04 そして依頼は始まる
部室の中ではいつも通り、部長である長門奏美先輩が、教室の中央にある長机に座って、読書をしていた。
「こんにちは先輩」
「こんにちは。後ろの人は依頼者?」
読んでいた本を閉じて、俺たちの方を見た先輩は、すぐに彩の存在に気付いた。
「こ、こんにちは……」
「ま、とりあえず座って」
緊張しているのか、とてもしおらしい様子の彩は、長門先輩が座っている方とは反対側の椅子に座った。
俺は一応部員なので、長門先輩の横に座った。
「廊下の方から、話し声が聞こえてきたけど、美祢君の友達?」
「あ、はいそうです。俺と同じクラスの、柳井彩です」
幼馴染ということは、とりあえず話さなくてもいいだろう。
「じゃあ時間ももったいないし、そろそろあなたの話を聞きましょうか」
「は、はいっ」
もじもじし続けていた彩は、背筋を正して俺たちの方と向き合った。
そういえばさっき、恋愛相談部のことについて何も知らなかった様子だけれど、結局何を話すんだろう。
「え、えっと……」
相変わらずもじもじし続けている。
仕方ない、助け舟を出してやるか。
「彩の相談内容は、恋人とのことか?」
「え、いや、それは違くて……」
「じゃあここに来た意味はないんじゃないか?」
「そ、それは……。そうっ、悩んでいる友達がいたので、その人の代わりに相談しに来たんです」
「なるほど……」
先輩は深く相槌を打って答えた。どうやら興味津々なご様子である。
「それで、その友人の悩みとは?」
「えっと、その人は一年二組の、小野田光君なんだけど、一週間ほど前から、彼女に追い掛け回されているみたいで」
「それはストーカー的な?」
「うーん、そこまで深刻なのかはわからないけれど、街中にいると遠くの方から、見られていたり、監視されていたりする感じらしいよ」
「そのあたりをちょっと詳しく知りたいな……」
先輩はメモを取りながら聞いていたが、状況を整理するためかペンを額に当てて黙りこくってしまった。
「それなら、本人を連れてくるよ!」
彩はそう言うと勢いよく立ち上がって、教室から飛び出していった。
なんだか今日は本当に慌ただしいな、と思いつつ、俺は彩の背中を見送った。