07 恋人たちの時間は意外と悪くないもので
長府さんを、勇太が待っている夏希さんのアパートに送った後、俺と長門先輩は昨日と同じ茂みの中に隠れた。
「いいんですか、こんなことして」
「まあ『恋愛相談部』として、最後まで見届けてもいいんじゃない?」
先輩は不敵な笑みを浮かべた。
「お、徳山君が出てきたよ」
視線をアパートの方に戻すと、勇太が部屋の中から出てきた。タオルで覆われた何かを大事そうに抱えている。
「あ、あのさ、友奈」
勇太はゆっくりとタオルを取った。中から現れたのは、
「ハ、ハムスター⁉」
ゲージの中に入っていたのは、ジャンガリアンハムスターだった。
「お誕生日おめでとう」
勇太はにっこり笑ってそう言った。
「心配させてごめんな。夏希姉さんのところで、ハムスターの赤ちゃんが生まれたって聞いたから、いろいろと相談させてもらっていたんだ。ほら、前からハムスター飼いたいっていっていたし」
「そうだったんだね、ありがとう」
えへへ、と笑う二人の間には穏やかな空気が流れていた。長府さんの目には、光るものも見えた。
それを遠くから見ている俺まで恥ずかしくなってくる。
「二人とも仲直りできて、よかったですね」
「そうね、本当によかった」
長門先輩は微笑んでいた。
「さて、いいものも見せてもらったし、そろそろ私たちは戻りましょうか」
「そうしましょう」
俺たちは学校へ向かって歩き始めた。
「今回はありがとう」
しばらく歩いたところで、先輩はそう言った。
「え?」
「あの日、君が『もう一度調べてみましょう』なんて言わなければ、こうはならなかった」
「まあ、たしかに、そうです、ね」
「何その歯切れの悪さ」
先輩は失笑した。
恋愛相談部を最初に訪れたきっかけは自分の勘違いで、ちょうどそのときに長府さんが訪れたのはただの偶然だった。さらに偶然、俺と勇太が幼馴染だったことで、俺が勇太の浮気を疑った。そんな奇跡が積み重なった場面だったとしても、あの日の俺の一言で勇太と長府さんの仲を取り戻すことができたのは事実だ。
失恋の傷は痛むけれども、俺は誇らしさをとてつもなく大きく感じている。それは間違いなく、この『恋愛相談部』だからこそ得られたものだ。
ここにいたら、新しい景色が見えてくるかもしれない。そう考えていると、
「これからどうする?まだ部活動に入っていないって言ってなかったっけ?」
先輩が見透かしたような表情をして聞いてきた。
「そうですね……」
俺は空を見上げて考える素振りを見せてから続けて言った。
「この部活に入ってもいいですか?」
先輩はくすりと笑った。
「ようこそ、『恋愛相談部』へ。」