05 彼氏の悩みはストーカー被害
「遅いですね……」
「そうね」
彩が教室を出て行ってから、五分以上が過ぎた。相変わらず先輩は、自分の書いたメモを見返していた。
はてさてどうするかと思い、本を取り出したときに、廊下の方から声が聞こえてきた。
「ほら、こっちだよ」
「いや、俺は別にいいんだけど……」
一人は間違いなく彩である。とすると、もう一人の声が例の小野田君だろうか。
「戻りました~」
「し、失礼します」
運動着を着た、背の高い男子生徒の腕を組むようにして彩が入ってきた。君たち距離が近すぎじゃないかね、と思ったのは内緒である。
「こちらが小野田光君。バスケ部所属で、体育館から引っ張ってきました」
「どうも……」
なるほど、バスケ部というのならその背の高さは納得である。
小野田君は彩に案内される形で、先程まで彩が座っていた椅子に座った。彩は、教室の後ろの方から椅子を持ってきて、なぜか俺の横につけて座った。
「私が恋愛相談部の部長の長門です。それで、彼女からストーカー被害にあっているということだけど」
長門先輩はさっそく、そう切り出した。
「えっと、ストーカー被害というか、買い物をしていたり、道を歩いていたりすると、彼女が遠くから見ていたり、すれ違ったりするんです」
たしかに、さっき彩から聞いた通りの内容だ。
「ところで彼女っていうのは誰なんですか」
あ、俺は一年の美祢です、と付け足して俺も聞いてみた。よくよく考えると同じ学年なのだから、敬語ではなくてもいいのか。
「それは、俺と同じ二組の、下松明です。茶髪で有名じゃないかな」
「あ、知ってる!たしか入学初日とかに呼び出された人だっけ?」
俺はあまりピンとこなかったが、彩はどうやら違うらしい。先輩も学年が違うので、当然わかっていないみたいだ。
「そうそう。ただあいつ地毛があの色みたいなんだ」
と言いながら、小野田君はスマホの写真を見せてくれた。そこには、小野田君と一緒に、明るい茶髪の女子生徒が写っていた。
「話を戻しましょう。彼女からの被害はいつから始まったの?」
「二週間前の日曜日からです。姉貴と買い物に行ったときに、帰り道ですれ違ったのが最初です」
先輩の『被害』という言葉に、少しムッとした表情を見せたが、小野田君はそう答えた。
今日が火曜日だから、ざっと十日近く続いているのか。
「じゃあさ、下松さんは何て言ってるの?」
部員ではない彩もなぜかこちらサイドで質問をしている。
「それが何回聞いても、『そんなの知らない』とか、『その時には友達と遊んでいたから、そこにはいなかった』って言っているんだ」
「まあわざわざストーカー被害を暴露するようなことは言わないでしょうね」
先輩に同感だ。隣で彩もうんうんと頷いている。
「それが……」
小野田君の表情が一気に暗くなった。
「たしかに明の友達に聞いてみたら、同じ時間に別の場所にいたみたいなんです」
少し外の雨脚が強くなっているような気がした。