2-5 プレゼント
「ロッテにプレゼントしたいものがあるんだ」
そう言って陽平はロッテを連れて武器・防具を扱う店にきた。
「この店で一番上等な盾をくれ、とびきり頑丈なやつだ」
鍛冶屋がそのまま店番もやっているようなゴツイ店主は、ご機嫌な面持ちで奥に引っ込んだ。
「一番上等なのっていうとこれだけど、旦那魔導師系だろ? 扱えるのかい?」
店主がエッチラオッチラ運んできたのは人がすっぽり隠れてしまうほどの大きなタワーシールドだった。
「軽くて魔法防御に優れる制魔銀を圧縮しまくって物理攻撃にも対応した逸品だが、重すぎて高レベルの重騎士でもないと扱い切れないのが難点なんだ。他のにするかい?」
引っ込めようとすると、ロッテが引き留めた。
「すごく大きいけど、とっても綺麗な盾ですね……」
光を受けて青っぽく反射する美しい銀の盾で、細工も少し可愛らしいような気がした。
「お嬢ちゃんが使うのか? そりゃいくらなんでも……」
「いや、気に入ったのならこれにしよう。べつに持って戦うわけじゃないから、これぐらいでかいほうがいいよ」
ロッテと店主は不思議な顔をする。
会計を済ませて店を出ると、盾を魔法で軽くした。
陽平は続けざまに魔法を使って何やらやっている。
「よし、できた。これをストレージに入れておいて」
羽のように軽くなった盾をロッテが受け取る。
「ありがとうございます。大切に使いますね」
噴水のある公園にきて、人がいない草っぱらにロッテを促す。
「パーティー防御って手動で発動できる?」
「はい、できますよ」
陽平はロッテに寄り添うように近づいた。
「じゃあ、やってみて」
「でも、敵がいなかったら発動してもなにも起きないですよ……」
言いながら発動すると、二人を取り囲むように盾が出現した。
複製され、隙間なく取り囲む盾は展開時だけ重さが元々の百倍になり、耐物理・耐魔法の障壁が付与されていた。
「昔ちょっとだけかじったプログラミングの要領で付与魔法を組み立ててみたんだ……って言っても分からないよな」
「はい、分かりません。でも、こんなに凄いものをいただいて、とっても嬉しいです!」
ロッテは盾を出したり引っ込めたりして試している。
「弓と双剣のレンジャータイプなのに、体を張ったパーティー防御なんてかわいそうだなって気になってたんだ」
「そうですね、むしろ頑丈さを活かして騎士系のジョブにでもなればよかったんですが、気付けばミアさんと同じスタイルになっていました」
陽平はもう一つ思いついたが、こちらはさすがに本人の同意が必要だ。
「ロッテは体重のことで困ってないかな?」
顔を赤らめて少し逡巡したが、やがて白状した。
「ベッドがよく壊れたり、靴もすぐ擦り減るので困っています。あと、もしも好きな男性ができて抱きしめ合ったり、くんずほぐれつしたら踏み潰してしまうんじゃないかとか……」
まだまだ続きそうだったのを手で制し、陽平は付与魔法をかけた。
「これで、羽のように軽い状態から元の体重まで、思い通りに変化できるようになったぞ」
ロッテはまさに天にも昇る気分になって体重を軽くし、高くジャンプして喜んだ。
「じつは、トカゲで動物実験したあと自分でも実験してみたんだ」
陽平自身にも同じ魔法を付与してあった。これなら飛翔スキル持ちに運んでもらうのも楽である。