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2-6 現る

 二人でピョンピョンしてはしゃいでいると、長身の男が現れた。いつの間にか二人のすぐそばにいた。

「ジェイコブ殿下!」

 ロッテは即座に跪き、緊張した面持ちである。

「シャーロッテ、こいつが例の陽平か?」

「は、はい、さようでございます」

 ジェイコブはフンと鼻を鳴らすと詠唱を開始した。

「番人の天秤、猛禽の双眸そうぼう……」

「魔法を封じる」

 ステータスなど見せるかと陽平が止めた。陽平は頭の中で勝手に盗視する。


ジェイコブ・ド・フォルスタン♂ 35歳

レベル 1173

種族  人間

ジョブ 格闘家

職業  フォルステール王国第二王子

スキル 近接格闘マスタリー・白魔法・黒魔法

特技  欲しいものは必ず手に入れる


「それが噂の簡易詠唱か。それならこちらも」

 両手にいくつも付けた指輪の一つが光る。

 魔封じのデバフが解け、ステータスウィンドウが現れた。

「レベル999のままか。高レベルでもレベルキャップの仕組み自体は働いていたようだな。納税ご苦労さん」

 言いながら鋭いパンチが陽平のみぞおちをえぐった。くの字になった陽平は血を吐きながら宙を舞う。

「陽平さん!」

 ロッテのパーティー防御よりも速い一撃だった。さらに着地させずに、リフティングでもするように陽平の体を蹴り上げ、殴り、膝蹴りにしてもてあそぶ。

 ケンカすらしたことのない陽平は初めて喰らった大ダメージに手も足も出ない。

「痛い……息が……死ぬ……」

「これはこれは、頭でっかちで実戦経験無しだったか? 賢者様」

 倒れることも、咳き込む暇すら無いほどの猛ラッシュ。

 ロッテはなんとか陽平の体に抱きつき、パーティー防御を展開した。

 ジェイコブは人間離れした反射神経で、盾の展開に巻き込まれることなく飛び退いた。

 ロッテは防具と短剣の戦闘装備に換装したが、相手が相手だけに抜刀をためらう。もちろん、弓など出しただけで敵対行為とみなされてしまう。


「陽平さん、しっかりしてください!」

 大量に吐血して痙攣し、意識を失っている。内臓に大ダメージを負っているのは明らかだ。

 ロッテは陽平を膝枕して回復ポーションのアンプルを切る。何本も飲ませ、振りかけるが、ヒーラーの魔法には到底及ばない。

「どうしよう、どうしよう……陽平さんが死んじゃう」


 ジェイコブは盾に無数の打撃を浴びせるが、元々頑丈な上に陽平のバリアが付与されたものだからびくともしない。

 ジェイコブは戦闘用の手袋を装備する。体全体を闘気が覆い、右の拳に集まっていく。

「これなら、どうだ!」

 大きく振りかぶったハンマーパンチが叩き込まれると、盾は粉々に砕け散った。


「さあ、シャーロッテ、そこをどけ。その男は少々目障りだ」

 ロッテが返答するよりも早く、盾のサークルが回転して遮る。すぐに盾の複製が現れて、欠けた部分も補充された。

「鬱陶しい盾だ」

 壊しても壊してもわいてくる盾にジェイコブは苛立っているようだ。

 ポーションが効いたのか気絶から目覚めた陽平は、膝枕の柔らかい感触を楽しむことで辛うじて意識を保ち、その隙に内臓や肋骨の損傷を回復する。

 日本にいれば交通事故にでも遭わなければこんな大怪我を経験することなど無かっただろう。

 いまだに害意むき出しで盾を破壊しまくるジェイコブが恐ろしくてしょうがない。

 だが、陽平がやられたらロッテも何をされるか分からない。

 ロッテを守らなくてはならない。ジュリアン達にロッテを預かると約束したのだから。

 陽平はロッテをしっかりと抱き締め、耳打ちする。

「守ってくれてありがとう。考えがあるから合わせてくれ」

 ロッテが肯くと、陽平は頭上の空に派手なエクスプロージョンを三発放った。


「なんの真似だ!」

 ジェイコブは警戒して間合いを取った。

 陽平は盾のわずかな隙間から周囲を確認した。爆音を聞いた市民達が早速集まってきている。

 陽平の合図で盾が解除される。

「ジェイコブ殿下! どうか娘だけはご勘弁ください! これでも嫁入り前の大事な娘なんです! 子の無礼は親である私の責任! さあ、お気の済むまで私を罰してくださいませ!」

「きさま、なにを言って……!?」

 かまわずロッテがたたみかける。

「お父さん、もうやめて! 私が殿下に無礼を働いたんだもの、私がお仕置きされるべきだわ。さあ殿下、存分に私を傷めつけてください! これ以上は、父が死んでしまいます!」

 大勢になった市民達がざわつく。

「おい、やっぱりジェイコブ殿下だぜ」

「あのお父さん、殿下にやられたのかしら? ひどいケガよ」

「ちょっとあんた、殿下に聞こえるよ」


 ジェイコブは民衆の冷たい視線を感じて後ずさる。

 ロッテは土下座のように手をついたままジェイコブににじり寄る。

「さあ、罰をください。いけない私を存分にお仕置きしてくださいませ」

 籠手や胸当てを一つずつ脱ぎ捨てながら、妙にエロティックな雰囲気を醸し出して迫る。

 野次馬の男達のボルテージが上がる。

「まさかあんな可愛い子をぶん殴ったりしないと思うぜ!」

「そりゃそうだよ、王子様ともあろうおかたが、そんな非道をするわけがねーだろおまえ!」

 聞こえよがしに言った男達だったが、ジェイコブににらまれると慌てて視線をそらす。

「ねえママ、おねえちゃんぶたれるの? かわいそうだよ。おじちゃん、とってもいたいいたいだよ」

 幼い女の子の一言が決定打になったようだ。

「ば、ばかもの! 俺も少し虫の居所が悪かっただけだ! 女、子どもを殴るような人間ではないぞ!」

 ロッテにすがりつかれたまま、ジェイコブは陽平にヒールをかける。

「やりすぎてしまったな、許せよ」

 そう言い残してロッテを振りほどき、つまずいてズッコケながら逃げ出すジェイコブだった。


「ああ……死ぬかと思った……」

 陽平が大の字になってひっくり返ると、なぜか民衆から拍手が起こった。

「いい気味だったね~。スカッとしたよ」

「あのおっかない王子がアワ食ってやんの、ざまーみろってんだ」

 ジェイコブは市民達に好かれていないらしい。

 ロッテが駆けてきて陽平の手を握る。

「私達、いいコンビかもしれませんね、お父さん」

 ウィンクするロッテに心臓の高鳴りを禁じ得ない、初心うぶなおじさんだった。


 二人の脳裏にファンファーレが流れ、システムボイスが語りだす。


 陽平様が1000レベルにレベルアップしました。

 シャーロッテ様が118レベルにレベルアップしました。


「勝ちではないにせよ、経験には違いないってわけか」

「大台突破のお祝いでもしたいところですが、王都に長居は危険そうですね」

「じゃあまた、アメリアのところにでも行こうか」

 ロッテに手を引かれて起き上がると、二人は魔王城に転移した。

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