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2-7 勇者様

 アメリアに許可されているので魔王城の玄関に直接転移できたのだが、庭が騒がしかった。

「楓恋さんですかね?」

 メイド服の人影が飛翔スキルで飛んでくる。やはり楓恋だった。

「お帰りなさい! ちょうどいいところに来てくれたわ!」

 陽平を後から抱きしめて持ち上げ、また飛び上がる。

「結構強い相手だからロッテはお城に入ってて!」


 陽平は楓恋の豊かな膨らみを背中に感じて硬直しつつも、付与魔法で体重を軽くした。

「あら、そんな便利なことができるんですね」

 軽くなった陽平を一瞬離すと、手をつないだ格好で飛ぶ。しっかりつなぐ為とはいえ恋人つなぎになってしまって陽平はまたドキドキする。

 軽い陽平は一反木綿のようになびいてしまうので、体重を微調整しながら引っ張られ、庭に戻った。

「この勇者様がしつこくて、私は魔王じゃないって言ってるのに聞いてくれないんですよ」

 楓恋は純粋なアークプリーストなので白魔法しか使えない。一応攻撃魔法を持ってはいるが、アンデッドなどを浄化するのがメインで生者には大して効かないのだ。

「ってことは、そいつが魔王だな! この勇者マティアスが退治してくれる!」

 十代半ばといったところだろうか、痩せっぽちで背も高くない。よくもまあ単身乗り込んできたものだと呆れる陽平だった。

 いちおうステータス盗視をしてみる。


マティアス・ベーヴェルシュタム♂ 15歳

レベル 258

種族  人間・エルフ

ジョブ 勇者

職業  学生

スキル 近接戦闘

特技  剣術


 人間とエルフの混血、ハーフエルフらしい。美しい金髪で少し耳が長い。

 こちらはレベル1000の賢者と1000に近いアークプリーストである。気の毒な少年をどうやって追い返したものか。

 陽平は突然カッと目を見開き、大物俳優のように一段低い声で笑った。

「我こそは魔王様が四天王の一人、暗黒大賢者ヨーヘイゲン・ミツァーシーである。勇者マティアスよ、魔王様を討つというのなら、まずは我にその覚悟を見せてみよ!」

 魔法も使えないようだし、ハッタリをかましてもバレないだろう。

 陽平はいちおう買っておいたが使ってない杖を取り出した。先端で青い宝玉を咥えたドラゴンが羽ばたいている、中二心をくすぐる形の杖だった。


「な、なぜ俺の名前を知っているんだ! ちくしょう! 人の心が読めるのか!」

 ちょっとめんどくさい反応だなと思いつつも、陽平は高笑いしてみせた。

「我の目は森羅万象を見通すものと心得よ! さあ構えろ、たったいま死をくれてやるぞ!」

 マティアスが抜刀しながら素早く間合いを詰めてきた。意外と鋭い動きに焦る。

 陽平は小声で「止まれ」とつぶやき、マティアスの動きを強制停止させた。

「なんだこれは! 体が! 卑怯だぞ!」

「ふむ、きさまが倒しにきたのは善人か? それとも悪人か? 暗黒大賢者が卑怯なのは自明であろう」

 ぐぬぬと押し黙るマティアス。


「よし、卑怯ついでにきさまの故郷を呪ってやろう。スフィールダ王国のヘルン村か」

 ステータス詳細から出身地を見ておいた。陽平は杖に魔力を集めながら詠唱する。

得難えがた什宝じゅうほう蝕む蟲よ、卑陋ひろうにして陋劣ろうれつなるまじないをもたらさん。スフィールダ王国、ヘルン村。災いの舌を七重しちえあざない彼の地の底にくらき絶望を封ず。ヴィラナス・コンデムネーション!」

 即席のでたらめな呪文と黒い閃光にマティアスは慌てる。

 実際はスフィールダ王国のある北方に向けて大して害のない闇魔法を放っただけだったのだが。


「おのれ! ヘルン村に何をした!」

 陽平はクックックと意味ありげに笑う。

「大災害が起きる呪いをかけてやったのだ。解除したければ村のどこかに隠した黒太陽の雫を探し出すことだな。見つけて破壊すれば呪いは解除される。発動するのは今から五年後。見つけるまでにきさまが村を離れれば即座に発動するから気をつけろよ」


 体の停止を解いてやるとマティアスは慌てて城門に向かったが、すぐに戻ってきた。

「黒太陽の雫ってどんなものなんだ?」

「見間違いようもないほど黒く禍々しい(まがまがしい)オーラを放つ宝玉だ。まあ、見れば必ずそれだと分かるよ。逆に、ちょっとでもこれじゃないかなと疑ったなら、それではないから気を付けるんだ!」

 駆けだすマティアスを陽平は呼び止めた。

「おっと言い忘れた! もしも、どうしても見つからないときは、両親や村の人々に良いことをして尽くすのだ。きさまほどの勇者の善良なマナを三年から四年も充満させれば、さすがの黒太陽と言えども消えてしまうことだろう。それまでは、くれぐれも村を離れるなよ!」

「分かったよ! ありがとう!」

 マティアスはなぜか礼を言って、元気に帰っていった。


「なかなか純朴で愉快な少年だったな」

 陽平がニヤニヤして振り返ると、楓恋はいつの間にか携帯灰皿を出してタバコを咥えていた。

「火、つけてもらえます? ライター忘れちゃって」

 指先に極小のファイアを出して着火してやると、楓恋は旨そうに吸い込んだ。

「この世界のタバコ、臭くなくて歯も汚れないし、美味しいですよ。吸います?」

 一本差し出されたが、陽平は遠慮した。

「あんなやり方もあるんですね。あの手の脳筋タイプには毎度苦労するんですよ。……それにしても暗黒なんだっけ……ヨーヘイゲンなんとか……我が君が絶対好きなやつ……プークスクス」

 しまいには陽平の肩をバンバン叩いて大笑いしたあと、グッと親指を立てる楓恋だった。

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