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2-1 メイド長

 陽平とロッテはアメリアに誘われて魔王城に来ていた。他に行くあてもなかったし、フォルステール王家についても何か知っていそうな口ぶりだった。それに、かつて仲間だったカレンという人にも会ってみたいと思ったのだ。

「よく来たな勇者諸君。と言っても、肝心の勇者は囚われの身か」

 アメリアは豪華な玉座に座り、ふんぞり返っている。ここは跪いて会話しなきゃだめなのかなとか考える陽平。そこへ黒いロングのメイド服を着たお姉さんが入ってきた。長い黒髪で透き通るような肌をした薄幸そうな雰囲気の美人である。

「我が君、お友達を連れてきたらご自分だけ座ってちゃだめですよ」

 メイドさんは気怠そうにため息をついた。

「そういうものなのか? 友達なんて久しくいたことがないから気が付かなかったよ」

 いつの間にか陽平たちは、友達がいたことのない魔王の友達になっていたらしい。


 応接間に場所を替えてソファに腰掛ける。天井にはシャンデリア、壁には大きな風景画や肖像画が飾られたゴージャスな部屋だった。程なくして先ほどのメイドさんがお茶とケーキなど用意して入ってきた。

「ロッテ、お久しぶりね。朝方は我が君に殺されかかったみたいで、ごめんなさいね」

「陽平さんのおかげで無事だったので、気にしていません。それより、カレンさんこそご無事で何よりでした」

 アメリアは侵入者の素性をよく確かめもせずに排除してしまう癖があるらしい。排除してはいけない相手だった場合、アークプリーストでもあるカレンが蘇生してくれるそうだ。

 ロッテはジュリアン宛の請求書を取り出し、取引ウィンドウを出して精算した。

「はい、たしかにいただきました。それにしてもジュリアンとマデリン、捕まってしまったそうね。懐かしい顔を見たかったのに残念だわ」


 ところで、と、カレンは陽平のほうを見て少しためらいながら言った。

「陽平さんのフルネームをうかがっても?」

「え? あ、うん、ヨウヘイ・ミツハシだけど……」

 カレンは思わずといったように陽平の手を握った。

「やっぱり! あなた日本人ですね? 私もなんです!」

 カレンは自らステータスウィンドウを開いて陽平に見せた。


西野にしの 楓恋かれん♀ 25歳

レベル 895

種族  魔人

ジョブ アークプリースト

職業  魔王城メイド長

スキル 白魔法マスタリー・飛翔

特技  家事全般・珠算・簿記会計・ピアノ演奏


 この世界に自分以外の日本人がいると知って驚きつつも嬉しそうな二人だった。

「そのことについてなんだけどさ、陽平に会って確信したことがあるんだ」

 アメリアはそう切り出したかと思うと苦々しい顔で語りだした。

「実を言うと、あたしも元地球人なんだ。あんまり思い出したくもない、とある紛争地帯からきたんだけど……」


 裕福な家庭で生まれ育ったアメリアは家族旅行中に誘拐され、売り飛ばされた先で少女兵として過酷な人生を歩んだ。絶望の毎日の中で例のシステムボイスに導かれ、藁にもすがる思いでこちらにきたらしい。


 楓恋は、酒乱でギャンブル狂いの父と、男を作って逃げた母のおかげでメンタルを病み、リストカットや摂食障害など、こちらもまた壮絶な人生だったそうだ。


 陽平は二人に比べればずっと平坦な人生ではあったが、四十年もの間、取り柄のない、役に立たないごく潰しとして生きてきた。親以外の誰からも愛されることなく、歳をとってからは親からも疎まれて、ゲームと瞑想だけを友として悶々と過ごしてきたのである。


「つまり、不幸な地球人だった人がこちらに来ると、レベルが物凄く高くなるらしいんだ」

 アメリアの説を聞いて楓恋は「経験値か……」とつぶやいた。

 ロッテにはなんのことだか分からない。

「……つまり、お三方は異世界から来た異世界人なんですか?」

 説明されてもピンとこないようだったが、

「まあ、故郷がどこでも……私もホムンクルスですし」

 と、無理矢理納得したようだった。


「さて、それで王子と姫をどうするつもり? 楓恋の友達ならあたしの友達でもあるってことだからな。魔王自ら手を貸してやろうじゃないか」

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