第3話 少女
結斗が目を覚ますと、見えたのは木でできた壁、そしてベッド。
体の上には申し訳程度の毛布が掛けられていた。
「おや、目が覚めたんだね?ぼく」
それは日本語だった。
ぼやけた目で左を向くとそこには白い髪にちょっと肥満気味な体型のおばあさんがいる。
「ここは?...」
「イート村の孤児院だよ?」
(イート村?英語で...食べる村?)
なんだそれ、とか思ったが特につっこま無いことにした。
「どうして俺は...ここに?」
「近くの森で倒れてたからねぇ...連れてきたのよ」
「そうでしたか、ありがとうございます...」
「別にいいわよ、それより...傷大丈夫かしら?」
足には矢が突き刺さった跡が両脚に深々と残っていて、包帯でぐるぐる巻きにされている。
「怪我まで直してもらって...本当にありがとうございます」
(...ん?..あれ?右足怪我してたっけ...)
確か左足だけだった気がするけど、まあいいか。
気にしないことにして質問をしようと思った、この世界について、だが
「あれ?お兄さん目を覚ましたの?」
「大丈夫なの?」
「それよりご飯~!」
小さな人間の子供たちが、扉から入ってきておばあさんにすり寄っている。
それをおばあさんは笑顔で対応している。
それはとても微笑ましい光景、のはずだった。
(なんだろ...気持ち悪い)
一瞬おばあさんの笑顔が凄く張り付いたもののように感じて...それは助けられておいて失礼だし何も思はないことにした。
「そうだぼく?お腹すいてるでしょう?ご飯食べていきなさい?」
「いえ..ですが...」
「いいから、食べていきなさい、帰る当てもないんでしょう?」
「.....」
そのとおりで、何も言えなかった。
この世界じゃあお金の価値だって全く分かっていない。
食べ物もよくわかっていない。
その状況で一人で生きていけるわけがない。
「いつまでもここに住んでいいから、ゆっくりしていきなさい」
そのおばあさんの言葉が凄く胸にしみて、感謝の言葉が漏れた。
「ありがとうございます...」
おばあさんに連れられご飯を食べた。
見た感じどれも見たことがない食べ物ばかり。
ますますここが日本ではないことに確信をもてる。
「君、ぼくを部屋まで連れて行ってあげて」
「はーい!...行こ?」
「ああ、うん」
栗色の髪の小さな女の子が俺の手をつかんで、二階の奥の部屋まで連れて行ってくれる。
その時久しぶりに人の温かさを感じた。
「ここの部屋好きに使ってね、あ、ミラお姉ちゃんもいるから仲良くね?」
部屋に入ると、そこには薄い布の服を着た金髪の少女。
背丈は俺の少し下位だから多分年はたいして変わんないような気がする。
「それじゃ、私部屋に戻るね」
女の子はそう言って出て行ってしまった。
正直気まずいが、少女の目の前まで行って、結斗は自己紹介をした。
「えーと、俺は大河結斗です、こんにちは...」
「.....」
完全無視された。
若干胸が痛む。
けど今は...まあ別にいいや、疲れで歩くのがつらくベッドの上に倒れこむ、しばらくはここを拠点にして陽菜を見つけないと。
一度あの手をつかめたんだ、もう一度掴んで見せる。
ベッドの上に寝っ転がりながら、手を空に掲げると、バッと変なものが出てきた。
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スキル一覧
アクティブスキル:
パッシブスキル:
固有スキル:
称号:**勇者
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「なんだこれ...」
そうだこの世界は多分異世界、だったらゲームみたいにステータスが出てもおかしくはない。
けど普通ステータスって言ったら、HPとかが出るんじゃないのだろうか?
(それに...勇者って...何の勇者だよ...)
何故かぼかされていて、その前の二文字がよく分からない。
ただ一つ分かった、やはりここは異世界だってこと。
ならもう今からすることは簡単だった。
(もしここが異世界ならレベルとかの概念があるはずだ)
これからは陽菜を探しつつレベルを上げて、元の世界に帰る、いや元の世界に帰れなくてもいいから陽菜に会いたい。
(今日はもう遅いし、寝よう...)
ベッドの上でまぶたを閉じるとびっくりするほどすぐに眠れた、多分予想外なことばかりが起きて疲れていたんだろう。
そんな結斗を銀の相貌が真っすぐと見つめていた。
♯
この世界に来てから、三日がたった。
服はおばあさんにもらった布の服を着ている、正直ラッシュガードは凄く目立つからありがたい。
ちなみにここは孤児院らしい。
最近では栗色の女の子と仲良く遊んであげたり、本の読み聞かせという名のこの世界の字の勉強や、洗濯の手伝いなど一緒にやっていた。
あと今ではゴブリン退治を行っている、この前持ってきていた石の斧であいつらの脳天を潰している。
最近知ったのだが、ゴブリンは子供でも倒せるほど弱いらしい。
なので最近はゴブリンではなく、奥にいる何とかビーストを殺して、おばあさんからもらったナイフで素材をはぎ取っている。
ちなみにこいつがすごい強い、真正面から言ったら確実に殺されるので、丈夫な蔓でわなを作りつるし上げた所で殺している。
最初のころは殺す罪悪感があったが、今では全くなくなっている。
あとレベルはいまだに全く上がっていない、そもそもレベルがあるのかが分からない。
どうやるんだろうか?気になったが、誰に聞いても子供たちは知らなかった。
ともかく皮をはぎ追ってイート村の素材屋へ向かった。
村自体は小さな村で、傭兵がいて素材屋がある。
素材屋は魔物の素材を買い取ってくれるのだが...
「あの婆のガキがくんじゃねえよ!気色悪い!」
「ぐッ...」
平然と暴力を受けている、それでもちゃんと金はもらえる...いや、ばらまかれる。
(適正価格か分かんねえけど...)
この世界は全ての金が紙幣らしい、それぞれ数字と何かの建物、塔?の絵が描かれている、日本と大して変わらないみたいだ。
当然価値が大きくなると数字も大きくなる、獣の皮一つで10の書かれた紙一枚、ゴブリンの腕や足で1の書かれた紙が一枚。
ゴブリンの腕や足なんて何に使うのか...結斗には全く使い道が浮かばない
その後俺は武器屋に立ち寄った。
そろそろ武器を買って本格的に魔物を殺せるようになるべきだろう。
「らっしゃ...げ!てめぇ見たいな気色の悪いガキが武器屋によって何のつもりだ!!」
入って一番に嫌がられる、もう何度目になる事か...流石になれた。
「武器を買いに来ただけだが...」
「反乱でも起こそうってのか!!俺は何も売らねえぞ!!」
(クズばっかりか...なんでこんな嫌われてんだよ...)
意味が分からない、心の中で異世界人だと悟って嫌ってる?んなわけないか...
なんでだろうか、実際分からない。
ただ分かっているのはあの孤児院に住む者は、この村で嫌われていて差別的扱いを受けるってことだ。
「いいじゃねえか親父、売ってやれよ」
「おお、あんたか」
俺の横に立った大柄な男はこの村の傭兵をやってるやつで名前は確か、ボロン。
「ほらこれでも買えよ」
進められたのは鉄の剣、確かに今の俺からしたら、強い武器?だと思うが...
まあいいか。
「13枚だ...」
「ああ...」
親父の渋々といった声に、紙を支払い、鉄の剣を受け取った。
ずしっとした重みが手に伝わる、その後武器屋を出た瞬間、
「ぐッ!?」
内臓が悲鳴を上げる衝撃が結斗の体を軽々と吹き飛ばした。
体が地面に叩きつけられて、口から血が漏れて、鋭い吐き気に襲われる、手に持っていた鉄の剣が地面に落ちて突き刺さってしまった。
傭兵はその鉄の剣を握って引き抜くと、ニンマリと笑った。
「ありがとな...買ってくれて!ふはははは!」
そう言って俺の頭を踏みつけて、さらに力強くして踏みにじる。
「どけ...ぐッぅ!...」
すると周りからこの村の残り二人の傭兵が現れる。
それに呼応するように同じように村の人間が見物するように出てきた。
「ぐッ...」
「軽く締めてやれ」
「へい!」
「うぐッ!?」
倒れている結斗の腹部に鋭い蹴りが叩きこまれ、痛みで頭が真っ白になりそうだ。
そして耳いっぱいに埋め尽くされそうな暴言。
「二度とここに顔見せんじゃねえぞ!?」
「ふはははは!」
「いい気味だなクソガキ!」
「あんた気味が悪いんだよ!」
「うちの子に何かあったらどうしてくれんだ!」
石や卵をぶつけられて、木刀で殴られ結斗の顔が、体が傷ついていき、意識が消える。
ぼろ雑巾のようになってようやく終わる。
「もう二度とこの村に近づくんじゃねえぞ!」
傭兵共は笑ってそう、消えていき、村人共も消えていった。
ぼろ雑巾になって意識のない結斗を、隠れていた少女がじっと見つめていた。
意識が戻って見えたのは最初にこの家に来たのと同じ景色だった。
ただ違うのは、隣に金髪の少女...確かミラさんと、栗色の髪の少女がいて、心配そうにのぞき込んでいることだった。
「ん?...なんで?...ここは..孤児院?」
「...私が運んだのよ...」
初めて聞いたその声は予想より少し高めの声だった。
「そうだったんですか...ありがとうございます...」
「...ねえ...」
「何ですか?」
「あんな村...滅んじゃえばいいのにね...」
「そう..ですね...」
(本当に...滅んじゃえばいいのにな)
あんなごみ共この世界の害悪だ。
...いや、それは言い過ぎかもしれない、あんな奴らでも何か意味があると思いたい。
その時、ふと目に入ったのは、ミラさんが持ていた絵本だった。
「それなんですか?」
その絵本の表紙にはどこかで見た扉が描かれていた。
どこか少し形が違うような気がするが...もしかしたら手掛かりがあるかもしれない。
「子供向けの絵本よ、読み聞かせしてあげてたの...どうしたの?読みたい?」
「ええ、少し気になったもので...題名はなんていうんですか?」
「題名は『勇者の伝説:召喚』ね...」
「え?ちょ、ちょっと見せてください」
「いいけど...」
絵本を借りてみてみる、ページをぺらぺらとめくっていくとあるページに書かれていたのはあの扉で、勇者召喚の様子が描かれていた。
(陽菜は...勇者召喚されたのか?)
そうとしか思えない...それで俺は勇者召喚に巻き込まれた?
けどなんで陽菜と俺は別々の場所に召喚された?それだけが分かんない。
「お兄ちゃん、勇者様に興味あるの?」
栗色の少女が覗き込んでくる。
ナチュラルに膝に乗ってきて凄く可愛い、まるで人形のようだ。
「うん...そうだね、少し気になるんだ」
そっと優しく髪を撫でると、嬉しそうに女の子は微笑む。
「勇者様はね正義の味方でね!この世界を守るんだよ!凄くかっこよくてね!」
可愛らしく楽しそうに勇者の事について語る女の子にほっこりとした気分になる。
(俺が何かしらの勇者だって話したら驚くかな?)
なんて思ったけど、不用意にそんなことを話していいのか分からない。
今は止めておくことにしよう。
「そうなんだね、勇者様に俺も会いたいよ」
正確には陽菜に会いたい。
多分陽菜は勇者のはずだ。
「...さて、と俺はおばあさんのところに行ってくるね」
「うん分かった」
結斗は部屋を出ていく。
ミラは不思議そうに女の子に聞いた。
「彼...結斗だっけ?何しに行ったの?」
「お兄ちゃんの事?お兄ちゃんはね孤児院の為にお金を稼いでおばあさんに渡してるんだよ?」
食堂にはおばあさんと、束ねられた紙幣を握る結斗がいる。
「今日の分です」
「毎日ありがとうねぇ、ぼく?」
「いえいえ、お礼なんていいですよ、子供たちのために役立ててください」
そう言って笑顔で束ねられた紙幣を手渡した。
「ふーん...」
そんなことをするために虐待に耐え、お金をもらうために反抗もしない、なんていい人なのだろう。
だからこそ少しだけ心配になる。
「...そんなことしたって...無駄なのにな...」
♯
ここにきて4日目の朝、今日はのんびりと女の子と森の中で散歩をしていた。
何やら友達がけがをしてしまったので薬草を取りに行きたいのだとか、だが薬草はゴブリンの多い森の中。
心配だから一緒に行くことにした。
それが案の定正解だった、森に入って奥の方歩いていくにつれてゴブリンによく襲われる。
なので毎回いつもの斧で首を叩き斬っている。
「大丈夫?怖くない?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃんが守ってくれるもん」
そう言ってほほ笑む少女。
怖くないってのは自分の事をさしていたんだが、どうやら勘違いされてしまったようだ。
(守りたいこの笑顔...ってこういうのをいうんだろうなぁ~)
なんてふざけたことを思いながら森の奥を歩いていく。
「薬草ってどこらへんに生えてるの?」
「もうちょっと行った先にね、開けた場所があるんだよ、そこにはねお花が一面に広がっててねすごくきれいなんだよ」
「へぇ~楽しみだね」
「うん!」
元気よく返事をした少女の手を握って仲良く歩いて行く。
「そういえば名前はなんていうの?」
「...私...名前ないんだ」
「...え...」
「私名前を付けられる前に捨てられちゃったから...お母さんの顔も知らない、けど捨てたくて捨てたわけじゃないんだって...だから..いつか会えたら名前を付けてもらうんだ」
そう言って首に下げられていた翡翠のペンダントを静かに握りしめる。
「そのペンダント...」
「これは...捨てられたときに持ってた、お母さんとの唯一のつながりなんだ...」
「そっか...ごめんね変なこと聞いて」
「別にいいよ名前言わない私の方が変だもん」
その言葉のキャッチボールに酷く違和感を感じる。
それは全く齢10歳の少女の言葉ではない、まるで大人の言葉遣いと対応。
この女の子が孤児院に来るまでにどれだけ大変な思いをしたのだろうか、どんな目に合えば大人にならなくてはならない状況になるのだろう。
少し結斗は黙ってから、笑顔で少女を抱き上げた。
「今日はめいっぱい遊ぼっか」
今日くらい子供に戻ったように遊んだっていいだろう。
恥ずかしそうにしている女の子をそのまま抱っこして歩いていくと木々の隙間から陽の光が差し込んできて、見えたのは満開の花畑。
今の季節が咲くころなのだろうか凄く謎だ。
「わあ!~凄いねお兄ちゃん!こんなにお花が咲いてるの初めて見たよ!」
その口ぶりからしてどうやらこんな光景が見れるのは稀なようだ。
女の子はそこらじゅうを楽しそうに駆け回り、その後めずらしい花や薬草を摘んだりしている。
それを見ながら花畑に生えた一本の木に体を預けて、
「あまり遠くに行っちゃだめだよ!」
「はーい!」
それだけ聞いて結斗はそっと目をつぶった。
目が覚めたのは何か突発的な痛みと脳内に響く鈍い音だった。
眠そうに眼を開けるとそこには首を掴まれ持ち上げられている女の子、頭から血が垂れている。
状況を理解できず手を頭に当てると、生暖かいべとっとした感触。
掌を確認すると血まみれだった。
目の前の男達三人、全員しっている、そのうちの一人が血濡れの木刀を握っている。
どうやら殴られたらしい...そこで意識がしっかりと覚醒してきた。
「ッ!?...お前らいったい何のつもりだ!」
「あ?村に汚れが付かないように始末するのが傭兵の務めだぜ?勤めを全うしてるだけじゃないか?」
ボロン含む傭兵たちは本当に気色の悪い笑みを浮かべている。
「...分かった、もう村には近づかない...だからその子を放してくれ...」
「はあ?なんでだよ?俺達は汚れの始末をするのが仕事だぜ?だが始末のつけ方は決められてない、例えば―」
そう言ってボロンが俺から奪った鉄の剣を少女の首筋に当てる。
つまり今殺してしまう方が速いってことだ。
「こうしちまった方が速いよな?」
それはどうしたってもう救いようがない気がした。
全てこいつらの気分次第で生きるも死ぬも決まってしまう。
「けど...まあ、なかなか可愛い顔してるじゃねえか?俺の趣味じゃねえが奴隷賞に売ればなかなかの金になりそうだなぁ...なあ、お前もそう思うだろ?」
俺はこいつらの言葉に反応することなく、ただ地面に膝をつき頭を地面に擦り付けた。
「大変申し訳ありませんでしたもう村には近づきません、私はどうなってもいい...だから、その子は助けてくださいお願いします」
俺にはそれくらいしかできなかった。
何のために、何か悪いことをしたのか分からず、理不尽だと思いながらも頭を深く地面に擦り付けることしかできなかった。
「そうだなぁ、よく身の程も理解してるみたいだし?」
俺の頭を強く強く踏みつける。
その後目を見開いて結斗を鋭く睨むようにいやらしく笑った。
「俺達の練習台になってくれればそれでいいさ」
傭兵たちの不気味な笑い声があたりに響く。
これから行われるのは拷問といってもそん色ないものだった。
深夜、ミラは不安げに結斗と少女の帰りを待っていた。
普段ここまで遅いことは無かった、もしかしたら魔物に襲われているのではないかそんな心配から寝るに寝れず、ベッドに座って外を眺めていた。
星がきれい、なんて思っていると、ドアが鈍い音を立てて開いた。
「結斗!いったいどこまで...ってその子どうしたの!?」
そこには下を向いたまま動かない結斗が少女をお姫様抱っこしている、その少女の頭からは血が流れていた。
「頼む...ミラ...急い..で...」
「分かったわ!ッ!?」
少女を受け取ろうとすると、そのまま結斗が倒れるように抱き着いてきた。
「い、いきなり何!?...を?...結斗?...これ、何ですか?」
答えは分かっていたのに、現実逃避の為かつい、意識のない結斗に聞いてしまった。
ミラの目に映ったのは紅に染まった廊下と、まるで拷問後のような破けた服から見える数々の傷と突き刺さった矢に...ミラは言葉を失ってしまった。
「どうしてこんなことに...急がないと...」
結斗と少女をベッドに寝かせて、すぐに治療に入った。
目が開いた。
そして見えるのはまたいつもの光景。
何度目だろうかこんな風にここで意識が戻るのは。
ベッドの上、上半身を包帯でぐるぐる巻きにされていて、体を起き上がらせると背中に酷い痛みが走った。
背中を触ると手にほのかに血が付く。
(俺は.....ここまで来れたのか?)
ボロン達の拷問に耐え、少女を抱きかかえて...そこから記憶があやふやだ。
ただ、自分のベッドで寄りかかるように眠る二人の少女に
「ありがとう.....心配かけてごめんね」
聞こえていないと分かっていてもお礼の言葉を口にしていた。
♯
あの日。
倒れて運ばれた後のことミラによる治療が行われたらしい。
女の子が言うにはその腕はプロと遜色ないらしい。
なんでか気になったがそれは捨てられる前の何かで、俺にはそんな過去を背負える自信はないので聞かなかった。
ちなみに、俺は治療されてから何日も目を覚まさなかったらしい。
その為ミラと一緒にずっと見ててくれたようだ。
そんな思い出したくもない事があった日から3日後、結斗は目を覚ました。
その日のミラは、
「今日は一先ず寝てくださいね」
そう言ってくれて、寝た次の日尋問が始まった。
「どうしてあんな傷を負ったの?」
「.....魔物にやられた」
「斬りつけられた跡だったけど?」
「...ゴブリンって、斧とか使うじゃん」
「矢はどう説明する気?」
「...珍しいゴブリンで、弓を使ってた」
「今までゴブリンにそんな知性のある個体は発見されてないですよ?」
「.....」
「はぁ...どうせ村の傭兵達ですね?何故隠すんですか?」
どうして?そんな関わらせたくないからに決まってる。
何故か分かんないけどこのミラという人は正義感がすごく強そうで、言ったら何かしでかしそうな気がするのだ。
「...本当に、なんでもないんだ...」
「そこまで言うなら...わかりました」
「うん、治療してくれてありがとね」
そこでミラの尋問は終わった。
ただ、ここで気づくべきだった、結斗の愚かさと.....
隠れに隠れたその怒りを....
次の日朝早く、孤児院の掃除をしようとまだ痛む体を無理矢理起き上がらせた、その時だった。
「お兄ちゃん!」
突然扉がバンッと開き、いきなり女の子が抱き着いてきた。
若干背中の傷口が痛む。
「おわっ!...いきなりどうした?」
「いまから私ここを出てくから...最後に挨拶しようと思って...」
「里親が決まったの?」
「うん...」
少し寂し気に、でも瞳に期待を、希望を持っていた。
この孤児院では引取先を探しているらしく、決まればそこに送られてしまう。
(うれしいんだろうな...)
なんて思った。
今まで寂しかった分、これから愛情を注いでもらえればいいなって...柄にもなくすごくうれしかった。
自分の事ではないのに...凄くうれしくて、それでいてどこか寂しさが胸を去来する。
「1週間とちょっとだけだったけど...本当にありがとう!優しくてカッコイイお兄ちゃんが大好きだったよ!」
「うん、今日までありがとうね、幸せになるんだよ...」
この子のこの満面の笑みが見られるだけで、この傷を受けただけの価値はあるだろうなんて思えてしまって...俺は心の底から女の子に笑いかけると、優しく抱きしめて髪を撫でた。
これからこの子に幸福がありますようにと...