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第7話 壊れた思考

「.....ん?」


結斗が目を覚ました時耳に入ってきたのは、何かが転がる音と馬の蹄だと思われる音。

ぼやける目をこすろうとすると、手が動かない、よく見てみると手錠と鎖で手足を拘束されている。

目の前の縞模様は俺を外に出さないための鉄でできた牢屋のようだ。


「今度は...なんだよ?奴隷にでもしようってか?」


こんな糞みたいな世界だ、奴隷制度だってあるだろう。

まだ起きたばかりの頭を稼働させそんな想像と、これから俺がどうなるのかという想像をする。

本当になんでこんな世界に来てしまっただろう...頭が痛くなってくる、そして憎悪があふれ出す。


「違いますよ結斗...今あなたを連れて国に帰っているのです」


声が聞こえるのは牢屋の外、疲れ切った瞳で見上げるように外を見つめる。


「...殺人をした俺を処刑でもするのか?」


「そんなことしませんよ、悪いのはあの獣人ですししっかりと証拠は手に入れてあります」


ミラの手には、少し大きめの水晶があってそこには獣人の映像が浮かび上がる。

憎い、殺せ、と耳元で何かが再び囁いてくる。

もうなにも信用するな、というその声に俺は同意してミラを睨んだ。


「へー...あの場にいたのか?」


「ええ...まあ」


「そうか...俺らの姿は見てて面白ったか?」


それは凄い皮肉だった。


助けもせずただじっと見ているだけだったミラに、俺よりも強かったのになぜ何もしなかったのか?そんなの見てて面白かった以外、今の壊れてしまった俺には答えが浮かばない。


「ただ見てたわけではないのですよ結斗?私はあの孤児院がそのような行為を行っている証拠、そして獣人の証拠を得て正しくさばく仕事を国から任命され、孤児として潜入していたんです、確かに助けられなくて申し訳なかったと思いますが、もしあそこで助ければ証拠は得られず結斗と私が不当に命を奪ったとして悪だと断罪されていた可能性さえあったのです」


文句のつけようがない、しっかりとした返しだと思った、私があの時助けられなかったのはこういう理由があったと、これならしかたないと思ってもらえるだなんて淡い期待を持っていた。


「ふーんつまりお前、前から知ってたんだ?あの家が孤児院という名の人肉製造機だって...なあ教えてくれよ?」


次の言葉は完全に壊れた結斗にしか出せない質問だった。


「何人の子供をその大事な証拠の為に見殺しにしたんだ?」


そういいながら結斗から笑みが漏れる様子は狂気さえ感じられる。

そんな最低最悪な質問にミラは、本当だったらキレたっていいと思う。

だがそれも事実だから仕方がない、悪を裁くための犠牲だから...というのは簡単でその言葉は逃げでもあった。

だからかミラは何も言えなかった。


「.....」


「だんまりかよ...お前も信用はできないな」


前のような生易しい目つきではない、常に人を疑っているその鋭い目つきにミラはただ凄く胸が痛んだ。

こんな風に壊してしまったのは自分が証拠などを集めていたからじゃないのか、子供たちを助けられたのに見て見ぬふりをしたせいではないのかと、自分の正義が揺らぐ。


「ごめんなさい...だけど信用してもらわないと困るんです」


そう言って馬車の中に作られた牢屋を開け中に入る。

警戒する結斗に剣を向けて一閃、鎖を切り捨てる。


「暴走する危険性は無いでしょうし...それに信用してもらうのに拘束してたら信用もできませんでしょう?」


「じゃあ、そうだな、信用とかは置いておくとして...まずいろいろ説明しろ、お前は何者だ?この馬車?は何処に向かってる?...お前は何が目的だ?俺に何を求めてる」


「では..もう一度自己紹介を...私は国ホワイトネクトの騎士であり貴族シルバー家の次女ミラ=シルバー、今この馬車はホワイトネクトに向かっています」


「ホワイトネクト...その国はどういった在り方の国なんだ?」


「この世界の全ての国の頂点に君臨する君主国家で差別が唯一無い国です」


「差別....獣人と人間の共生をしてるってところか?」


「獣人だけではなくすべての亜人とです」


(本当かどうか...怪しいな)


獣人や亜人共からすれば人間なんて食料だ。

公では共生しているなどとのたまっているが隠れて喰われていてもおかしくはない。


「貴族共の中に獣人はいるか?」


「...多少はいますが、数は少ないです...何故そんなことを?」


「人間の行方不明事件とかそういったことは無いのか?」


「...最近は少ないですが前は結構ありましたね、それが何か?」


「...なんでもない...」


(これは...危険か?)


絶対行方不明になった人間は絶対に食われている。

そしてそんなことが出来るのは、事件をもみ消せてしまう位の高い獣人どもだろう。


(まあ...問題は無いか...最悪殺せばいい)


闇に染まった思考はすぐに殺す、という日本では絶対に本気で考えないことを真っ先に考えさせる。

それはこの世界に結斗が飲まれて行っている証拠だろう。


「お前の国はよくわかった次だ、お前は何を企んでる?」


「その前に次は私に質問をさせてください...あなたは何者ですか?」


ミラはずっと気になっていた、この少年はどうしてあんな化け物としか言いようがない力を手に入れられたのだろうか?そもそもこの少年は何処に住んでいた?ここまで育てられて今更捨てられた、というのは流石に違和感がある。


「貴方は何処で育てられたんですか?親はいますか?何処の村、国出身ですか?」


「...言うわけがないだろ...お前が信用出来たら教えてやる...」


立膝をついている少年のその目は淀んでいる、黒く黒く誰も信用しないと。

それは自分が何もしなかったのが原因であることも確かだから...何も言わなかった。


「...わかりました、いつか教えてくれること願っています」


「で?お前の目的は?」


「自分の事は言わないのに私の事だけ聞く気ですか?」


「お前も言いたくなければ何も俺に言わなければいい、ただそんなことで信用を得られると思っているのならな」


とても巧みな言葉にミラは若干冷や汗が垂れる。

既に結斗は私が結斗の信用を得らなくては絶対にいけない理由がある事を会話だけで理解して、更には言葉巧みに更なる情報を得ようとする、というより脅しに近い。

言わなければ信用など何もないのだと。


「...言葉がうまいですね...分かりました、私は貴方の事を何も知らないけど図々しくもお願いしようと思います」


「.....」


「これから私のパートナーになってください」


立ち上がり自分に手を伸ばす、ミラの髪が逆光のせいか奇麗に輝きまぶしく見えて目をつぶってしまう。

俺はその手に自分の手を伸ばして.....払いのけた。


「パートナー?まずは説明をしろ」


その言葉に少し痛そうに手を引っ込めてミラは語る。


「私は騎士を目指しています、ですが私の国ではパートナーを見つけて騎士として一人前と呼ばれているのです、だから!...」


「分かったそれはいい、それよりも俺の利益は?」


凄く簡素な説明だったが、一応理解できた。

だが結斗にとってそんなことはどうでもいい、大事なのは自分に何の利益が得られるのかという事だけ。


「...生活には困りません、それに騎士としての栄誉を...」


「栄誉なんていらん、栄誉で食っていけるのか?栄誉で人を殺せるのか?そんなものに何の価値もない」


「欲しいものがあれば私が用意しましょう...知りたいことがあれば教えますし」


少し自信なさげにそういうミラ、こんな事で釣れるとはお持っていなかったのだろうが、実は結構効いていた。


(この世界の事が学べるか?...一般教養も重要...しかも生活にも困らない...受けてもいい.か?..)


この世界の事を結斗は本当に何も知らない、当たり前の事知らなければ嘘と真実を見抜けない。

この世界の当たり前を知らなければ、怪しまれる。

結斗が今目指そうと心掛けているのは、この世界で言う普通だ。

普通な一般人を目指し、陽菜の情報と勇者の情報を集め、一緒にこのごみクズにも劣る世界から日本に帰る。

それが結斗が考える道だ。


「いいだろう、パートナーをやってやる」


「本当ですか!」


「代わりにこの国の常識をいろいろと教えてもらう」


「?...この国の常識?他国や村と通貨の値段も同じですし、文化も同じだと思いますが?そんな必要ありますか?」


「いやならやめるだけだ」


「わ、分かりました!その条件でお願いします!」


嬉しそうに再び伸ばしてきた手に、今度は手を重ねる。


「...ああ...よろしく...」


若干躊躇しつつも結斗がしっかりと握り返した時、馬車が勢い良く止まり、体が若干ぶれた。

そっと視線を外に向けるとそこには城下町と天高く伸びる城が、夕焼けにより影が伸びている。

城の周りの水堀には跳ね橋が掛けられ、馬車が進んでいく。

揺られながら国ホワイトネクトの城下町へと入っていった。


                       ♯


馬車から降りミラに連れられて場内に案内される。

なんだろう?名前は言わないが某テーマパークにあるような本当に夢のような城で、城内も凄く広く天井にはシャンデリア、周りには支えるための6本の支柱に正面階段。

その正面階段を上っていくと、途中途中で騎士のような奴らとすれ違う、騎士ってのは男が多いと思っていたが案外女とすれ違う。

もしかしたらこの国は女騎士の方が多いのかもしれない。

そんなことを思いながら何度も身体検査をされて長い、長い階段を登り切り見えてきたのは階層丸ごと使った部屋。

そこには一つしか扉が建てられておらず、周りには何もない、ただ次に続く階段があるのだが...そこは酷く厳重に警備されていて、一人の兵士がミラを見ると笑顔で敬礼をした。


「ミラ様!お戻りになられたのですね!今回の依頼はどうでしたか?無事達成できましたか?」


「はい、予想通りあの村は黒、獣人に人の子供を捧げていました、一応生贄にされるはずの子供を保護して連れてきていますので、証拠は先に届けておきました、騎士長様に報告をお願いいたします」


「分かりました....?そちらの方は?」


「村の生贄にされていた一人です、王に被害者を一人連れてきてほしいと頼まれていますので」


「そうですか...分かりました、どうぞ入ってください」


騎士はその扉を力強く押すと、鈍い音を立てて扉が開く、ミラに続いてその中に入るがその部屋には誰もいなかった。

凄く生活感がある部屋なのは間違いない、ベッドに、少し散らばっている書籍、羽ペンが置かれた机と膨大な書物。

ミラはその中にある本棚2番目、右から3番目の一番目立たない本を抜き取り、奥まで指を突き立てると、「ゴトッ」と音がするとそこにはもう一つ全く同じ部屋が現れた。

その部屋には一心不乱に机に向けて何かを書き続ける白髪で長髪の青年がいた。

だが何故か目を開けていない、もしかしたら目が見えないのかもしれない。

だったらどうやって書いているんだろうか?


「ただ今戻りました王」


俺の手を引っ張て無理矢理跪かされた。

この女は何様だろう。


「おや?...この声はミラかい?よく無事に帰ってきてくれたね」


見えていないはずなのにどうして無事だとわかるのか、なんとなくいってるだけだろうか?


「隣にいる子は...君は...」


それだけ言って少し黙ってしまった。

その様子にミラは心配そうに王と俺を見比べて、口を開いた。


「どうかしましたでしょうか?」


「いや...何でもないよ、それにしてもごめんね、まだ仮騎士であるミラに個人的に依頼を頼むだなんて...」


「いえ、私から望んだことですので...」


「そっか...それじゃあ依頼料を...」


机から取り出した袋を手にミラに近づくと、それを拒否するようにミラは手を突き出した。


「受け取れません」


「...どうしてだい?」


「今回の件、私は何もしていないのと同義です、それに今回はあまりにも被害が大きかった...私は何も守れていませんでした」


暗い顔でそう告げるミラに、優しそうに王は微笑んだ。

その様子を見て本当にそんなこと思っているのか疑ってしまう自分は少し壊れてきているのではないかと、結斗は今初めて自覚した。


「...そうかい?けど、君のおかげで救われた人もいることを忘れちゃいけないよ」


「はい、ありがとうございます...今日は報告だけですので...もう行きますね」


「そうかい...また家族に報告をしに行くのかい?」


「...はい」


「そうか...」


お互い暗い顔をする、もしかしてミラの家族、シルバー家には何かあるのだろうか?

例えばミラにだけ酷く当たっているとか...

まあ、そんなこと関係ないか住処さえもらえれば後はどうでもいい。

ミラに続いて部屋を出ようとすると。


「ちょっと待って、君は少し残ってもらえないかな?」


「話がしたいんだ」


「...分かった」


「いえ、待ってください!結斗が残るなら私も!」


「ごめんねミラ、少し二人きりで話がしたいんだ」


「...分かりました...」


優し気に、それもこの国のトップに言われては言い返すこともできずミラは素直に引き下がった。


「結斗、くれぐれも失礼のないように、では失礼します」


ミラが一礼をして部屋を出ていくのを王が笑顔で見送り、王はほっと息を吐いた。

椅子から立ち上がると、近くのソファに座り込む。


「どうぞ座って、あ、ため口でいいからね?名前はなんていうんだい?」


目の前の席を手で指し示されて若干警戒しつつも腰を下ろした。


「結斗だ...で?この国の王が俺にいったい何の用だ?」


「いい名前だね...うーん、そうだねまずは一つ」


そう言って王は足を持ち上げて、日本で言う正座の態勢になると深々と頭を下げた。


「君を、君たちを助けることが出来なくて、大変申し訳なかった」


「.....」


「あのような獣人たちの暴走を許してしまったのは単に自分の力不足だ、本当に申し訳ない」


「...俺に謝られても困る..別に俺に害はないし、恨んでもな...」


「それは嘘だよ」


結斗の言葉を遮るようにして王は力強く口にした。

それは嘘だと、虚言だと口に出す。


「君は...心が壊れてしまったんだろう?」


それはまるで俺の事を全て見透かしているかのようだった。


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