1-11 新たな事実
またも大人になりそこなって、遅くまでやっている店で飲みなおす陽平。
魔法をいくつか組み合わせて、ステータス透視を画面に出さずに脳裏で見る方法を編み出した。言わばステータス盗視である。
レベルが99以下なのは身なりのいい王国民ことフォルステール人が多い。レサジア人や酒場の隅でおこぼれにあずかっているモンスター達を見ると、100レベルを超えている者がいくらでもいた。土木系の屈強なモンスターたちを使役する監督に至っては200を超える者までいたのだった。
「やってましたね、おっさん」
ジュリアンがテーブルの向かいについてウィスキーを注文した。
「眠れないのか?」
「どうせ私は臆病です。ほっといてください」
しばらく無言のサシ飲みが続いたが、陽平が沈黙を破る。
デルフィとのことを自虐ネタ気味に話すと、ジュリアンは大いに面白がった。
お返しとばかりに姉上とのエロ話を聞かされたが、それはただ羨ましいばかりだった
話しが途切れたところで陽平は真顔になる。
「あのさジュリアン、やっぱり魔王討伐やめないか?」
ジュリアンは飲みかけていたウィスキーを喉に引っ掛けてむせた。
「あなたでも怖じ気付くんですね。意外でした」
「まあ、怖くないと言えば嘘になるけど、実はさ……」
99のレベルキャップについて発見したことを説明すると、ジュリアンは信じられないようだった。
陽平はこっそりと周りの人のステータスを透視し、ジュリアンに見せる。
「姉上に見せてもらった限りではレベルが三桁の人やモンスターなんていなかったはずです。これはいったいどういうことでしょう……」
「レサジアには三桁がいるなんてものじゃなくて、これは王国民だけにレベルキャップがかかってると言ったほうが正しいんだと思う。それはなぜなのか、超える方法はあるのか、その辺を調べてからじゃないとただの犬死にになりかねないと思うんだ」
うーむと唸って考え込むジュリアン。
グラスの氷が解けてカランといい音が鳴る。
「じつは、今回魔王討伐を成功させるか、それなりの成果を出さないと国には帰れないんです。カレンのことで荒れていたとはいえ、ちょっと狼藉が過ぎました。自業自得ですね」
ギルドマスターが言っていたラストチャンスという言葉を思い出す。
「査問とか監獄とかそういうやつか? 王族でもその辺は厳しいのか?」
「はい、既に召喚状がきています。だから挽回できるぐらいの手柄を立てないと、厳しい仕置きを受けることになるでしょう」
陽平はモヤモヤ気になっていたことを訊いてみることにした。
「あんたについていった娘が数人帰ってこなかったという噂を聞いたんだが……」
ジュリアンはドンとテーブルを叩き、まくしたてるように言う。
「断じて言いますが、私は仲間を殺したり売り飛ばしたりはしていません。遊びで終わった子やその他の人から恨まれたり、嫉妬されたりで噂に尾ひれがついているんでしょう」
「そうか、失礼なことを言って悪かった」
「いえ、いいんです……もはや私は王家の恥。姉上とロッテしか味方なんていません」
二人ともグラスが空いていることに気づき、陽平はおかわりを頼んだ。
「味方なら俺だっているさ。初めはとんでもないクソガキだと思ったけど、悪いやつじゃないと分かった。まあ、おっさんの味方なんかいらないかもしれないけどな」
ジュリアンはテーブルに突っ伏して眠りかけていた。それでも右手の親指を上げる。
「もう限界です……転移と支払いをたのみます……」
そう言い残して寝息を立て始めた。わがままなやつだが、それだけ気を許しているのかと苦笑する陽平だった。