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終世界巡り:石集め

12



 今夜の飲み会はケイによって祝勝会と名付けられた。

 ケイは世界を操作して、古戦場の舞台を作り替えていく。

 月夜の下、無垢の布地が遥か彼方の長方形の山からスゥーと逆方向の果てまで伸びていき、その両脇のラインを赤く細い布地が挟んだ。さらにテラテラと月に反射する黒い川の流れが囲む。中には色とりどりの鯉が泳いでいる。

 シルエットになっている森から生物たちの鳴き声が聞こえ、川からあがる冷たい空気が身を撫でていく。すこしだけバグ爺のところに似ているなぁとキゴウは思った。

 3人は布地に置かれた座布団に腰かけ、大量に詰まれた料理と酒を囲んだ。

「また変なところ作ったね」と柳は言う。

「センスいいでしょ?」

 赤いお盆に注がれた酒を「では、乾杯」とケイが掲げて、グビグビと飲み干した。途端にケイはパっと明るい笑みを浮かべて「うめえぇー」と万歳した。

 ケイがそのまま上空を見つめると、夜空の頂点にあった十字星がだんだんと大きくなっている。と、いうより、どうやらそれは落ちてきているようだ。

 ケイは慌てだした。

「あなたの演出じゃないの?」と柳。

「違う。知らない知らない」とケイは手を振って目を見開く。

 ふーんと柳も興味深そうに空を見上げた。

 地鳴りのような音が鳴り始め、十字が大気圏に入ったのか火を宿す。白い発光がどんどん強くなり、キゴウ達の真上を十字が埋めた。ケイが「わぁぁぁー」と悲鳴を上げてかがみこんだ時には十字の仕切りは水のように透明になって地面に埋まっていた。

4分の1に分かれた一部は樹木の色が黄色や赤に彩りついた。その隣のエリアでは、シンシンと雪が降りだしてウサギが顔をだす。そして、その隣では桃色の桜が舞う。最後の一部では、強い日差しの中で発色の良い緑が萌える。

「四季だね」とキゴウが呟くと、ケイは顔を上げて不思議そうに辺りを見渡した。

 そこで「いざ舞わん、いざ舞わん」と声が響き、「なんだ?」とケイがまた見上げると、上空に蛇のように泳ぐものがあった。それはぐにゃぐにゃとすごい勢いで地面に急降下し突き刺さる。気が付くとそこには白装束の子供が立っていた。

 ボォーン、ボォーン、と荘厳な鐘の響きがあたりに響いた。

 尻尾のついた子供が鐘の音に合わせて体を変化させていく。やわらかく静かな動きで音の中を泳ぐ。

キゴウは頭のどこかでバグ爺を思い出しながら、お酒を飲んで眺めた。

四方から澄んだ音色が聞こえる。雪と桜と紅葉した葉と、そして夏の青々とした木々が円を描き交わりだして、全ての季節が複雑に重なっていく。

季節の風が楽器となって音色を奏でた。

 ケイが目を見開いて、口を開けて、驚いたように瞳を潤ませている。

美しい時間の中で半竜は体を浮かせて、優雅に流れた。

やがて、音楽が終わるころキゴウ達のまえに静かに降り立ち、お盆に酒をなみなみと注いだ後、礼をした。

「ご親たち」先ほどの野太い声とは打って変わって清浄な響きでソレは顔を上げた。

「はやお?」とケイが聞くと「そうでございます」と龍は答えた。

ケイは「おわー」と言ってハヤオに抱き着いた。ハヤオは嬉しそうに抱きしめられる。

「どういうことだろ?」と喜びながらも不思議な顔をするケイ。

「ケイにアニメイトされた生物が進化してきたんだろうね」とキゴウが答えた。

 竜はキゴウの方を向き、「実はケイさんだけではございません。キゴウさんと柳さんのアニメイトも私に含まれております。お二人も私を作ったのです」

「へぇ取り込んだんだ」と柳が言う。

「というより、ひとつになりました」

「あんな蜘蛛みたいだったキゴウの竜もお前なんか」とケイが聞くと、竜は楽しそうに「ええ」とほほ笑んだ。

「じゃあ、ハヤオって名前もあれだな。素直に“リュウ”と呼ぼう」とケイは即座に名付けてしまった。

 リュウに給仕されつつ、3人は酒を飲んだ。ケイはリュウに矢継ぎ早に質問を浴びせた。リュウは喜んで全てに応えた。二人はとても相性が良いようだった。

 やがて、ケイがしたたかに酔った頃、リュウはまた三つ指を組んで頭を下げた。

「実はご親たちにお願いがあります。私は旅がしたいのです。巣造像の舞台になった世界が幾つも残っております。もう役割をなくして消えていくだけの世界です。私は世界の終わりがみたいのです。そこでは、もしかしたらバグの夢も見られるかもしれない」

 バグの夢という言葉にケイが反応した。

「あれはゴーストが生み出したものじゃないの?」

「えぇ。ただそういう話を聞いたのです」

「お前はバースの情報も拾えるんだね」

「この世界のNPCに禁止されていない事は出来ます。でも、他の世界に渡る術はしらないです。上の階層にいるご親に引き上げてもらうしかないのです」

「大丈夫なのかな?」とケイはキゴウ達に聞いてきた。

「別に問題ないよ」

「ターミネーターみたいなことにならないか?」

 キゴウは即座に頭の中で検索をかけ、ターミネーターの物語を把握した。

「ならないよ。結局システムの制御下から出られない。まぁなったらなったでもいいんじゃない?」

「それもそうか」

 ケイは目を輝かせる。

「じゃあ、我が世界に案内しよう」


 どうやらこの竜は、ケイが生み出した時の感情や知識を引き継いでいるようだ。目的は分からないが、少し歪な欲望を持っている。

 キゴウは竜のデータを上の階層に移してやり、巣造像をプレイしている側にした。

 自分たちは上の回想にいくために、優勝という砂漠で水一滴を掴むような挑戦をしているが、このリュウはいとも簡単に上の階層に上がったわけだ。上層との接点があれば、それは難しいことじゃないのだろう。


 3人プラス一匹は昔バトルステージになった最初の世界へと移動した。あの闇からビルが生い茂っていたステージだ。

 降りるとそこは変容していて、辺りは黒い海一面に浸されていた。皆はキゴウがイメージした小さい船の上に立って辺りを眺めた。

 静かな涼しい海にかすかに霧が立ち込める。遠くに暗いビル群があるが、ほとんど錆びて崩れかけている。


「この世界にもNPC達はいたろうに、急にここまで退廃するもんかね」とケイが言う。

「NPC達がもう世界の存在を信じられなくなったんでしょうね」とリュウ。

「抽象度も高いね」柳が掌の中で、いろいろイメージを具現化しながら言う。

「システムの補完は切っていますので、自己認識が揺らぐとログアウトしてしまいます。一応、お気をつけください」

「え?」

「その情報はケイには伝えない方がいいよ」と柳がリュウに言った。

「何が?」とケイ。

「あっちのビルのほうに行ってみましょう」とリュウは誤魔化した。

 スゥと光が落ちて行って、辺りは暗い海になった。

 柳が大きく白いため息を吐くと、息は浮かんで、辺りを照らす小さな雲となった。

 その光の下を、船は進んでいく。


 暗いビルの根元に入っていき、四方を影に囲まれる。海から上がってきていた霧がいつの間にか人のような姿を取り始めた。

 ゆらゆらと風に揺らぎ、列を作るように並んでいる。

 ケイが「なんだこれ」といつものように疑問の口火をきると「イメージの残留思念かな」と柳が推測した。「消える前にアニメイトしたイメージ?」

「幽霊みたいなもんか」

「霊的な概念がある世界だったら、そういう思念がしばらく残ってもおかしくないですね」とリュウ。

「なるほど。それでゴーストね」と繋がったかのようにケイは言った。

幽霊たちは船には寄り付かず道を開けた。

「不気味だな」とケイが警戒する中、船はまっすぐ進んでいく。

 柳は水に手をつけて、冷たい目で行く先を眺めていた。



 白い幽霊たちから、淡い青や紫の煙が時折流れ空気中に消えていく。

遠く水平線には月が上がり、海の輪郭を露わにした。

 無限に続く幽霊たちが、遥か彼方までゆらゆらと揺れている。

「これがこの世界の終末ですね」とリュウが感慨深げにいった。

 船は一つのビルに乗り上げた。

 4人が地に降りて中に入ると、真ん中に淡く虹色に光る大きな卵のようなものが置いてある。そこへ四方から霊たちが少しずつ侵入して来て、卵のなかにすぅと吸い込まれていった。 

 しばらく卵は強く光ったかと思うと、中に宇宙のような銀河を宿す暗い塊になった。入れなかった霊たちは、そのまま潮風に流されて空気に溶けてしまった。

「この世界のマイルストーンです」とリュウは卵に近付いて言った。「これを持って帰りましょう」

 4人が卵を囲んで立つと、リュウは「皆さん一緒に触れてください」と促した。

 手に触れると、それは冷たく暖かく、柔らかく、硬かった。リュウとケイは目をつむり何かを祈るようにした。

 世界が崩れていきますよ――とリュウの声が遠くで聞こえた。

辺りは少しずつ闇になって、やがて眠りに落ちるように真っ黒になった。

世界の終わりは眠るように、夢を見るように、そんなものなのかと思った。

――完全に無になるまえに、戻りましょう。危険かもしれません

 リュウの言うことに何も根拠は感じなかった。ただ、キゴウは言われた通りにした。

役割を無くし、フェードアウトした世界から4人は戻ってきた。

ケイは小さな杯を掲げて「乾杯」と言って飲んだ。リュウも併せて酒をかざした。

4人の真ん中には、先ほどの世界のマイルストーンが残されていた。

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