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彼女と不仲になったなら  作者: 吉木那央
第一章 長府友奈の場合
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01 始まりは暖かなある日のこと

「いってきます」


 いつも通りの時間に俺は家を出た。少し日差しがあり、わりと暖かい。

 春はいい季節だ。風は気持ちいいし、気温だって暑すぎることも、寒すぎることもない。もし魔法のランプなんかがあって、三つ望みを叶えてくれるのなら、迷わず一つは『ずっと春にしてくれ』と願う。

 

 しかしそんな温かい季節とは裏腹に、俺の心は冬である。高校に入学してから一カ月弱、いまだ俺には彼女がいない。

 たしかに、一カ月やそこらで彼女ができるなんて無理だと分かっていた。義務教育を終え、入学試験という立ちはだかる壁をのりこえて、ようやくつかみ取った高校生活。うちの高校は、市内だけでなく、市外からの学校の生徒も来るので、同じ学年の九割は初対面である。だからこそありがちな、『一目ぼれしました』的な展開を待ち望んでいたが、まあそんなことはなかった。

 部活にでも入れば、またそこで出会いとかがあったんだろうけど、なんだかどの部活にも興味が引かれなくて、まだ入っていない。

 

 だけど一人、クラスの中で気になっている子はいる。

 それは同じクラスで学級委員の、長府友奈(ちょうふゆうな)である。

 中学は別の学校で、同じクラスになってからは、まだそんなに話したことはない。背はそんなに大きくなく、むしろ小さいぐらいで、守ってあげたくなる外見をしているが、学級委員として様々な仕事をそつなくこなしていく意外性を持ち合わせている。

 

 こんなことをぼんやり考えながら歩いていると、教室に到着した。教室内では、今日の日直が黒板をきれいにしていたり、後ろの方で女子がしゃべっていたりした。

 そんな中で一人、俺の目に留まる。もうご存知、長府さんである。彼女の席が教室のちょうど真ん中あたりだから、目に入っただけだ。うん、それだけ。長府さんは熱心にノートに何かを書いていた。予習をしているのだろうか。

 俺はそんな長府さんを横目で見ながら、窓際の自分の席に向かった。


「おはよう真弘」

 そう声をかけてきたのは、徳山勇太(とくやまゆうた)。家が近所かつ、幼稚園から一緒という、まさに幼馴染の中の幼馴染で、今は俺の後ろの席だ。

「おはよう、勇太」

「どうした真弘、なんかしょんぼりしてない?」

「いや、しょんぼりなんかはしてないけど、ちょっとな」

勇太は「つまりどういうこと?」と言いながら、首を傾けた。

「俺はこれからどうしたらいいんだろうな」

「なんだよ真弘、お得意の恋の悩みか?」

 腐っても幼馴染。そういった話をよくしているとはいえ、俺のことをよくわかっていらっしゃる。

「まあな」

「で、今度は誰なんだ?」

「いやまあ、さすがに言わないけど」

 クラスの学級委員、長府さんです、なんて言ったら、何を言われるかわからない。

 ふう、とため息をついて、俺は机に突っ伏した。

「ふーん、まあ俺にはどうでもいいんだけどな」

「おいおい、親友がこんなに悩んでいるのに、相談にも乗ってくれないのか」

「いや、お前が誰を好きなのか言わないから話が進まないんじゃないか」

 ごもっともすぎて、ぐうの音も出ない。まあ俺もこれ以上は、勇太に話す気はないし。 


「あ、そういえば恋の悩みといったら、こんな話知ってるか?」

 勇太のその言葉を聞いて、俺は起き上がって勇太の方を見る。

「何?いい話なら聞く」


「この学校には、『恋愛相談部』っていう部活があるらしいんだ」


「恋愛相談部?」

「俺もあまり詳しい話は知らないんだけどさ、今の真弘にぴったりじゃない?」

「うん、たしかに」

「だろ?」

「で、具体的にはどんなことをしてくれるの?」

 俺は身を乗り出して勇太に詰め寄る。

「だから俺もそんなに詳しい話は知らないんだって。先輩に聞いただけだし」

「先輩?」

 ああそうか、勇太は小学生のころからやっていたサッカー部に入ったんだったっけ。

「知っているのは『恋愛相談部』の活動場所ぐらい。図書準備室らしい」

「図書準備室といえば、あの端っこの教室か」

「そ。物は試しで行ってみろよ」

「お前は行かないのか?」

「俺は…、今はまあいいかな」

「おう…」

 

 今まで誰かに相談とかしたことなかったし、何かいいアドバイスともらえるかもしれない。勇太の微妙な反応に疑問を抱きつつも、そう思いながら、俺は謎の『恋愛相談部』に行くことを決意した。

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