとしてて優秀な子だけど我が君に甘いし……」


 お説教楓恋さんが出てきそうになったが、ママが食い止める。

「こちらの一日はあちらの一か月ぐらいに相当するの。時の流れが違うのよ。だから、向こうで一年修行してもこちらでは十数日しか経ってないことになるわ」

「まあ、それぐらいなら我が君もお留守番できますね」

 楓恋は決心がついたようだ。

「それに、私はこちらにきてから結構な年月が経っているから、もううちの毒母は生きていないはず。それなら発作が起きることもないか」

 ママがしみじみと肯く。

「楓恋ちゃんも大変だったものね。よく生き延びたわ」


「俺の親はどうだろうな? こっちにきて何日経ったっけ……」

「陽平君のご両親は健在よ。ただ、『クソニートが居なくなって清々した(原文ママ)』とか言って、第二の人生を謳歌されてるみたい」

 陽平はため息をつく。

「ですよねー。これは会いに行かないほうがお互いのためか。別に会いたくもないし」

「日本人の家族ってそんなんばっかりなの? あたしとはまた違った方向で大変だったね。陽平、ドンマイ!」

 アメリアに肩を叩かれる陽平だった。


「ロッテちゃんは異世界に行くことに不安はないかしら? 嫌だったら別の方法を考えるけど」

「いいえ、ぼっちゃま達のためですし、陽平さんが行くなら是非お供したいです」

「そう、良かったわ。あなたにとっては何もかもが新鮮な体験のはずだから、レベルアップも早いはずよ」


 神殿の一角にある魔法陣に案内されて、三人は魔法陣に入る。

「騒ぎになると面倒だから魔法の使用は必要最小限にね。あとは、それぞれ取得したいジョブの能力を上げるよう心がけて。近接戦闘をしたいなら筋力を、魔法ならサービス業についたりして精神を鍛えてくるといいかもね」

 手を振るアメリアに楓恋は言う。

「ちゃんとメイドが作ったご飯を食べてくださいね。あと、猫達に人の食べ物をあげちゃだめですよ。それから……」

 ママの魔力に包まれ、三人の姿が薄らいでゆく。

「子どもじゃないんだから、大丈夫だって!」

「とにかく、クロエの言うことを聞いて、いい子にしててくださいね!」

 だいぶ後ろ髪引かれる楓恋だったが、三人は地球へと旅立ったのだった。

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