紫の鳥居
ふりーだむのべるずの企画テーマ『都市伝説』で投稿した作品です。
プロットのみとなります。
H県M市の神宮町は神社仏閣が乱立する都市として有名だ。
その神宮町には古くから言い伝えられた都市伝説がある。
『紫の鳥居をくぐれば死の居に憑られる。決してくぐってはならぬ』。
死の居とは冥府のことだ。つまり紫の鳥居をくぐった人間は死ぬということである。
神社仏閣が居並ぶ神宮町なれど、紫の鳥居など一つとしてなく、実しやかに語られる都市伝説のひとつであった。
霊感の強い少女、古田・霧乃は、学校の課外授業で仲良しのメンバーと共に神社参りをしていた。
縁結びの神社として知られる縁神社。
その境内に通じる入り口を通ろうとした時に、紫の鳥居を一瞬幻視する。
幻と思いつつも、怖くなって親友の結城・鈴佳と共に鳥居のあった場所を迂回して通る。
他の班員にも別の場所を通るよう誘導しようとするも、霊感が強いことが知られると怖がられると思った霧乃の要領の得ない説明ではうまく説得できず、何人かは鳥居の中を通ってしまう。
そしてその帰り道に、初めの犠牲者が出る。
また何人かは、紫の鳥居に吸い寄せられる夢を見たと証言する。
紫の鳥居をくぐったせいだと直感した霧乃は、紫の鳥居があった縁神社の住職をたずねる。
縁神社の住職は縁・忍と言った。
彼は自分の神社こそが、『紫の鳥居』伝説の起源だと認める。縁とは紫が訛ったものだと。
また本来は縁結びの神社ではなく、かつては紫の鳥居と紫の宮と呼ばれる建物があり、そこは人柱となる者たちが最後の夜を過ごす場所だった。
やがて鳥居と紫の宮は取り壊され、荒ぶる御霊を鎮めるためにできたのが縁神社の起源だった。
そして神社を訪れる者の中に紫の鳥居を見たという者、その後急死する者が時折現れ、『紫の鳥居』伝説は神宮町に広まったのだ。
どうすれば友達たちを救えますかという霧乃の問いに、忍は「わからない」と答える。
だが過去に紫の鳥居を鎮めるために立ち向かった住職がいたらしく、その人物の記録によると、紫の鳥居を守る付喪神のような守り人の女がいたという。
霧乃と忍は過去の記録を頼りに儀式を再現する。
紫の鳥居と、その柱にもたれかかる着物姿の女が出迎えた。
「私たちの友達を返してください。どうすればあなたたちの怨みを晴らせますか」
霧乃の問いに女は笑う。
「怨みなどない。彼らは寂しいのじゃ。故に晴らすことなどできぬ。例え腹を満たしても、幾年か後、また寂しさを覚えて人を呼び込むであろう」
「どうすれば寂しさを埋めることができますか。こんなことが二度とないように防げますか」
「それはお主たちが考えることであろう。他人に贄を押し付け、その魂が何を求め何をすれば癒されるか、考えるのは浮世の者の役目だ」
女は霧乃を突き放し、別れを告げられた。
霧乃は忍と相談する。
忍は言った。
「彼らが寂しさ故に人を呼び込むのなら、代わりとなる形代を送りましょう。もしかしたらそれで、彼らの寂しさを癒せるかも……」
霧乃は忍の言葉に従い、クラスメイトに呼びかけ、紫の鳥居の夢を見る人間の毛髪、そして変り身となる大事な品を預かる。
そして鈴佳が裁縫で人形を作り、忍に預け神社に奉納してもらった。
その夜、霧乃の夢に、紫の鳥居とそのそばに佇む守り人の女が出てきた。
「しかと受け取った。これで彼らの寂しさは紛れるであろう」
女は笑って言った。
守り人の女の言葉に安堵する霧乃。
しかし思惑に反し、相田・茂が新たな犠牲者として出る。
さらにまだ生き残っている者たちも、より強烈に紫の鳥居に引き寄せられる夢を見るようになったと口々に言う。
女は確かに寂しさが紛れると言ったのに。
困惑した霧乃だったが、クラスメイト達は突然毛髪を集めだした霧乃が呪いをかけた張本人ではないかと食って掛かる。
何が何だかわからないまま、霧乃は忍に相談する。
奉納した人形を改める忍。
人形には、縁神社の縁結びのおまじないが施してあった。
形代の人形を裁縫した鈴佳が人形に細工し、形代と本人をより強く結びつけていたのだ。
鈴佳を問い詰める霧乃。
鈴佳は最後の犠牲者、相田茂のことを好きだったが、茂は霧乃のことが好きでフラれたこと、それを妬み、この機会に呪い殺すことを計画したと語る。
他のクラスメイト達は、相田だけを狙ったことをカモフラージュするためにすぎないという。
霧乃は忍と人形を作り直し、奉納の儀式を再度行った。
それにより、今代の『紫の鳥居』を夢に見る者はいなくなった。
今回の事で、忍は死者たちが抱いているのは怨みではなく、寂しさであることを知った。
なので彼らの寂しさを紛らわせるような祭事を今後作ろうと霧乃に話す。
一方、鈴佳は紫の鳥居に引きずりこまれる夢を見ていた。
なぜ。私は紫の鳥居をくぐっていないのに。
鈴佳を呼び寄せるのは、彼女の想い人だった茂だった。
鳥居を守る付喪神の女が笑う。
「人を呪わば穴二つ。その報いに我が腹で想い人と歓迎してやろう」
呪い返しにより、鈴佳は死の胃へと引きずり込まれるのだった。