1-12 魔王城へ
「死にに行くのは私一人で十分です。今までありがとう、姉上とロッテを頼みます」
陽平の部屋のテーブルに書置きが残されていた。酔いつぶれたジュリアンを陽平のベッドで寝かせ、陽平はソファで寝ていたのだ。
「……馬鹿野郎、おまえが行っても無駄死にだから連れて行きたくなかったんだっての!」
陽平は宿を飛び出してレンタルのユニコーンを借りた。
乗馬などしたことがないからユニコーンは暴れ、何度も振り落とされる。
そのたびにケガをヒールし、ユニコーンを魔法で足止めしながら何度も挑戦する。
「あんまり言うこと聞かないと買い取って馬刺しにするぞこら!」
陽平が言った途端、ユニコーンがおとなしくなった。
「そうか、俺の言葉は自動翻訳されてるからユニコーンにも伝わる……なんてことあるのか?」
とにかく、魔王城に向けて全力疾走させる。ユニコーンがへばってきてもヒールをかけて走らせ続ける。
こんなことなら自分のレベルを見せておけばよかった。自慢っぽくなってヘソを曲げたら嫌だなと遠慮して見せなかったのだ。圧倒的なレベル差を見せて諦めさせればよかった。
魔王城が近くなると赤紫色の霧がかかっていて息苦しくなってきた。少しずつ体力を奪われているのが分かる。
「おまえはここまでだな」
ユニコーンは自分で戻るから乗り捨てていいと言われていた。降りて尻を叩くとユニコーンは帰っていった。
毒耐性を上げる魔法で身を守りながら魔王城の正面まで行くと、ジュリアンが体育座りのように座って、膝に顔をうずめていた。
「おい、生きてるか?」
顔を上げたジュリアンはホッとしたような表情を浮かべた。
「かっこつけて出てきましたが、猛毒の堀を越える手段を考えてませんでした」
ジュリアンを解毒、ヒールして毒耐性を付与する。
「水くさいことをするなっての」
ジュリアンにデコピンしていると、
「本当に。男の子ってどうしてこうなのかしら」
マデリンとロッテが転移してきた。
「二人とも、どうして……」
「陽平さんがユニコーンと騒いでいたので、何をしているのか見当はつきました」
マデリンはジュリアンを背中から抱きしめる。
「女の子は仕度に時間がかかるんだから、出るなら出るって前もって言ってもらわないと困るじゃないの、おバカさん」
ロッテはストレージから豪華なテーブルセットを出して紅茶とスコーンの朝食を用意した。
「生ものは無いので簡素ですが」
それでもやたらと美味しいジャムと紅茶のおかげで、すっかりお腹が満たされた。
毒耐性とバリアフィールドがあるとはいえ、こんな場所でさえ優雅に過ごす王族たちがおかしかった。
「さて、この毒沼をどうやって越えるかな。橋の一本も見当たらないぞ」
「前にきたときはカレンがいましたからね……」
ジュリアンがしみったれた声を出した。
カレンは飛翔のユニークスキル持ちだったから毒沼など問題ではなかったそうだ。
「私に考えがあるわ。毒が噴き出すかもしれないからバリアを厚めに保ってちょうだい」
マデリンは魔力を高めて杖の先の紅玉に集める。マントがバサバサとなびいてビキニのようなエロい格好がちらちら見えた。
「来たれ、手ごろな大きさの隕石!」
簡略化された少々間抜けな詠唱をすると、空のかなたから白く輝く火球が落ちてきた。衝撃波で周囲の樹々はなぎ倒され、魔王城のほうで盛大にガラスが割れる音がする。
隕石はマデリンが杖で指し示す毒の堀にダイブして、盛大に毒しぶきを上げた。焼けた毒水のせいで毒霧は濃霧になる。
「駆け抜ける暴風!」
陽平が風の魔法で毒霧を吹き飛ばすと、堀にちょうどいい大きさの隕石がはまっているのが見えた。
「凍てつきなさい!」
熱冷めやらぬ真っ赤な隕石をマデリンが冷やした。
「少々お待ちください」
ロッテは巨大なハンマーやつるはしを取り出して、器用に隕石を平らにした。息の合った連携であっという間に即席の橋ができてしまった。