1-3 新しい仲間
陽平は金髪ポニーテールのきれいなお姉さんの前に座った。親切そうな人懐っこい笑顔のお姉さんで、ネームプレートによればリナというらしい。
「職業を探してるんだけど……」
「はい、それでは現在の職業を教えてください。任務完了済みでの更新ということでよろしいでしょうか?」
そう言われても陽平は宿屋以前のこの世界の記憶など持ち合わせていない。
「記憶喪失……ってほど大げさなものじゃないけど、ちょっと色々分からなくなってて、調べてもらったりはできないかな?」
リナはさほど驚いた様子もない。
「忘却系のデバフとか呪いにかかってくる人も珍しくはないので大丈夫ですよ、それではお調べしてかまいませんか?」
陽平が首肯すると、リナは空中に浮かぶ画面をタブレットのように操って個人情報を照会した。
「あら、これはどうしましょう……」
リナは奥のほうへ、上司らしき小柄なおっさんに相談しに行った。しばらく話した後でリナが戻ってくる。
「前職が無いかたは本来憲兵に通報しなくてはならないのですが、陽平さんは悪そうな人にも怠け者の亜人にも見えないのでギルドマスターが権限でなんとかしてくれるそうです」
小柄なおっさんが「やあ」と片手を挙げながら歩いてきた。この人がギルドマスターらしい。
「代わりにと言っちゃなんだが、少々やっかいな仕事を受けてもらえんだろうか? レベルカンストで賢者にまで昇りつめたあんたならきっとできると思うんだが」
やっかいな仕事と聞いて陽平はひるんだ。賢者ジョブを活かして暇な坊さんとか教会の名誉職とか何か楽な仕事でもあればと期待していたのだ。
「やっかいなのはちょっとなぁ……なにかもっとこう……」
言いかけたところでマスターはニヤリと笑った。だが、目の奥は笑っていない。
「こっちも見ず知らずのあんたのために一肌脱ごうってんだ、ガキじゃないんだから分かるよな?」
押し殺した声が怖い。ろくに人付き合いをしたことがない陽平に交渉の余地など無かった。
「わ、わかりました。やれるだけやってみます。で、その仕事っていうのは?」
マスターは入ってきた三人組に声をかけた。
「ちょうどいいところに来た、おい、ドラ勇者、補充のヒーラーが見つかったぞ」
ドラ勇者と呼ばれた一行が向かってくる。男一人と女二人で若い。二十代だろうか。派手な感じの美男美女で陽キャとかいう人達に近いイメージだった。
「はあ? こちらのパッとしないおっさんですか? ヒーラーと言ったらロリ顔なのに密かにおっぱいが大きくて、ピンチになったらお漏らししちゃうような清楚系可愛い子ちゃんと決まってるじゃないですか」
ていねいな口調でひどいことを言う男である。
「贅沢言うなドラ勇者。おまえさんが次々に見殺しにしたりクビにしてブラックリストに入れるから、もう可愛いヒーラーなんぞ残っとらんわい」
マスターはツンと横を向いて嫌悪感を示した。
「そうは言いますが、説教ブスのおばさんとか、顔はよくても感度がよくない娘だとか、ろくな子をよこさないからですよ。だいたい、第三王子にして勇者の私が遊んであげたのに、結婚してくれないなら訴えるだの殺すだのと我がままを言う困った女性ばかりで……」
マスターはこめかみをヒクヒクいわせている。
「うちは娼婦の斡旋所でも結婚相談所でもねえんだ。真面目にやる気がないなら帰れ!」
一瞬、勇者はビクっと縮こまった。案外小心者かもしれない。
「仕方がありませんね。うちのパーティーは私の小ヒール以外に回復役がいないので、彼を仲間にしてあげるしかなさそうです。パッとしないおっさんですが……」
マスターは手続きの書類に書き込みながら言う。
「そろそろ狼藉三昧を改めて真面目に魔王討伐に向かわないと、さすがのあんたでも査問に呼ばれかねんぞ。うちから出せる補充もこの人で最後だから大事に扱え。あとは知らん!」
マスターは突き放すようにドスンとスタンプを押して手続きを終えた。これで、陽平の職業が冒険者として登録され、とりあえず監獄行きは免れたのだった。
勇者がていねい語で悪態をつきながら出口に向かうと女二人も続いた。
マスターは気まずそうに陽平に言う。
「実のところ、だいぶやっかいな仕事だがよろしく頼むぜ。あいつの親父とも話してたんだがな、国王直々に『ラストチャンスを与えてやってくれ』なんて言われたらな……」
マスターが鳥の羽のようなものを差し出す。
「どんなダンジョンからも抜け出して転移できる一級品の転移の羽だ。聞いてのとおり、あいつについて行った若い娘が何人か帰ってこなかった。万が一の時には迷わず逃げてくれよな」