2-13 転職希望
陽平は魔王城からギルドマスター宛てに電話をかけていた。この世界の電話は誰でも持っている微弱な魔力を使ってかけるもので、公的な機関やお金持ちの家に設置されている。一般市民は急用の時などに電話を借してもらう慣習だった。
「近接戦闘の手練れをお願いしたいんだけど、誰かいないか?」
「なるほど、あのお方は格闘マスターだからな。賢者とレンジャーでは歯が立たなかったか」
マスターはうーんと唸る。
「このギルドは知っての通り王国のギルドだからな。おまえさん達にふさわしいレベルの者なぞおらん。みんなレベル99以下だ。すまんな」
「まあ、そうだよな。じゃあ他を当たってみるよ、ありがとう」
陽平が受話器を置こうとすると、マスターが呼び止めた。
「レサジアにはジョブを変えられる場所があると聞いたことがあるぞ。そっちの主に聞いてみたらなにか分かるんじゃないのか」
傍受でも心配しているのか、相変わらずぼかして話しているが、要はアメリアに聞いてみろと言いたいらしい。
「分かった、あいつに聞いてみるよ」
アメリアのリビングルームを訪ねると、楓恋とロッテと三人でお茶をしていた。陽平もそこに加わった。
「メイド長の楓恋さんがお茶なんかしてていいのか? って、訊きたそうな顔をしていますね」
突っ込まれる前に言ってやりましたという顔をしている。
「大事なお客様にお茶を出すときなどは私がやりますが、家事や雑用などはモンスターや亜人にやらせているんですよ。我が君は合理的な方なので、用事もないのに仕事してるふりなどしなくていいとおっしゃるんです」
ちょうど、人間に擬態していると思われるメイドがきて、陽平のお茶を用意してくれた。
「あれ? あの時のおっさん? こんなとこで何してんの? 我が君の知り合い?」
「デルフィ・ヌ、失礼ですよ。言葉遣いも元に戻っています。訓練をやり直しますか?」
いつかの蛇娘デルフィだった。メイド服の胸元が若干はだけていて、相変わらずエロ可愛い。
「すみません、メイド長。では、私はこの辺で。オホホホホ~」
去り際にデルフィは陽平に耳打ちする。
「エッチしたくなったら、いつでも部屋にきてね」
「デルフィ・ヌ、聞こえてますよ」
楓恋に睨まれてそそくさと逃げ帰る蛇娘だった。
アメリアが口を尖らせて言う。
「楓恋は厳しいなぁ。みんな友達みたいな感じでいいと思うんだけど」
「いけません。あの子達には王国市民などよりずっといい給料を出してるんですから。それに、あの子達はケジメを持って接しないと付け上がって事件を起こしたりするんです。そうなったらあの子達自身のためにも……」
アメリアが楓恋に説教される中、ロッテは陽平に小声で問う。
「デルフィさん……でしたっけ? 知り合いなんですか? 胸が大きくてセクシーな人ですね」
「ま、まあね。ちょっと酒場で話したことがあるっていうか……」
突如、楓恋の矛先が陽平に向かってくる。
「あの子の誘惑に乗ってはいけませんよ。もうちょっとしつけが済んでからじゃないと、あの子自身が食人欲求を抑えられなくなる可能性がありますから」
「わかったよ、メイド長さん」
自分自身や人間相手には結構ゆるいくせに、亜人達のしつけには厳しい楓恋だった。モンスターテイマーの素質があるのかもしれない。
「そうそう、本題はジョブについてだった。ギルドマスターに聞いたんだけど、レサジアにはジョブを変えられる場所があるのか?」
「レサジアにはっていうか、まあ、あるよ」
楓恋の説教から話題が逸れて嬉しそうなアメリア。
「神様に会えばジョブをいじってもらえるけど、行ってみる?」
「神様? この世界のってことかな?」
「うん、種族が神で職業はレサジア国王だったかな」
アメリアが国を治めているわけではないと聞いていたが、どうやらその人が真の国王らしい。
「国王って言っても、あの人も大したことしてないと思うけどね。マナが湧いてるいい感じの土地に町を作って、あとは好きにしなさいっていう放任主義だから」
楓恋がはーいはーいと手を挙げてアピールしている。
「私もそろそろ戦闘職を追加したいと思ってたので同行しますね」
「よし、じゃあ四人で行くか」
楓恋が副メイド長のクロエと魔獣イル・グリジオに留守番を命じて戻ってくると、アメリアの転移魔法で神のもとへ向かったのだった。




