その夜は聖剣にて
それは、見えない殺意だった。
いや、正確には認知できるが、目で捉える事のできない殺意。
七の蒼剣が音も無く、空気を振動させ俺の心臓を穿とうと迫り来る。
躱す事は不可能、ならば手に握る剣で弾く。それも論外、殺意は見えない。それは完全に残像だけを視界に映すナニカ。この身では、その速さで飛行する物体を躱すのは到底無理な話だ。間違いなく、結末は死。
だが、
それは躱そうとするのならば、迎える幕引きだ。
「―――はあぁぁあっ!」
体内の魔力を思いっきり外へと吐き出す。その膨大な魔力に当てられた六の蒼剣は音も無く吹き飛び、その蒼を失う。
その次。
ずくり、と胸辺りから気味の悪い音と吐き出しそうな熱を感じた。
残りの一本がまんまと俺の胸を貫いたのだ。それは、終幕を告げるには充分すぎるほどの威力をもった一撃だった。
「ぐ、は―――ぁ」
「……ふん、どんな面白い最期を見せてくれるかと楽しみだったが、なんだ。以外と呆気ない」
対峙している黒服の男はそう言い、片手を上げると、地面に刺さっていた先程の蒼剣が宙に浮く。
「――――ッ」
慈悲はない。黒服は躊躇いも無く、その殺人を慣れた手つきで遂行する。
攻撃手段は変わらない。六本の蒼剣は弾丸じみた威力と速度を誇り空気より射出される。ならば先のようにすれば――なんてのは理想論だ。胸に剣が刺さっていてはもうどうしようもない。
……しかし、解答には既に辿り着いている。
――我は天鍵を所有する者――
「ホーリーゲート———開門」
俺がそう言ったとき、蒼の六剣は吹き飛び、内部を貫通した剣は消滅した。
夜の闇に光が生み出され、やがて光は渦となり純白の凱旋門とその形を変える。
「願う。私は、聖者である。
汝の力、天より賜りし聖なる力を我が剣に宿し給え」
――問う。其は何を以て力を欲するのだ。
この魔術に詠唱は要らず。故に、これは交渉である。
「我は意志を以て剣を摂る。――天に誓おう。
我は正義を想い、時には悪辣にすらなると」
…………―――承認。
その声は鈴のように凛としたモノで
否、それは己の全てを賭ける深く重い声。
「――――聖剣、作成……っ!」
と、手に持っていた無銘は、その唯一言のみで最強へと変化した。
「決して違うなよ――――?
次の一撃で、お前なんて三度は殺せる」
瞬間、俺の前方は純白の光に閉ざされた。