2-8 魔王城のダンジョン
陽平とロッテは魔王城に居候する代わりに庭の警備を手伝っていた。侵入者が来たら出動して追っ払うだけの単純な仕事だったが、結構な頻度でめんどくさい勇者達が訪ねてくる。
「魔王ってのも大変なんだなー」
「これなら猛毒の堀で守ったり、ハエ叩きでぶっ叩きたくもなりますね」
げんなりと顔を見合わせる二人は現在レベル1038とレベル524であった。防衛任務でもちょくちょくレベルアップはしていた。元が低かったロッテはぐんぐん上がっているが、そろそろペースが落ちてきていた。
「ヨーヘイゲン、ロッテちゃん、ちょっとおいでよ」
神出鬼没のアメリアがいつの間にかそばにいた。
「その呼び方もういいって……」
楓恋が面白おかしく語った武勇伝のおかげで、すっかり暗黒大賢者ヨーヘイゲンにされてしまった。とはいえ、魔王城の警備などしていることを王国に知られてはまずいので、庭に出るときはロッテ共々ステータス偽装する必要はあったのだ。
「いいじゃん、カッコいいし」
アメリアに案内されて玉座の間の隠し階段から城の地下に潜る。外から見たなら城が立っている山の内部である。
しばらく階段を下りると大きな扉があった。アメリアの魔力らしき気配が感じられる。結界魔法がかけられているようだ。
「ここからダンジョンだから気を付けてね、案外強いモンスターがいて、ここでテイム(手なずける)して使役なんかもするんだ」
日の光が一切届かないダンジョンの中、魔法仕掛けと思われる燭台の明かりが等間隔で設置されている。
広々としたダンジョンは明らかに人の手が入っているが、アメリアが工事したというような規模ではなく、なにかの遺跡のようなところだ。
陽平は杖、ロッテは二刀の短剣、アメリアは自動小銃的なものを背負い、拳銃を握っている。
「この世界にも銃なんてあったんだ」
「たぶん、あたしが持ってるものだけだと思う。転生した時に使い慣れた銃器一式と弾丸がストレージに入ってたんだ。それに複製や無限化の魔法をかけて使ってるんだよ」
アメリアはポツリとつぶやく。
「もう使いたくないんだけどね、じーさんにレベルダウンさせられてるから火薬の力を借りたほうが安心なんだ。あ、言っとくけど、銃器だけは楓恋にも誰にも貸したことないし複製もさせないからね。銃社会なんてもうたくさんだ」
「お、おう……過酷な経験だったみたいだし、そのへんは関わらないようにさせてもらうよ」
「そうしてくれると助かるよ」
進んでいくと結構な数のモンスターに出くわす。レベル700を超えるモンスターまでいるから、ロッテだけで来たら危ないだろう。アメリアも銃に頼らざるを得ないわけだ。
「ロッテちゃん伏せて!」
用心して後ろを歩かせていたロッテに背後から迫る影があった。
一つ目の大鬼ギガンテプスだ。
アメリアは拳銃を太もものホルスターに収めると、背中の自動小銃を構えた。そのままダダダン、ダダダンと三発一セットの銃声が響く。
トレードマークの大きな目を撃たれ、大鬼は荒れ狂う。目を開けられないまま闇雲に剛腕を振り回す。
「しくったー! 貫通するかと思ったけどこいつ硬いわ! 陽平お願い!」
にゃはははと笑いながら陽平の後ろに隠れる。本気でピンチとまでは思っていないようだが、めんどくさくなったのだろう。
「破壊光線!」
陽平の杖から青白いレーザー光線が放たれた。大鬼の頭を貫通して一瞬ダンジョン内を明るく照らす。
「うっひょー、容赦ねー。さすがは我が四天王が一人」
「うっせ、しくってんじゃねー下手くそ魔王」
からかい合っていると、ロッテは小さく呟いた。
「なんだか、お二人の戦い方は凄いですね。私なんてただのお荷物みたい……」
珍しくロッテがしょげ返っている。知らず知らずに元地球人同士の内輪ノリみたいなものが出ていたのかもしれない。
「ロッテは俺の大事なパートナーだよ。レベルキャップとかのせいでちょっと出遅れてるだけなんだから、焦らないでゆっくりやっていこうぜ」
ロッテは嬉しそうに顔を上げる。
「そうですね、陽平さんとは最初から十倍も差があったんだから、今さら焦ってもしょうがないですね。じっくりついて行かせてもらいます!」
ロッテは陽平の腕に絡みつく。
陽平は嬉しいような緊張したような顔で固まっている。
アメリアがニヤつく。
「親代わりみたいな関係かと思ってたけど、案外アヤシイんだね、あなた達」
「そ、そんなこと……あはは」
「わ、私は陽平さんのことを尊敬してますよ……好きだとか……そんな」
もじもじする二人の背中をアメリアが叩く。
「まあ、いいんじゃないかな! この先にちょっといいものがあるよ」