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五月の綿裏包針  作者: 五月の綿裏包針
ヒントが隠れる四月七日と四月二十五日
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調律者と呼ぶべき裏BIG3とオマケ1。

【四月七日】



 新学期が始まった四月七日。


 SNW、正式名称SOCIAL NETWORK WORLD……それは人類の二大発明の一つと言われる、意識のみが存在する電脳世界である。

 SNWの中で人々は好きなアバターとなり、仕事から遊びまで現実世界と全く同じことができる。実際に出来ないのは栄養補給と排泄、そして子作りだけと言われていた。 (しかし、疑似の食事で味を知ることも出来るし、疑似の性行為で同じ快感を得ることは可能である)

 SNWの特徴の一つに挙げられるのが、人々は好きなアバターとハンドルネームで過ごし、現実世界の自分の情報を開示できないことにある。

遠い昔、匿名で特定人物への誹謗中傷を行った人間が正体を晒され、自殺した事件があったことを発端となっているらしい。

なので、互いの正体を知るには現実世界で情報交換するしかない。


 SNWでは多くのウェブスペース(インターネットでいうウェブサイト)が存在し、その中ではスポーツやゲームだけでなく、多くの企業が重要なビジネスの場として利用ていた。世界中のものがすぐに買え、地球の裏側にいる人物ともすぐに会うことが出来る。そんなこともあって、SNWは第二の現実世界とも言われていたのだ。その証拠に現実世界の身体を捨てて脳を管理センターに預け、SNWでのみ生きる人間が世界中に多く存在する程である。


 ウェブスペースにはアダルトなど年齢制限で立ち入ることが出来ない場所も多く存在する。しかし意図的に一部の人間しか入れない限定スペースも無数に存在していた。その世界中に数多くある限定スペースの一つが、美嶋校生専用SNW:IDOBAである。


 IDOBAの中では生徒たちが使用するカフェや、過去の授業風景を見ることができる自習スペース、県外在住や諸事情により自宅学習を望む通信課程の生徒用の学習スペースが存在している。


アバター姿の生徒達が闊歩する大通りのスクリーンには、校内イベントのスケジュールや演劇部の次回公演の告知が表記され、時には映画研究部の映画が映ることもあった。様々なスペースのBGMには軽音部の作曲した音楽が流れ、娯楽スペースではゲーム制作愛好会の自主製作ゲームに興じたり、料理部の新作ケーキを食べたりできる。

その世界は年中文化祭という雰囲気を醸し出していた。


 そんなIDOBAの中に一般生徒には発見できないであろう特別なチャットルームがあった。

治外法権によって作られたその部屋では、ボウカンジャーを名乗る髭もじゃの海賊が縁側に腰を下ろし、湯呑を啜っていた。


「そういえばさぁ。遠い昔はチャットルームに文字しか無かったらしいねぇ? むぅ! このお茶、砂糖と蜂蜜が足りないよぉ!」


ボウカンジャーの急な話題に対して、隣で日向ぼっこ(仮想ではあるが、脳機関には温かいと感じる)をしていたパジャマ姿のトラ猫の獣人、枕草子は補正を加えた。


「まぁメールと一緒だよねー」


「にゅふ! 意思疎通に文字だけって大変だねぇ~」


「そうは言ってもー未だにその手法を使ってる人もいるからねー。そうでしょー高楊枝君ー?」


彼女はそう言って話を振ると、宙に浮かぶ二次元のディスプレイに文字が浮かび上がった。


《違いねぇ。未だに使われてるモンを卑下すんのは文明に驕って溺れてる証拠ってもんだ》


浮かび上がる文字を読んだボウカンジャーは「にゅふ!」と笑顔を作って答える。


「かといって頑なに文明の利器を使わないのも愚者のやることじゃないかぁい?」


《それも間違いじゃねぇな。ただ別に俺は好きで使わねぇわけじゃねぇよ》


「そりゃあ確かにだねぇ。高楊枝っちのお家事情は理解してるよぉ」


《俺からすると中に入った瞬間オメェらみてぇな呼び名になっちまう方が笑えるぜ?》


「仕方ないでしょー? アバター使用者は完全匿名が常識なんだからー。脳内のシナプス処理でハンドルネームと現実世界の本名がリンクしていたらー自分では本名で呼んでるつもりでもー音声はハンドルネームに変換されてるんだよー。高楊枝君もー私のこと本名で呼んでるんだろうけどーこっちじゃ表示されないからねー」


《え? 枕草子って普通に呼んでんだけど?》


「ここじゃ文字変換されてるからねぇ。今高楊枝っちが枕草子っちって呼んでるつもりでも、こっちの文字じゃ枕草子っちって出て来てるってことさぁ。まぁ仮に高楊枝っちが枕草子っちの正体を知らなかったら本名で表示されるんだけどねぇ……ってこれ何度も説明したよぉ?」


《もう何言ってんのか分かんねぇよ。あ、そういや俺アイツのハンドルネーム聞いてねぇな》


高楊枝の文面に枕草子は思い出したように「あーそういえばアタシもー」と告げると、ボウカンジャーはまたしても「にゅふ」と奇妙な笑みを浮かべてから答えた。


「ここに来る三分前に聞いたよぉ。あとで二人にも教えるからねぇ。……それより二人とも見たかぁい? 彼のあのアバター」


ボウカンジャーはそう言ってゲラゲラ笑うと枕草子も思わず笑顔を作った。


「見た見たー何か先にアバターを作ったんでしょー? あの子ホントにセンスないよねー」


《俺はあんなの御免だな。そういえばあの野郎……新入生名簿一覧大変だったぜ》


高楊枝の愚痴を聞き枕草子とボウカンジャーの二人も思い出したかのように口を開く。


「あー私もー! 手続き業者になかった不備を作ってーもう一回発注し直したんだよねー」


「ボクなんか直に改ざんだよぉ? これ私文書偽造とかになったら捕まっちゃうよねぇ」


三人は憤慨しながらそう告げると、それぞれの目の前に小さなウィンドウが広がる。それは三人のチャットルーム内に入室希望を出したアバターの存在を知らせるアラームのようなものだった。


「んー? こんなハンドルネーム知らないけどー」


「あーこれが彼だよぉ。にゅふ! 自力でこのチャットルーム見つけるなんて中々やるねぇ?」


《入れてやれよ。三人で説教してやるしかねぇだろ》


高楊枝の承認と同時に二人も承認サインを出す。すると部屋の一角が歪んで小さな扉が現れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 小説読ませていただきました! 世界観がSFというなろうでは難しいジャンルを書ききるのは尊敬します。小説活動頑張って下さい。 [気になる点] 最初の弟と姉のやり取りに既視感を感じます。好み…
[一言] こういう世界観好きです! 電脳世界!! これからも小説活動頑張ってください! 応援してます!
[良い点] 仮想空間の中にもグループ化して仮想空間を作ることができる。チャットルームを具現化したみたいで非常に最先端だなぁと思いました。
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